2-103.エピローグ-向き合った二人
その日の午後、のぞみはハイニオスの医療センターを訪れた。花束を持った彼女は、清潔感のある廊下を歩いている。
Ms.モリジマと書かれた名札のある病室の前で、のぞみは足を止めた。
扉は自動的に開き、ホーリプラックに座った
「こんにちは、森島さん」
のぞみは蛍に微笑みかけてから、クリアとマーヤを順に見た。
「ヒタンシリカさんとパレシカさんもいらしてたんですね」
のぞみの顔を見た瞬間、クリアの笑顔が消え、不快そうに顔をしかめた。
「また来たの?!」
クリアからは歓迎されていないことに気付いても、のぞみは無理やり笑顔を作る。
「はい、今日もお見舞いにきました」
「何度も来て、あんたどういうつもりなのよ!?」
「森島さんの容体が心配ですので……」
「自分がウザがられてるって、いい加減、自覚しなさいよ?」
「でも……森島さんが大怪我をした責任は私にありますので……どうしても放っておけません」
「冗談じゃないわよ!」
とクリアの怒鳴り声が病室に響いた。
「こんなことで許してもらおうなんて、虫が良いのよ!」
クリアが振り払ったせいで花束は床に落ちた。のぞみはあまりのショックに言葉を失った。
「私……」
仲裁に入ったのはマーヤだ。
「クリア、やりすぎじゃない?」
「マーヤ、ダメよ。この女、ちゃんとお仕置きしてやらないと、自分の過ちを理解できないのよ。Ms.ハヴィテュティーやMr.フェラーに何度も庇わせた挙げ句、怪我人がたくさん出たわ。この女一人を守るためにあれだけの作戦をするなんて、そんな値打ちないでしょ?」
中間テストの初日、のぞみの失態で面倒なことになった苦い記憶が蘇る。クリアは蛍の立場に立って考え、のぞみのために重体になってしまったことは、あまりにも損だと思い、腹を立てていた。
クリアに罵られているうち、のぞみは次第に情けない気持ちになってきて、目元に苦い涙が光り始めた。
「ごめんなさい……」
その時、蛍が言った。
「クリア、ちょっと外してくれない?」
信じられないというように、クリアが「蛍?」と答えた。
「マーヤも。ちょっと、二人で話したい」
「分かった、好きにすれば」
病室から出る前、クリアは余計なことを言うなとばかりのぞみを睨んだが、二人は躊躇うこともなく去っていき、扉が閉じる音がした。
二人きりの病室は、しばらく静まりかえっていた。のぞみは、自分の脈音と呼吸音だけを聞いていた。
のぞみは床に落ちた花束を拾うため、膝を折った。
花束を拾いあげ、床に散った花の片付けをしているのぞみを見て、蛍が軽い溜め息をつくと、先に声を出した。
「クリアが言ったこと、気にしなくていいから」
のぞみは頭を下げた。
「森島さん、ごめんなさい……
「何日目?もう聞き飽きたわ」
「はい、ごめんなさい……」
「ったく、そのすぐに謝る癖、どうにかならない?」
「そう言われても……」
のぞみの女々しい態度に耐えきれず、蛍が突っ込む。
「言ったでしょ?怪我をしたのは私の問題。敵に倒された私の力不足が原因よ。いつまで詫びる気?」
「でも……申し訳ないことをしたのは事実です……」
「傷を負うことなんてもう慣れたわ。それに、ヒーラー長の先生が見事に治してくれた。あんたはもう何も気にしなくて良いのよ」
「……あの、ハヴィー姉さんが森島さんに救急処置をした時に見たんですが、森島さんの骨の一部は、金属製なんですか……?」
その質問を聞くと、蛍は心をグッと掴まれたような気持ちになった。それからそっと目線を外し、のぞみに語り聞かせる。
「ああ、ヤングエージェント時代の遺物よ。予想外の敵に遭遇しちゃって、斬り倒されたの。脊椎のダメージが酷くて、機関の長官に救い出された時、『
「それは、森島さんがかつての戦いで得た、機関からの栄典ですね」
蛍はそれを、自分が未熟であった証だと思ってきて、思い出したくもない過去だった。だが、のぞみにそう言われて、グッと胸が熱くなった。だけど、それを認めるのも悔しくて、蛍はついのぞみに対して冷めた態度を取ってしまう。
「別に、そんな偉い話じゃないわ。それにしてもあんた、本当に暇人ね?今日でここに顔を出すの、何日目よ」
「ちょうど一週間、毎日来ています」
事件当日、蛍は医療センターに輸送されたのち、すぐにホーリープラックの手術を受けた。金属骨の修復を含め、五時間にも及ぶ手術を受け、彼女の体はもうほとんど全快している。まだ入院しているのは、リハビリ治療を受けるためだ。
「あんた、どれだけ実技の稽古サボってるのよ」
「お見舞いの後にちゃんと稽古を受けてますから、大丈夫ですよ」
「私はここでリハビリするしかないけど、あんたは私に付き合って無駄な時間を費やすより、もっと自分のために使いなさいよ」
のぞみはこれまで気になっていたこと、気付いていたことを、今なら蛍に面と向かって言える気がした。
「以前から思っていたんですが、森島さんはよく私のことを気遣ってくださいますね?」
「別に、そんなんじゃないわよ」
「私のためを思って、他の人よりも特別に、厳しく教えてくださるんでしょう?」
蛍はのぞみの純粋な想いを聞いて、これ以上、天邪鬼を押し通すことはできないと観念した。
「それは、あんたを見てるとちょっと、未熟だった頃の私を思い出すのよ……だから、私と同じ
蛍の告白を聞いて、のぞみはときめいたように、見開いた目の中にちらちらと光を揺らしている。
「やっぱり、森島さんは優しいですね」
のぞみは気分転換するように言う。
「よし、決めました。私はリハビリが終わるまで、毎日来ます」
「毎日?!来なくていいわよ!」
「いえ、来ます」
「もう……。あんたのその変哲な頑固さには負けるわ」
心がくすぐられた
第二章 完 つづく
ウイルター (WILLTER) 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女 響太 C.L. @chiayaka1207
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