第7話 魔女は頑張る

 「俺的には合格だけどな」


 「はあ…」


 そんなやり取りに私達は首を傾げたまんま。


 私達はお昼に行った喫茶店に逆戻りしていた。今度はしおんさんと男の人を含めた四人で。


 「ああ、ちなみに俺はねじき ゆうやだ。しおんとは同じチームで”剣士”やってる」


 「「はあ」」


 私とかんな相も変わらず状況が飲み込めないまんま。


 おごってくれるらしいので、それぞれ思い思いに飲み物を頼んでいたのだが。


 男の人、ゆうやさんは相変わらず人懐っこい笑みでにやっと笑うと。



 「


 

 はあ……。


 はあ…………?


 「え?」


 「ええ?」


 「ごめんね、唐突で。こういう奴だから」


 なお、呆ける私達に、しおんさんは軽く手を合わせて呆れようにそう言った。


 私はちょっと驚きつつ、かんなの様子を横目で窺う。こんなの初めてだし、相当動揺してるのではなかろうか。


 そう想いながら、私の目に映ったかんなの姿は。


 「え? あ? うお? え、えーと……そ、それは」


 めっちゃ動揺してた。期待を裏切らない友人である。


 「え……と、理由を聞いてもいいですか?」


 かんなへの助け船がわりに、私がゆうやさんに質問を返す。


 そんな私に、かんなはそそくさと身体を寄せてきた。肩の少し後ろに回って、対面の二人の様子を窺っている。なんだ、隠れてるつもりか。というか、かんながメインの話なんだけど、隠れてどうする。


 「理由? 面白そうだったから」


 「ごめんね、こういう奴なの」


 にやにや笑うゆうやさんに、しおんさんが軽く手刀を振り下ろす。ゆうやさんは「いて」と言って、首を傾げたが、にやにや笑いは崩してなかった。


 うーん、どうにもゆうやさんは変な人っぽい。しおんさんはまともそうだけど、大丈夫かな。


 「そんなこというなら、自分で勧誘理由言えよ、なあ


 「はあ……」


 わざと強調された先生という言葉に、しおんさんが顔をしかめつつも。


 少しうなってから、私の肩越しのかんなを見た。ちょっと厳しめの表情なのは……あれ、照れてるからじゃなかろうか。


 「えーと、梅ノ木かんなさん」


 「は……はい」


 私の後ろでびくっとかんなが震える感触がした。


 「今日の試合、とてもよかったわ。魔力量も凄く高いし、短い攻防だったけど、予想外の動きが多くて、驚かされた。それで……もしよかったらうちのチームに入ってくれない?」


 ……。


 相変わらずちょっと厳しめの表情で、怒っているかのようだけど、セリフはちゃんと褒めてくれているから、まあ、照れているだけなのだろう。かんなを褒められると、なんでか私までちょっと照れてしまう。


 それを聞いたかんなは……私の服の裾をぎゅっと掴んだ。


 ……ちょっと、震えてる。


 「あの……」


 漏れる声が少し、小さくなってる。


 「私……えと……最初、集団戦のチーム入ってたんですけど……」


 震えて、声がさらに細くなる。


 仕方ないので、そっと背中に手を回して撫でておいた。ローブ越しにかんなの身体も少し震えているのが分かる。


 「その……私……ちょっと魔力強すぎて……気持ちが抑えきれないことがあって……それで辞めちゃって……」


 初心者たちが集まった、小さな小さなチームだった。かんなも最初はそこで上手くやろうと頑張ってた。


 でも、気持ちが抑えきれなくて、冷静になれなかったかんなは、試合中に暴走してそれが原因で負けてしまった。


 そこからメンバーとうまくいかなくなって、辞めてしまうことになった。


 別に悪い人たちではなかった、ただ、そういったいざこざをカバーする経験が足りていなかった。


 ただ、それだけの話だ。


 でも、かんなにとってはちょっとしたトラウマめいたものになっている。


 あれから一月半、かんなは個人戦に絞って活動をしてる原因でもあるのだけど。


 ゆうやさんはちょっと困った顔をしてた。


 しおんさんは……不思議と真っすぐな瞳でかんなを見ていた。


 「それでも……」


 背中に触れていた手がふと、震えなくなった。


 かんなを見ると、背筋がすっと伸びていた。少し涙目だけど、じっと前を、しおんさんを見ている。


 「 


 私の友達は。


 梅ノ木かんなは。


 一杯悩んで、一杯泣いて。


 でも、へこたれない。


 しおんさんが軽く息を吐いて、微笑んだ。


 ゆうやさんが、ニヤリと笑って手を差し出した。


 「こちらこそ、どうぞよろしく」


 かんなもぎゅっとその手を両手で握り返した。


 思わず私まで笑顔になる。


 「それから、一つ心配しなくていいのは」


 ゆうやさんは手を握ったまま、また笑った。


 「君の気持ちも、君の魔力も、紛れもなく君の武器だ。足手纏いになんてならない。何事も活かし方次第だ」


 それから隣のしおんさんを、ちらっと見て、それにしおんさんも笑い返した。


 「そんで、俺もしおんも、そういうのを考えるのが大好きでね、色々試していこう。よろしく、かんな」


 「は、はい!!」


 かんなの声が明るく楽しそうに答えを返した。関係ないのに、私まで嬉しくなってくる。


 よかった、ちゃんとかんなの価値を見つけてくれる人が、いたんだね。

 

 「あ、ちなみにそこで関係なさそうな顔してるけれど、誘ってるのは君もだからな?」


 「え? 私」


 「そうそう、名前は?」


 「え……と、まりです。柊 まり。……て、え? 何でですか?」


 「なぜならうちは今、絶賛、事務担当募集中だからだ! ついでにかんなちゃんのこと分かってる人がいた方がいいだろ?」


 「で? え? あ? でも」


 「えーーーー?!?! まりやらないの? 私だけで行かせるの?!」


 「あー…………はい、やります」


 「「いやったーーーー!!!」」


 「あんたら仲良くなるの早くない?」


 「あはは、かんなは気が合う人とは一瞬で仲良くなるんで、喧嘩になるのも早いですけど」


 「やっかましいよ、まり!」


 「いやあ、いい子、いい子。かんなちゃん、思ったよりいい子だ。何よりノリがいいのはいいことだぜ?」


 「そう。ま、こんなあほなチームだけど、改めてよろしくね。まりさん」


 「あ、はい、よろしくお願いします」


 「私も! 私も! よろしくお願いします! 先生!!」


 「はい、よろしく……ほんと、先生は止めてね? かんな?」


 「いいじゃんかなあ? 先生ってなあ? 尊敬されてるぅーっ、しおん先生ー」


 「うっせえ、ぶっ飛ばすぞ」


 「しおん、剝がれてる、剥がれてる。ほぼ初対面の2人相手に仮面、剥がれかけてる」


 「うっさい、いいのよ。どうせあんたにしか私、こんな口悪くならんから」


 「「……こわーい」」


 「このバカみたいに、変なことしなけりゃ、何も言わないから大丈夫よ」


 「「……はーい」」


 「俺、腐ってもリーダーぞ? ひどくねえ?」


 「いい? うちのリーダーの話はね、魔導戦のこと以外は適当に聞いてていいから」


 「「はーい」」


 「くっそう、先生ポジションがいたについてやがる……」


 「ふふ、ま、でもほんと入ってくれてよかったわ。面白くなりそうだし」


 「ああ、どんなチームになるかね、楽しみだ」


 「「はい!」」


 こうして、私とかんなは、ゆうやさんとしおんさんのチームに入ることになった。


 かんなが魔導戦を初めて、まだ二か月。


 出来ないことはたくさんあって、まだまだ道は始まったばかり。


 端から見れば全然未熟で、でもそれでも、かんななりに少しずつ前に進んでる。


 これはそんなちょっとした成長の物語。


 万を超す人の命運とか、世界の頂点とか、この世の全ての魔法の秘密とか。


 そういうのは別に関係ない、私たちが頑張るそんなお話。








Tips:魔導刻印:主に円形の文様で構成される刻印。これに魔力を流すことで魔導が成立する。刻む場所は手・足が主だが別にどこでもいい。使用者の魔力量により刻める刻印の限界数が決まっており、限界数を超えて刻まれた刻印は起動しない。人類の刻印数の平均は3であり、一般的には1~5の間で変動する。思春期までに順順で成長し、成人以降は基本的に変化がない。40年ほど前に”魔導刻印の数と神経症的傾向”という論文で、有体に言えば、魔導刻印の量が極端だと、それに応じて情緒も極端になるという論文が発表され、話題になる。これ以降、過度に魔導刻印が多い・少ないと情緒に問題があるのではという偏見が生まれるようになる。ちなみに、論文の結論は関係があると言えばあるが、それで全てが決まるわけではないというものだった。今回、刻まれていた魔導刻印は、以下の通り。


かんな”光撃””爆破””炎熱””防壁””回復””誘導”

しおん”光撃””衝波””防壁””回復””迅化”


刻印は必要に応じて刻み直せるが、時間がかかるうえ、めちゃくちゃ痛い。凄く痛い。死ぬほど痛い。もうやりたくない。

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魔女は! 杖で!! ぶん殴る!!!~Witch hits with a wand!~ キノハタ @kinohata

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