SS 高校時代

 二人が付き合ったと知り、僕は必要以上に距離を取っていた。綿島さんに教わった真実が無かったら、一体どこまで図々しくなっていたのだろうか。考えるだけで恐ろしいと思う。


 高校一年から二年になっても、僕は二人から距離を取り続けた。いや、意識して距離を取っていたのはきっと僕だけで、二人は何の変化も感じていないのだろう。二人のオプションにすらなれていなかった、多分これが現実なんだ。


「修学旅行、どこ回ろっか」

「……定番でいいよ」

「そうだね」


 やる気も覇気もない、そんな男だけのグループだけど、居心地はすこぶる良かった。巴絵との関係を詮索されることもなく、武大が在籍する空手部が近くに来るだけで「乱暴者が来る」と逃げてしまうようなグループなのだから、当然ともいえよう。


 修学旅行一日目はバスツアーの延長みたいな感じで、クラスごとに行動をし、そして宿にて身体を休める。女子と仲の良い男連中は、女子のフロアに行こうとしてたみたいだけど、ことごとく先生に阻止されていた。


 でも、僕は知っている。


 本当に仲の良い男女は、宿を抜け出して二人だけで会っているんだ。

 巴絵の姿も見当たらなかったから、多分そういう事なんだろう。

 きっと今頃武大と二人、どこかに行ってるんだ。



――――八子巴絵



「……武大君」

「よ、巴絵も抜け出してきたのか?」

「ううん、友達と約束してたんだけど。おかしいな、一階の自販機前って言ってたのに」

「スマホの所持禁止だと、連絡取れなくて辛いよな」


 約束してたはずの女友達の姿がない代わりに、武大君が待ち合わせ場所にやってきた。

 最近、こんなことが多い気がする。意図しない時にふっと武大君が来るんだ。

 もちろん武大君でも嬉しいけど、京太郎君だったらもっと嬉しかったのにな。


「明日はどこ見て回る予定なんだ?」

「清水寺から始まるコースだよ、武大君は?」

「俺のグループは嵐山の方に行くって言ってるんだよな。清水寺の方が間違いないと思うって言ってるんだけどさ、誰も俺の言うことなんか聞いてくれないんだよな」

「ふふっ、意外と周りに合わせるんだね」

「そりゃあ、な。まぁ、でももし良ければ、巴絵と二人で回っても――」

「あ、先生見回りに来たよ、部屋に戻らないと」

「――うげ、生活指導の馬田か。見つかったら長いな……。巴絵、俺が先に行って見つかってやるから、その隙に行っていいぞ」

「え、なんで? 私も一緒に戻るから、大丈夫だよ」

「いやいや、アイツ難癖つけて説教長引くぜ?」

「だからって、武大君一人に押し付ける訳にはいかないよ」


 幼馴染なんだから、怒られる時は一緒じゃないと。

 そう思って覚悟を決めてたんだけど……馬田先生、他の生徒を見つけたみたい。

 おい! お前ら! って叫びながら、どこかに行っちゃった。


「……ラッキーだな。今の内に部屋に戻るぞ」


 ラッキー、かな。馬田先生に怒られてるの、よく見たら約束したはずの女の子だった。

 彼女の横には男子の姿もあって……お友達、じゃないよね、きっと。

 高校二年生なんだから、交際が始まってても何もおかしくなんかないんだ。

 ……京太郎君。


「――晴島高校の生徒として、礼節を重んじる行動を心掛けるように。では、解散!」


 長かった話も終わり、ようやく始まったグループごとの自由行動。てっきり、皆で一緒になって行動するかと思ってたのに、始まってすぐに「ごめん」って言って数人の女子がグループから離れて、どこかで約束してたであろう男子と共にどこかへ行ってしまった。


 当たり前のように決めごとを守らない事に驚いたけど、正直なところ羨ましかった。

 私も京太郎君と二人でどこかに行きたい、同じ場所を歩くのでも、京太郎君となら違う景色になるって、そう思えるのに。


(どこかで一緒になれますように)


 神社でこんなお願い事をしちゃ、ダメだよね。

 でも、神頼みでもしない限り、絶対に一緒にはなれない様な気がするし。

 そんな不埒な願いだったのだけど、京都の神様は以外にも優しいみたいだ。


「木刀、買うの?」

「かっこいいし、防犯になるからなー」


 露天の土産屋さんで、誰一人欠けることのない男子のグループの中に、彼の姿があった。

 神様にお願いしてから僅か三十分も満たないのに、もうお願いって叶っちゃうんだ。

 声を掛けようと思ったけど、楽しそうにしてるし……私も友達いるから、迷惑かな。


「……あれ? 皆?」


 人でごった返してる京の街並みで、気付いたら一人。

 京太郎君に見惚れてたせいか、私だけ流れが止まっちゃってたみたい。

 どうしよう、スマホを鳴らしても全然出ないし……そもそも、私達の人数少なかったしな。


 沢山の人込みの中での一人ぼっちは、なんだかとっても怖いと感じる。

 このまま誰とも合流出来なかったらどうしよう。

 一人でいるところを補導とかされたりでもしたら、皆に迷惑かけちゃう。


「……巴絵? なんで一人で」

「京太郎、君」

「他の女子は? ……人の流れが早いから、あっという間に皆いなくなるよね」

「……うん」

「次はどこに行く予定なの? 僕達八坂神社行く予定なんだけど」

「同じ場所、だよ」

「そっか、じゃあ一緒に行動した方がいいかな……巴絵が良かったらだけど」


 是非とも一緒に行動したい、ずっと遠かったから、最近とっても遠かったから。

 手をつないで歩いたら、周りの風景も全部変わりそうな気がするのに。


 ……手、握っちゃおうかな。

 昔は一緒に歩く時は、絶対に握ってくれたよね。

 今もきっと、握っても怒らないはず……。


「いた! 巴絵、あんた一人でどこ行ってるのよ!」

「……あ、ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって」


 握ろうと思った手を、慌てて引っ込める。


「氷鏡君たちもごめんね、巴絵が迷惑かけちゃってさ」

「……いいよ、大丈夫。僕達幼馴染だから」


 幼馴染……私が困ったら、どんな状況でもきっと、京太郎君は私を助けてくれるんだろうな。

 でも、私はそんな関係じゃなくて、もっと上の関係になりたいって思ってしまう。

 胸のペンダントには、今も貴方の写真が入ってるんだよって……伝えられたらな。


「ほら行こ、時間間に合わなくなっちゃうよ」

「……うん」


 段々と遠くなっていく京太郎君……今、告白できたら、どうなってたのかな。

 ……別に、焦る必要はないよね。

 京太郎君はいつだって側にいて微笑んでくれるんだし。

 私達の幼馴染って絆は、絶対に強いんだって、信じてるから。

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だから僕達は幼馴染を辞めた。『コミカライズ決定!』 書峰颯@『幼馴染』コミカライズ進行中! @sokin

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