第11話 特別業務その名も今宮サポート

 「櫻井君、この書類をまとめてくれないか?」

 「分かりました」


 今宮に指示をされ、俺は机の上に乱雑に置かれていた書類をせっせとまとめていく。

 その様子を今宮は、少し笑みを浮かべながら見ていた。何を思っての表情なのか、それが気になって仕方がない。

 俺はそんな今宮をチラチラと見つつ、一枚一枚内容を確認しながら順番に資料を重ねていく。

 今宮に見られながらの仕事と言うのは、何とも言えない緊張感を感じるものだが、俺が出来る人間だと言う事は、しっかりとアピールしておきたい。


 そんな思いで必死に資料をまとめていたのだが、気づいた時には既に今宮は自分の席でパソコンをカタカタと操作していた。

 モチベが下がってしまったが、まだまだチャンスはあると思って作業を続ける事にした。

 

 そしてお互いが黙々と作業をする中、俺はある事に気づいてしまった。

 

 あれ、よく見たらこの部屋の中って……俺と今宮だけだよな。

 少し辺りを見渡しながら、そんな事を考える。

 まあそれも当たり前か。ここは今宮専用の部屋だしな。

 

 俺が今いるのは今宮のみが使われる事を許されている仕事部屋。その名も今宮ルーム。企画から開発までオールマイティに仕事をこなし、次々とヒット商品を生み出してきた天才中の天才。それだけのステータスがあって初めて貰える部屋がここだ。

 

 中も他の部屋とは違い、いろいろな資料やパソコンなどが充実している。

 今宮と言う存在が、かなりこの会社から大切にされていると言う事が分かった。


 「あの、資料まとめ終わりました」


 色々と考えてはいたが、手はずっと動かしていた。

 その為、予定よりも遥かに早く作業を終了させる事が出来た。


 「流石だね。じゃあ次は、こっちの作業を手伝ってもらおうかな」

 

 今宮がそう言うと、自分の隣の席に座れと言うジェスチャーをしてきた。

 俺はコクリと頷き、その席へと移動する。


 そして今宮が席についた俺に、小さく耳元で囁く。


 「最近、櫻井君の雰囲気がとても変わったように見えるんだけど……」


 そう言った今宮の息が、俺の耳に直接かかってきた。

 二人きりの部屋、至近距離の俺達、そして耳元で感じる今宮の吐息。

 俺の中で男の本能が最頂点に達しようとしていた。


 だがそれを、俺は自分の中の理性で必死に止める。

 この場でもし俺が今宮に対して過ちを犯してしまうと、これまで培ってきた自分の努力を全て台無しにしてしまうと思ったからだ。会社での立場や今宮への評価、そして何より乃亜に迷惑をかけてしまう恐れがある。

 そんな事を考えてしまっては、絶対に過ちは犯せなかった。


 「気のせいじゃないですか?」

 「いや、そんな筈はないよ。私の観察眼は、常人とは比べ物にならないくらい優れているからね」

 「……そう言われましても。特に変わった事もないですし」

 「本当かな?何か私に隠している事とかあったりしないか?」


 今宮が白状しろと言わんばかりの表情で、俺の事をじーっと見てくる。

 至近距離で見つめられると言うのは、かなりドキッとするものだ。


 しかし、ドキドキなんてしている場合ではなかった。

 今宮は何故だか俺の生活の変化に感づいているようなのだ。

 乃亜との生活で、毎日健康的な食事を取るようになったから顔色が良くなったとかそう言う事か?それか前までシワだらけだったワイシャツが、最近では毎日アイロンが掛けられているからそれでなのか?考えてみれば色々と生活の変化は目に見えるところでも現れていた。


 「強いて言うなら、生活習慣を改めたってことくらいですかね」


 咄嗟についた嘘。

 こんな嘘があの今宮に通じない事なんて分かっていた。

 それでも嘘を付かなければならなかった。

 まだ今宮には、乃亜の事を話そうとは思えなかったのだ。


 「そっか。仕方ないね。今はそう言う事にしておいてあげるよ。でももし、誰かと付き合っているのなら私には隠さないで欲しいな」

 「何故です?」

 「何となくだよ。私、隠し事とかされるのあんまり好きじゃないんだ」

 「……そうっすか」


 そう言った今宮は、パソコン画面へと目線を変える。

 今宮から言われた言葉に少し違和感を感じたが、その場ではそう返事をした。

 そんなやり取りの後、俺も普通に仕事へと戻った。

 

 そして作業のペースも特に問題はなく進み、定時で上がる事が出来た。


 「櫻井君、今日は本当に助かったよ」

 「いえ、俺はそんな大した事はしてませんよ」

 「櫻井君は本当に謙虚でいい人だね。そこが危うくもあるし、勿体なくもあるのだけれど」

 「どう言う意味ですか?」

 「それは自分で考えた方がいいな」


 今宮がニコッと笑い、俺の前を歩いていく。

 俺はその意味深な言葉の意味を考えながら、無言で今宮の後ろをついていった。

 会社の出口が見えてきた時、俺は乃亜からのアドバイスを思い出す。


 「今宮さん、ちょっと聞いてもいいですか?」


 俺の言葉に、今宮が足を止め後ろを振り向く。

 そして少し近づいてきて、俺にこう言う。


 「何かな?」

 「ええと……、今宮さんが抱えている仕事の事で聞きたい事があって」

 「いいよ。何でも聞いて」

 「ありがとうございます。あの、今宮さんが抱えている仕事で一番難しい仕事って何ですか?」


 俺は真面目な顔でそう聞いた。

 すると、今宮がクスッと笑いながら言葉を返してくる。


 「一番難しい仕事かぁ。やっぱり……愛とは何かについて考える事かな」

 「え?」


 その意味不明な答えを聞いた俺は、どう返答すればいいか分からなくなっていた。今宮は俺の反応を見て、クスクスと笑っていやがった。


 「今宮さん、俺を馬鹿にしているんですか?」

 「そんな事ないさ。私は本気だよ。愛とは一体何なのか、私は知りたいんだよ」

 

 今宮が真剣な表情でそう言ってくる。

 何故そこまで愛について知りたいのか、俺には深く聞く勇気はなかった。

 きっと今宮にもいろんな思いがあるのだろう。

 なので俺は、小さく一言だけ返事をした。


 「難しいですね……」

 「だから私の抱えている仕事の中では、一番難しい仕事なんだよね」

 

 俺は頷く事しか出来なかった。

 すると今宮が、ある課題を俺に出してきた。


 「突然だけど櫻井君、明日の私のサポート終了時間までに櫻井君なりの愛についての答えを私に聞かせて欲しいかな」

 「まじですか」

 「まじだね」


 そう言って、今宮がそそくさと会社を後にした。

 俺も少し色々と考えた後、会社を出た。

 

 

 

 

 


 

 


 

 


 

 

 


 

 


 

 


 


 


 

 

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未来からやってきた女子高生が(たぶん)俺の娘らしい チョコズキ @shirousagi406

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