32杯目

連続更新2日目です。

まだの方は、そちらから続けてご覧ください。



「じゃ、行こうか」


「はい」




10月になったばかりの火曜日の定休日。明日もお休みで、喫茶店 太陽にしては珍しい連休。


そして明日は、私の27歳の誕生日。


そんなタイミングで、出かける恋人同士。




どこへ向かうかというと。




ガタンゴトンガタンゴトン。


二人で並んで、電車に揺られて1時間半。


高いビル、立派な街路樹に挟まれた大きな道路。




以前私が働いていた会社がある街より大きい。つまり、私が人生で足を踏み入れた中で、一番の都会。




「俺が前にレストランで働いていたって話したことあったかな?そこでお世話になっていた方が、もうすぐお店を離れるって聞いて、その前に一度花子ちゃんにも会ってもらいたいなと思って」




連休に入る前、和宏さんにそう言われたので、七絵ちゃんと相談して、当日着ていく服を決めたんだ。移動も多いから、ヒールが低めの歩きやすい靴と、お気に入りのワンピースに、調整用にカーディガン。




まだ夏の暑さも、秋の風も、両方感じられる季節。背中まである髪は、風で乱れないようにシュシュでひとまとめに。だけど、お店の時とは違って、少しアレンジもしたし、前に垂らしているので、いつもとは雰囲気が違う、はず。




今朝、私のアパートまで迎えに来てくれた和宏さん。


「髪もスカートも、いつもと違う……うん、こういう花子ちゃんも可愛いね」


そのまま玄関で軽く唇を重ね……ようとして、自重してくれたのが面白かったなぁ。いつもより気合いれたメイクだったの、分かってくれたのかな?


カジュアルだけど、いつもより気合の入った和宏さんも素敵ですよ、と私が言うと、笑ってありがとうって言ってくれたね。


「緊張してたけど、今ので楽になったよ」


って言うから、二人でまた笑いあって、アパートの階段を下りていった。




そのまま手を繋いで、駅まで行って、電車を乗り換えながら辿り着いたのは、ビルの上階にあるレストラン。




「わぁ……」


思わず声が出ちゃう。喫茶店の規模とは全然違う、大きなビルの中にあって、窓から見える光景も、色づき始めた街路樹を見下ろせるくらい。


オフィス街の普段のランチにはちょっと高いけど、ゆっくり食事を楽しむとか、デートに使われるような、落ち着いた雰囲気に、慣れない私は入口だけで緊張が増してきた。




「俺さ、高校出て、料理の専門学校通って、そこの先輩の紹介もあって、ここに勤めたんだ。今日会う山川さんは、その時に指導をしてくれた人でね……」


「久しぶりだな、山田」




お店の入り口で立ち話していた私達に、中から声がかかった。




「あ、山川さん。ご無沙汰しています。えっと、こちらは……」


「まあ、いいから、とりあえず中にどうぞ。お連れの方がいると聞いてるから、窓際の席を用意してみたんだが……ようこそ、いらっしゃいませ」


「ありがとうございます」


ぺこり、とお辞儀をしてお礼を伝える。




「山川さん、お気遣いありがとうございます。そういえば……」


話ながら店内へと移動する二人についていきながら、店内を見まわすと、お昼には少し遅い時間だからか、ゆっくりとお茶を楽しむ女性グループや、商談なのかスーツ姿の人がいるけど、喋り声もBGMと混ざり合ってしまうくらい、落ち着いた雰囲気。




「花子ちゃん、どうぞ」


いつの間にか予約席に案内され、椅子を和宏さんが引いて待っていてくれた。


ありがとうございます、と座ってみたけど……こんな風にしてくれること初めてかも!と内心はドキドキが止まらなくて、にやけそうになる表情がバレないようにするのに必死の私。




「えっと、じゃあ、改めて。こちら、うちのお店で一緒に働いている山本花子さんです。俺が大変な時に、ちょうど引っ越して来て、お仕事探しているタイミングだったので、お願いしてうちで働いてもらったんです」


「山本花子です。いつも山田さんにお世話になっております」


「ご挨拶ありがとうございます。私は、この店で、山田の指導をしておりました、山川と申します。山田がご実家の事情で辞める時は、心配していましたが、こんなに素敵な人と一緒に働いているのなら安心ですね」




営業スマイル、には見えない優しい笑顔でご挨拶してくださった、山川さん。和宏さんも、気のせいか、いつもよりリラックスした表情で嬉しそう。




「こちらのメニューをどうぞ。この時間は、デザートか軽食になりますが、どれも当店の人気ですので……」




渡されたメニューブックも、さすがレストランといった装丁で手触りも、好き。


山川さんのお話を耳に入れながら、開くと、見慣れたケーキがあった。




「あ、チーズケーキ」


「これ、俺がここにいた時からずっと人気なんだよ」


「私、これをお願いします」


「じゃあ、俺も同じで。飲み物は……ホットのブレンドをお願いします。山本さんはカフェオレ?」


「あ、はい。カフェオレ、私もホットでお願いします」


「かしこまりました、チーズケーキ2つに、ブレンドとカフェオレ、どちらもホットですね。少々お待ちください」




メニューを受け取って、丁寧なお辞儀をして、山川さんはキッチンへと戻られた。




「……あのチーズケーキ、うちのお店で出してるのと同じの、ですよね?」


「同じというか、レシピは真似したけど、機械なのか材料なのか、やっぱりここの方が美味しいんだよ。楽しみにしててね」


「はい」




真っ白なクロスがかけられたテーブルに、小さなお花を一輪。窓からは外の様子が眺められるようになっていて、この雰囲気だけでも、ちょっと背筋が伸びそうな空間。




私も、もし、派遣を辞めた後、引っ越しすることなく、新しい仕事に就いていたら、こういうお店に来る機会があったかもしれないけど、もう、今の生活では無縁かな。それが寂しいという気分じゃなくて、あの頃の、ちょっと無理して頑張っていた自分に戻ることはないんだなと、なんだか卒業したような気分。




「花子ちゃん」




窓の外に意識が飛んでいると、和宏さんから、声がかかる。




「さっきの話の続きだけど、山川さんはね、俺がここを辞めるか迷っている時に、背中を押してくれた人なんだ」




背中を押す?不思議そうな私を見て、言葉を続けてくれた。




「俺はレストランで料理やデザート作るのが楽しくて、ここでまだまだ修行して……そう思ってたのに、父さんが倒れてさ、うちのお店をどうするかって悩んでた時に、山川さんが『うちのレストランは、今一人抜けても、まだまだ続く。だけど、お前の実家のお店は、今続けないとそれで終わりだろう?山田が戻りたいと思った時には、みんな迎えてくれるから、今はお前にしかできないことをする時じゃないか?』ってね」


「そう……だったんですね」


「俺が抜けても問題ないって言われて、正直悔しかったんだけどさ、でも、冷静に考えて、俺はレストランで働くことが夢でもあったけど、それと同じくらい、俺の作った料理で喜んでくれるお客様の為に仕事がしたいって思って、たぶん、それを分かって、あの時、山川さんは強く言ってくれたんだと思うんだ」


「混乱してる時って、冷静に判断するの難しいですからね。そうやって言ってもらったお陰で、お店は今もお客様に喜んで頂いていますし、私も和宏さんと出会うことができたんですし、……その、私も、当時の山川さんにお礼が言いたい気分です」




やだ、ちょっと涙が出そうになる。


出会った時の、あの和宏さんの疲れ切った表情を思い出しちゃった。




レストランか実家の喫茶店かを選んで、あんなに苦しそうになるまで頑張って、もしかしたら選択したことを後悔していたのかもしれない。でも、それは、もう変えられない過去。




「うん。俺も、山川さんには、辞めてからも時々連絡取ってて、でも、父さんのことが落ち着いてから、やっとあの時のお礼が言えたかな。今の俺がこうしていられるのも、山川さんと、そして花子ちゃんのお陰だからさ。二人にお礼が言いたくて」




「失礼いたします」




注文していたチーズケーキと飲み物が運ばれてきた。


うん、見た目は、お店で見慣れたチーズケーキと同じ。だけど、さすがレストランのデザート。お皿も、添えてあるクリームもソースも素敵。シンプルなチーズケーキも、こうすると華やかさが増してケーキが主役って感じがするね。




カフェオレも、ふわふわの泡がたっぷりで、ラテアート仕上げ。同じメニューひとつとっても、こんなに違うんだって勉強になる。この技術を取り入れるのは……、何やら視線を感じて顔を上げてみると。




「当店では、お味もですが、見た目の美しさも意識して、ご提供しております。山本様のように、それをお楽しみ頂けます事は、私共の喜びでございます。ありがとうございます」




にこにこと山川さんが私を見ていて……そして、和宏さんも。




「うちの店ではなかなかこういうところまで手間も気も回らないけど、やっぱり見た目って大切ですよね。山川さん、このソースって、以前と同じものですか?」


「そうですね、季節によって変えることもありますが、基本的にはベリー系のものをご用意しております。山田様のお店でもよろしければ取り入れてみてください」


「ありがとうございます。うちで試してみますね」




そんなに簡単に……いいんだ?


と思っているのがバレたのか、山川さんが面白そうに私を見つめる。




「山本様には不思議に思われるかもしれませんが、当店の味を完全に再現できるのは当店だけと自負しておりますので、それを真似ていただいて、山田様のお店がお客様に喜んでいただけるなら、何も問題はございません」


「そうだね、いくら真似をしても、材料の質も、食器も、店内の雰囲気も、全部合わせての、この味になるから、完全に再現は出来ないんだよ。まあ、その辺はお客として来店した場合なんだけどね。ほら、俺はいろいろ知ってるけど、それでもやっぱり同じには出来なかったよ」


「そうなのですね」


「このチーズケーキも、俺が父さんのお店で出しても大丈夫かなって山川さんに確認しても、さっきと同じ答えだったんだよ。まあ、さすがに、ここのお店の名前は出さないけど、それでも分かる人には分かるかもしれないから、真似してるけど美味しくないなんて言わせないように、俺も頑張ったんだけどね」


「……山本様、本人はこう言っていますが、山田は優秀な料理人なので出来る事なんですよ」




こっそりと山川さんが教えてくれる事に、私はうんうんと大きく頷いた。




「はい。私も、山田さんの作る料理が美味しくて、実は、一緒にお仕事するのも半分お目当てなんですよ」




そう伝えると、一瞬驚いた表情をして、そして今日一番の笑顔を見せてくれた山川さんは、和宏さんに伝えた。




「……山田、良い人に出会ったようだな。おめでとう」




そう言って腕を差し出し、和宏さんと握手を交わすと、では、と一礼して山川さんはキッチンへと戻っていった。




その後は珈琲が冷めないうちに、と目の前のお皿に集中した。


確かに和宏さんが作ってくれたチーズケーキの味なんだけど、なんだろ、こう私には表現できないようなレベルで美味しさが凄い。食レポの才能が無いのが悔しいくらいだけど、きっとこれは比べるものではないんだろうな。


特別な日のデザート。普段のちょっとしたご褒美デザート。


街の喫茶店では、後者を楽しめる方が、お財布にも気持ちにも優しいよね。




「美味しいですね」




今は、そんなシンプルな言葉だけで十分伝わるはず。




「この味を、このお店で、花子ちゃんに食べてもらいたかったんだ」


「はい。お味も、このお店も、すごく素敵です。連れてきてくださってありがとうございます」


「ここがさ、俺の、料理人として、社会人としてのスタートのような場所でさ、山川さんは俺の兄のような、父さんのような存在で、……やっと、胸を張って会いに来れたんだ」




恩師に会いに行く。


出会ったばかりの和宏さんは、見るからにボロボロで、きっとそんな姿は見せたくないし、泣き言も言いたくなかったんだろうな。頑張りますって言葉では簡単に言えるけど、あの状態で、このお店に来たら、きっと和宏さんは実家のお店を選択したことを後悔してた。だから。




「私、和宏さんが、このお店にまた来れたこと、そこに一緒に居られることが、嬉しいです。和宏さんはずっと頑張ってきてたんですよ、お客様にも喜んでもらえる料理人なんですよ、って、山川さんにも、それから……ここを離れることを決めた当時の和宏さんにも教えてあげたいなって…………和宏さん?」




私を見つめる和宏さんの目から、涙が溢れていた。




「え?あ?……俺……」




泣いていることに気が付いていなかったのか、慌ててハンカチを取り出し、顔を隠すように涙を拭きとるけれど、テーブルの向こう側にいるので、私はただおろおろとするしかなくて。




少し待って落ち着いた和宏さんは、さあ食べてしまおうか、と言って何事も無かったようにチーズケーキの残りに向かった。私も何も言えなくて、少し冷めたカフェオレの苦味が、口の中から胸にまで流れていくことを感じるだけだった。




「そろそろ行こうか」


と、二人のカップが空になってしばらくして、和宏さんに言われ、はい、と席を立つ私。あれから二人とも言葉が出ず、せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまったかなと反省していたら、会計の時に、山川さんが出てきて、私にこれを、と何かを渡してくださった。




紙袋の上から見ると、カラフルな小さな丸い……お菓子かな?雑貨かな?可愛いリボンで結ばれたものが入っていた。




「こちらは、当店から、山本様へのプレゼントでございます。……うちの山田を、これからもよろしくお願いいたします」


「え、山川さん、ちょっと、これ……」


「うちの?え?和宏さん、レストランに戻るんですか?」


「ああ、失礼。そういうことではなく、当店で育ててきた山田は、私にとっても、他のスタッフにとっても家族のようなものなのです。彼がここを離れる時に、落ち着いたら、顔を見せにおいでと言ったまま2年が経って、ようやく来たと思ったら……素敵なお連れ様とですからね。裏で皆喜んでいましたよ」


「私も、今日こちらで素敵な時間を過ごせました。山田さんのお世話になっていた方にもよろしくお伝えください。……あの、山川さん」


「はい、何でしょうか」


「山田さんを……和宏さんを今日まで支えてくださってありがとうございます。山川さんのお陰で、私は、今、こうして彼と一緒に美味しいものを頂くことができました。それで、その……また、こうして二人で来てもよろしいですか?」


「もちろんでございます。ご一緒にご来店いただけます事、当店一同、心よりお待ちしております」




そう言って、深々とお辞儀して山川さんは、私達を見送ってくださった。







お店を出て、昔、和宏さんがよく休憩していたという近くの公園に行こうかと誘われて、秋の早い日暮れに染まりつつある街中を並んで歩いた。


美味しかったですね、恩師に会えて良かったですね、と何か言おうとしても、上手く口から言葉が出てこない。




和宏さんにとって、生まれ育った喫茶店と、料理人として育てられたレストラン。


どちらも大切な場所で、そこでの大切な人にも紹介してもらって、私もご挨拶をして。……この間、七絵ちゃんに占ってもらったカードが、頭の中に浮かんできては、心臓の音が大きくなっていくのを止められなかった。




顔に出てないといいなぁ。


お互いに、なんとなく顔は前を向いたまま、公園に到着して、ちょうど見頃を迎えた秋の薔薇が華やかに周囲を飾る、東屋のような場所に腰を下ろした。




「あの、今日は、素敵なお店に連れてきてくださってありがとうございます」


「あ、ああ。喜んでもらえて良かったよ」


「はい」




いつもとは違う雰囲気に、緊張が止まらない。


揶揄ってくる七絵ちゃんも、癒しのハナちゃんもいない、二人だけの時間。


何か言わないと、と顔を和宏さんに向けると、目が合った。




「!」




見慣れたはずの和宏さんの視線が、いつもと違う。


いつもと違う場所で、夕焼けのせいもあって、でも……。




「花子ちゃん」


「はい」




隣に座った和宏さんが、私の手を取り、声をかけてくる。




「俺と、これからも一緒に、美味しいもの食べに行ってくれますか?」




え?




「は、はい。私も食べるの好きですから、それは、はい」




あれ?そういう話だっけ?




「あ、違う、いやそうじゃなくて……」


「……」




素直に返事をしてみたけど、違ったみたい。




「えっと、その、これからも、俺と一緒にこうして出掛けるの嫌じゃない、んだよね?」


「嫌じゃないですよ。今日だって、付き合い初めて、その……初めてのデートみたいで楽しかったですよ」




うん。恋人になったからといって、お店ではいつも一緒だし、定休日はそれぞれ用事を済ませて過ごすことが多かったから、こうしてデートらしいデートは今日が初めてなの。あれ?デートの感想を言う時間なの?




「そっか、うん。喜んでくれて良かった」


「ふふ。嬉しいに決まってるじゃないですか。大好きな人と、美味しいものを食べて、大切な人って紹介されて、私……」




すごく嬉しかったんですよ?


と言おうとしたのに、言葉を吸い上げられてしまった。




温かい柔らかな感触が、少し冷えた公園の中で、やけに鮮明に感じられて、二つの影が離れた時。




「花子ちゃん、俺と、これからもずっと一緒にいてください」


「はい。私もずっと一緒にいさせてください」




恋人として過ごして数か月。お互いに思いを伝えあう機会は、和宏さんのお誕生日以来かもしれない。




「……まだ出会って1年も経ってないし、付き合いはじめたばかりだけど、……俺と結婚してくれますか?」


「……」




人生で初めて聞く言葉。


心の準備があっても返事がすぐに出なくて……『素直になって、花ちゃん』と、七絵ちゃんの声が聞こえた気がした。




「はい。これからも、ずっとずっと一緒に過ごしましょう」




私の返事を待っていたかのように、上着のポケットから取り出した指輪を、私の薬指にはめてくれた。少しぶかぶかなそれは、夕日にきらきらと反射していた。




綺麗だな、と眺めていた私の視界に、さっき山川さんから頂いた紙袋が見えて、その視線を追った和宏さんが、中身を取り出してくれた。




「さっき山川さんがプレゼントしてくれたこれね、お祝いのお菓子なんだ」


「お祝いの?」


「そう。特に、……その、結婚式のお土産にするような……」


「結婚って……え?山川さん?」


「あ、大切な人を紹介しますと話したけどさ、たぶん、俺たちのことを見て、気が付いたんじゃないかな。だから、その、俺たちの結婚のお祝い……のつもりだったんじゃないかな?」


「……今度行くときは、私『山本様』じゃないかも……ですね」


「その時は『奥様』って呼んでもらうから大丈夫だよ」




奥様。


その響きに、あ、この人と結婚するんだって、実感が急に湧いてきた。




「ん?どうしたの?」




顔を両手で覆う私に、和宏さんが声をかけるけど、ごめんなさい、ちょっと顔あげられそうにないです……。




「今度は、一緒に働く人じゃなくて『俺の奥さんです』って紹介するね」


「!」




追い打ちかけられた……。うう。分かってて言ってるんでしょ……。




「ほら、顔見せて。俺の大切な奥さん」




うう。


そう言われて、ゆっくり手を降ろすと、今までで一番甘い顔をした和宏さんが目の前にいた。




「さ、行こっか」


カップのナイト。


あなたの愛、確かに届きましたよ。


そして、私は27回目の朝を、近い未来の旦那様の隣で迎えたのでした。











【後書き】

カップのナイトの結果。

一番分かりやすい例としての最後を飾ることができました。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


仕事に、恋愛に、自分探しに、人生の節目で、占いが身近にあることを感じていただければ……という思いで書き始めた作品です。



皆様の人生にも、占いが幸せを運ぶお手伝いとなりますように。

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魔術師のいる喫茶店 日奈子 @hinakohinako

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