無法街の死神少女

@tapio_159

プロローグ



スラム街、そんな言葉を聞いたことがあるだろうか?


恐らく、何となく汚いだとか、貧困だとか、大体の人はそんなことを思い浮かべるだろう。


でも、スラム街はそんな生半可なものじゃない。

スラム街は…現代社会における"地獄"だ。


社会の底の底、1番の底辺。

そこでは、皆が生きる為に何処かがおかしくなっている。


いつだって自分が生きる為に、相手から何かを奪ってやる事しか頭にない。


金品、衣類の強奪など当たり前、殺して臓器を売ることすらザラだ。


特に何らかの事情でスラム街に落ちたてのものや、興味本位で入った、"普通"の人間は格好の的だ。


身ぐるみを剥がされ、スラムの闇医者に売られる。


生き残ったとしても、ついこの前まで普通の生活をしていたものがスラムの生活に耐えられる筈がない。


そう言うものは、スラム街で1番難しい事を望む。


ーー 痛みのない楽な死 ーー


こんな所で生きていけない、死にたい。

死ぬなら出来るだけ楽に…。


スラム街で死ぬ以上そんな死はまずあり得ない。

が、一つ例外がある…


ある少女に出逢えさえすれば…

彼女は痛みのない死を与えてくれるだろう…


ーーー


「はぁ…はぁ…!」


私は走っていた…

暗く、異臭漂うこの道を…


いや…道というにはあまりにもお粗末ない物の上を…


息はもう途切れ途切れ…。

正直、このまま息が出来なくなるんじゃないかと思うくらい苦しい…


でも、それでも走る。

何故なら、止まれば待つのは地獄だから。


あいつらに捕まった瞬間…きっと私は地獄の様な痛みを味合うことになる…


だって後ろから追いかけて来るそいつらのその目は…普通じゃなかったから…


だから…私は…!


「づっ!?」


次の瞬間、足の裏に激痛が走った…

痛みのあまり…思わずその場にうずくまる。


足裏を見ると、そこには深く突き刺さったガラスの破片が赤い血を流させていた…


「何で…!何でよ…!」


口からは、そんな言葉が出てきた。

背後から、足音が聞こえて来る。


でも、もはや今となっては意識すら出来なかった

頭にあったのは…後悔。


どうして、こんな場所に来るまで落ちぶれてしまったんだろうと言う後悔…


私は、至って普通のOLだった。

でも、ある時だ。


私は嫌気が刺したのだ、このまま上司に怒られながら働くことに。


そんな時、ある勧誘に乗ってしまった、所謂宗教勧誘だ。私は見事に心酔、案の定騙された。


結果借金まみれになり、スラムに落ちた。


心のどこかで分かっていた…

スラムに落ちた時点で、私は狩られるだけだと…


でも…もう私は生きる気力が無かったから、スラムで死んでも良いと思った。


誰かに殺されるならそれも良いと。

しかし、この世界の人の目見て、私は怖気付いた、怖くなったのだ。


そして思った、こんな苦しい死はいやだと。

そんな過去を、私が後悔していると…


「チッ、手間取らせやがって。」


「さっさと金品と服剥ぎ取って、身体は闇医者の臓器売買用に売っとけ。」


今追いついたのであろう、先程まで私を追いかけていた男達の声だ…


「いや…。」


枯れ切った声でそう言葉を溢す…

確かに、私はもう生きる気力はない。


でも…それでも…死ぬのなら…

苦しまずに、死にたい。


「苦しまずに…死にたいよぉ…」


そんな、届かない願いを言葉にする。


「悪いが、ここに落ちた時点でそれは無理だぜ。」


「闇医者は麻酔なしで解剖とかするからなぁ?痛みのない死とは真逆だろうぜ…!」


そうして、その男が私に手を伸ばした…

その瞬間だった…


バキッと、何が折れる様な音が鳴り響いた。


「っ!?」


男は手を抑え、2、3歩後ろによろめく…

そして、その男は正面を睨み付ける。


その矛先は私じゃない、私の目の前にいるフードを被った誰かだった…


「面倒なとこで来るなよ、死神…!!」


厄介者が来やがった、そうとでも伝えるかの様に男が叫ぶ。


「そうは言われても、聞こえたから。」


透き通った綺麗な声がそう答える…


「んで、腕の骨が折れちゃったわけだけど、どうする?」


その言葉に、男は大きな舌打ちを返した…


「引くぞ…こいつ相手じゃこっちが死ぬ…」


「契約もしてねぇのに、死神と言われる化け物何かに構ってられるかよ。」


そう言って、男達は走り去っていく…

その様を私はただ呆然と見つめていた。


すると、目の前のフードを被った誰かが、そのフードを外し、振り返る。


次の瞬間、私の目に映し出されたのは

白髪の髪と灰色の目をした1人の少女だった…


少女は、私と姿勢を合わせる様に座り込み、口を開く…


「ねぇ…貴女」


少女は、私の顎の上を、遊ばせるかの様に指を走らせていく…


そして、少女は指を止め、私の顎を上げて顔をゼロ距離まで近づける…


その灰色の瞳に全てが呑み込まれるような気さえした。そして、耳元で彼女は囁く。


ーー 私が苦しまずに殺してあげよっか? ーー


もはや…わたしの唇は動かなかった…

ただ、それは自然摂理かの様に…わたしは首を縦に振った…


「君の意思、了解したよ。」


その言葉と共に、彼女はポケットから鎌のキーホルダーを取り出す。

彼女が薙ぐ動作をし、その鎌は等身大まで巨大化する。


「大丈夫、首を目にも止まらぬ速さで、何も痛くないよ。」


刃を首に当てながら、そんな事を言う少女。

早くと催促するかの様に、身体は勝手に手を彼女にかざす…


「じゃ、行くよ。」


「あぁそれと最後に、君の人生にお疲れ様を。」


その言葉に、頬が何かを伝う感触を覚えた…

次の瞬間…



最後に言葉をかけた、次の瞬間


ーー ひと薙 ーー


彼女の首はストンと落ち、私の足元に転がる。

私はしゃがみ込み、彼女の頭に手を触れながら


「そっか痛く無かったか、こんな穏やかな顔しちゃってさ。」


「ゆっくりお休み。」


頭部をゆっくりと置き、空を見上げる。

気付けば、月明りが鎌を照らしていた…


「おっちゃん、まだまだかかりそうだよ…。」


「私の目的にはね。」


月明かりの下、私はそんな事を呟くのだった。

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