「平成オタク戦史~バカがアニソン駆けてやってくる~」

低迷アクション

第1話

“踏み込むぜアクセル!駆け引きはないさ!そうだろ?”


耳に差したイヤホンから軽快に流れるアニソンに問いかけられ、俺こと

“猛射 争応(たけい そうおう)”は唇をⅮCコミックのジョーカーばり(この頃の実写はジャック・ニコルソンが有名だった気がする)に大きく開き、自転車のペダルを一気に蹴上げる。


時は2006年8月、ハ〇ヒが終わって、マジかよ?(うたわれは2クールの予定だってのに…)な俺達、武闘派オタク“リリパッド”は同じ高校に属する非オタクの不良連中と縄張り争いの真っ最中…(誰に解説してるかって?この記録を呼んでくれている皆さんにです!)


今は、ながらスマホ、当時はイヤホン付けての走行は禁止されているが、気にしている場合ではない。南米のインディオ達は戦いの前に踊りや音楽(+麻薬)をやって、気分を高めたと言う。出来たら、かなり見習いたいけど、


まだ、学生の俺達は麻薬や酒なんて、容易に手に入るもんじゃないし、必要もねぇ。

何故って?答えは簡単!アニメに漫画に特撮!があれば、大体ハイ!(この頃、創刊された初のwebコミック誌コミックHiは、正に、当時の俺達の気持ちを体現したものだと言えた)そして、それらの世界観をしっかりとイメージし、


“この曲聞けば、頭の中にそのアニメが、ヒーローやヒロイン達が闊歩乱舞!”


のアニメソング、通称アニソンのおかげで、正に怖いものなしの日々を送っている。

説明が長くなりすぎた。ママチャリのペダルを踏みこむぜ!以下略したあたりに戻ろう。


連中がたむろと言うより、待ち構えてる廃工場の入口は、即席有刺鉄線のバリケードで封鎖されていた。激突(スピルバーグ最高)パンク寸前!前に停めたチャリを乗り捨て、


錆びだらけの赤レンガ風倉庫跡に向かう俺の前に、ボロボロの壁を突き破り、スポーツ刈りの学生シャツ3人が現れる。


「待っていたぞぉぉおお!ソー(俺のあだ名)ぶち殺してやらぁ、腐れオタクがぁああっ!」


「何だ、テメェ等、バッチ、キメてんな!こらぁっ!てか、大丈夫か?4のガナードみたいになってんぞっ!?(去年の冬に出たPS2番のバイオ4の事)」


今みたいに沼津駅のラブなライブばりにアニメ文化が周知されていなかった時代、オタク達は一般人、不良、社会、親、学校、兄弟、姉妹と言うあらゆる勢力に迫害されていた。


本屋でアニメ雑誌、萌え系漫画(瞳おっきめ女の子、ジャンプだとToラ〇ルとかはアウトな部類に入る)を買う事はエロ本買うのと、同じくらいの勇気がいる所業(全く気にしない人もいる事はいたが)


大半の仲間は隠れ潜み、こっそりと隠れキリシタンばりに生活をする事になり、見つかれば、デビ〇マンの悪魔狩りばりに、晒され、中には暴力や殺害されたりする(いいすぎか?)


文化部とかは、隠れの最たるモノ…漫研、アニ研、文芸部、同行の士が集まり、語り合い、後にビックサイト(コミケ)を目指す図式が、通常のオタク達の偏った、偏りまくって最高の青春として構築されていた(結構、勝手に解釈)…


だが、俺達リリパッドのメンバーは違う。元々、血の気が多い土地柄の出身、喧嘩に

オタク道は全力全開!(この辺は、な〇はさんから学んだ)


だから、コイツ等との争いにも負けちゃいられねぇ。


「シネェヤアアアア」


両手につけたメリケンサックを忘却したスポーツ頭の1人が、怒声を上げ、拳を突き出すのでなく、掴みかかってくる。一瞬、回避が遅れ(耳に流れる曲の2番が主な原因…)凄い力で締め上げられた俺の両横に並ぶ2匹が、蹴りを繰り出す。雑魚の群れが誰かを嬲る典型的なリンチスタイル…馬鹿が!


“息も止まらぬ電撃シュート…お見舞いするぜ…鉄のボディーと鍛えた技が!”


「やっぱり、喧嘩はJ〇Mプロに限るな、刻むぜ!鋼のビート!」


叫びぶと同時に強烈なダブルニー(膝蹴り)を首掴みの顔面にめり込ませ、相手ごと

地面に転がる。驚き、怒声を上げた残敵共の膝に、全力の手刀をお見舞いしてやる。


のけぞり、倒れる2人の横から、新たな敵が姿を現した。4、5人に固まる、それらは一様に白目を剥き、口からは泡を吹いている奴もいる。


「本当にゾンビだろ?これ…」


「ああ、確かに、だが、彼等の場合はヤクで狂ってる。ゾンビと言うよりはプ〇デター2のジャマイカ人みたいなモノだな」


俺の呟きを冷静に受け止めの地獄耳“トミーリー”のトミーが、いつの間にか、不良共の背後に立ち、メガネを押し上げ、構えた鉄パイプと流れるような動作で、敵を倒し、その間を抜けていく。


「トミー、てめぇ、喧嘩の時はタイミング合わせろって言ったべ?」


イヤホンを外し、不満をぶつける俺を無視し、


「まだ、スムーズじゃない…〇貴には程遠い」


などと呟いている。全く、お前は五〇衛門か?二次は好きでも三次(リアル)まで

トレースするなよ。


「しかし、大丈夫か、コイツ等、ヤクでもやって…」


喋る俺の前方、先程の突き抜け穴の隣2つ分くらいの倉庫の壁を再び突き抜け、

(ホントに壁破るのが好きな奴等だ。今日は何だ?全員スーパーヒーロータイムか?)


現れた相手が、同時に響いた鋭いガス排出音と同時に倒れ、俺の腰ポケットが振動した。


「タイミング良すぎ、ずっと視てたのか?“スギ?”」


ガスガンを極限まで改造した孤高のスナイパー、スギに賛辞と皮肉を通話で送る。


「必要があれば出るさ、ソー(俺のあだ名再説、マイティではない)これで大体、片付いたと思う。“赤帝(せきてい)”には連絡しておいた。まもなく到着だ」


「その前に、俺達で片づけよう。この有限会社メイジン跡地を仕切ってたのは、武田だったな。周りの馬鹿共含めて、何をキメてるか聞きに行くとしよう」


俺の言葉にトミーが頷く。きちんと入口から行くべきか、少し迷った俺達は、戦隊モノよろしく、今度は外側から壁をぶち破り、一気に外へ雪崩れ込んだ…



 「ホーウ、噂にキク、ここらを仕切っテル、武装系オタク“リリパッド”は、貴方タチデスカー?」


オタクが一瞬、引いちゃうくらいの豊満バスト(胸ボタン二つ程弾けてらぁ)の

褐色美少女が、何か外国人ですって言う感じの言葉で俺達を出迎えている。


「テメェ、一体何者です…じゃなくて、ナニモンだ?てか、お前の手下何だ?あれ?

皆、ヤクでラリパッパ(そう言えば、あの集団の中にボスの武田もいた)だったぞっ!?」


「マイネイムイーズ、ゴメスッ!フフッ、彼等は…男は、只の使い捨てデース、何をした?正体を教えてアゲマショーウ、コレです!」


ゴメス(すげぇ名前だと思うけど、何処かで…)が、自身の胸にガバッと手を突っ込み

(俺の鼻腔をアツいモノが沸騰し、横のトミーは流れ出ていた)緑色の葉っぱが入ったビニール袋を出す。


「そ、それは…!?」


「ケナフでーす」


「ケナフかよっ!?中学の生活の時間で作ったわ!」


ドヤァッ(この時代には無かった表現)と言った顔の、ニッコリゴメスに、同時で突っ込む!


「プラシーボ効果デース」


「プラシー…え?エ、エルゴ・プラ〇シー?俺、Wowwow入ってないんだ。アニメTVで一話だけ先行配信見たけど…ん?…つまり、どういう事だ?オーい!」


「オタクがっ!」


舌打ち交じりの怒声と一緒に、西瓜ダブルみたいな胸を揺らして、ゴメスが飛ぶ。

駄目だ。女に免疫ナッシングニュートロン邪魔ーな俺達では、あのバストに勝てん。


あれは、胸じゃない。胸じゃない!逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ!あれは、ぱい、やっぱり、おぱいじゃん!くそぅっ、危険な初体験がぁっ!


チャチャチャチャ、チャチャチャチャーン、チャチャァ、チャチャチャー、チャンチャンチャチャーン、チャッチャッチャー…


「えっ?ウ〇トラQ?」


何処かで誰かが口ずさむメロディーに思わず構えを解く俺…何故か、目の前のゴメスも

同様…、てか若干、顔が赤い?んんっ?


「‥‥あのさっ、ゴメス…さ…ん?もしかしてさ。特撮好き?」


最早、完全に戦闘意欲をそがれたゴメスが俯く。


「あっ、成程、察しましたぜ!第1話の“ゴメスを倒せ”から取ったのかな?

ていう事はさ。リトラは?リトラは何処にい…、あっ、あれイルと不味いのか。

こりゃ、し、しつ…」


「リ、リトラはコレカラ、出来る予定…」


「えっ?」


「と、とにかく、新しい時代がキマース、ソレを受け入れるか、抗うかは、貴方タチ次第

デース!お、覚えておきなサーイ!」


と叫んだゴメスがバストをぶるんぶると可愛く揺らし、何かロ〇ット団とかドロ〇ジョ様ノリで倉庫の外に飛び出していく。


今、外に出れば、スナイパースギィの餌食だが、多分、巨乳のねーさんだから、奴も外すだろう。問題なのは、そこじゃない。


「ソー、倉庫屋根に髪、緑の女を確認。照準はつけてる」


俺の疑問を先取りしたのか?スギからの電話を聞き終わる前に、今にも抜けそうな階段を三段飛ばしで駆け上がり、さっきのメロディーを歌ってくれた恩人の正体を確かめたかった。


錆止め絶対塗ってねぇ、赤黒ドアを蹴破る。屋上の縁ギリギリに立っていた学生服

(多分、同じ学校の制服…)だと思う緑髪(すっげぇ、アニメ風)で、何処か透明感のあるツインテールの少女が少し驚いた顔でこちらを見る。


いや、驚いたと言うより、好奇心のカタマリ、猫ちゃんみたいなくりくり眼だ。正直、第一声は“それ、何のコスプレ?とか言いたい”けど!色々抑えて…


「さっきはありがとう…じゃねぇ!どうも締まらねぇな。とにかく助かった。てか、

ウル〇ラQ知ってる女子こーせーとか、スゲェな。もしかして、あれ、おたくもオタク的な…いや、そーゆう言い方は、女子の方的にはそんな言い方しないか。何ていうのかな、腐女子?あ、これ、別に差別的発言とかではなくて、そーゆうのじゃなくて」


ちっくしょう、ダ〇・ーポとか、もっと見ときゃよかった。リアルはキツイ!さっきまでのべらんめぇ口調は何所逝った?俺ぇっ!だが、相手の方はそれを面白がるように見つめ、


ガン〇ムSE〇Dディステニーの〇ーアのラストみたいにクルリと優雅にターン(屋上縁、ヘリィイ)した後、


”こんにちは、ありがとう、さよなら、また会いましょう”


と、ニッコリ歌うような声で奏でた後、そのまま宙を舞う。


慌てて、縁まで距離を詰め、下を見る俺は、ここ3階だぞ?とか言うべき所を、


「あた〇ん家?」


と実にオタクらしく呟いてしまった…



 「そもそも、何がキッカケだ?」


高校生だけど、もみあげと繋がったヒゲと煙草を燻らせ、赤帝こと“アカ”が教室の

机の上で足を組み、不機嫌そうにこちらを見る。正直、バ〇とかク〇ーズにいそうな風体だが、その手に開かれているのがコン〇・エースと言う所が実にいい。


時刻は放課後、一応、ボランティア部に所属している俺達は、教室の一個を実質占領していた。


「いや、こっちの仲間内が武田達に石を投げられたって言ってたから、また、連中がオタク狩りとか始めたのかと思ってよ」


俺の弁明にトミーとスギが頷く。妙だ。何だか、アカの機嫌が悪い。普段なら、


“よくやったな、お前等!”


とか言いそうなんだが…


「そんな理由で戦ったのか?ソー、“シバ(俺達の情報屋、後に登場)”の話だと、武田達は一種の催眠状態になってた様子だ。


何かが起きてる。その、ゴメスとか言う子の言葉も気になる。俺達、オタクの根底を揺るがす何かがな」


ジャック・ライ〇ン顔負け、陰謀小説の重要なワンシーンみたいだが、アカの開いてるページの漫画はらき☆〇た…微妙に、今の状況とマッチしない。いや、マッチしてる?どうやら、俺達の頭の中には、現実と漫画の世界が着実進行形で

混ざり合ってるようだ。


「確かにヤバい雰囲気ですよ。みなさーん、いやぁ、申し訳ない」


能天気な乱入者、情報屋のシバが教室のドアに立つ。


「シバ、いい加減に生徒会との掛け持ち、区別をつけろ」


アカの言葉に、全然動じない感じのシバが小粋に(本人もそう思ってるし、実にマッチしてる)頭を叩く。


「申し訳な~い、ただ、私が色んな所に出向してるとやりやすいでしょ~?

情報も回ってきますしね~」


能天気だが、抜け目のない奴…いざって時は何処にでも寝返る腹積もりは見え見え…

だが…


「で、何を聞いてきた?」


俺の問いに、常時スマイルの細目が少し開く。使えるネタを拾ってきた時の顔だ。


「いやぁ、アカさんの言う通り、近頃、この辺りの不良グループが新興の連中に

制圧されてます。負けた奴等は、皆ヤク中状態で従わされてね。しかも、連中は

全員女性らしいです。


ほら、ソーさん達が遭遇したゴメスさん、彼女も、そのメンバーの

1人ですよ。いやぁ、怒涛の快進撃、もう、残ってるのはオタク等くらいのモンですよ」


今日は脳内麻薬が効きすぎてるのか?早く家に帰った方がいいのかもしれない。

この情報屋が正しいとすると、俺達の敵は…


「つまり、数十人規模の元不良軍団が女に率いられて、やってくると言うのか?何故だ?縄張りならくれてやる。何が問題だ?」


アカの言葉に、それですよ!と言うばかりにシバが指を立てる。


「?」


「貴方達は異邦人だ。いや、時代を先見しすぎてると言っていい。物事には段階がある。

オタクが力を持つのは、もう少し先…


ゆるふわ、とかゆるい感じの百合的文化、女の子達の青春的ジャンルがクールジャパンの地盤を築き、徐々に同化、我々の文化と一般大衆が混じり合うの段取りに突如現れたイレギュラー…


武闘派オタク集団って何すか?電〇男で少しずつ浸透すべき、我々のレールを荒らさないで下さいよ、アカさん、ソーさん、いやぁ、申し訳ない」


「それは、俺達を敵に売ったって事か?戦争をしろと?」


いや、待てアカ…コイツ、いったい(言いたい)事の半分も訳わかんねぇぞ?と

言いたいけど、とにかく、不穏な雰囲気…


アニメとか漫画だと、コイツの背後から、ワッと敵が出てくる流れだ。スギが腰のベレッタ(勿論、ガスガン)に手を掛ける。張り詰めた雰囲気の教室内を変えたのは、

柔らかい歌声だ。


“世界じゅ~うでオハヨウ言えば、きぃっとぉ、繋がぁっていくかぁら~”


「あの子だ…」


俺の呟きに、シバが、タイミングを逃したと言ったように、バツの悪い顔を見せてくる。

それを無視し、教室を出た。


歌声は続いている。何処だ?探す俺の目は廊下の端に消える一色の緑を捉える。


「待って」


一気に駆け、廊下を曲がった先に、少女が立ち、ゆっくりと振り返った。


「同じ学校だったんだ。よ、よろしく、おっ、おお…俺、ソー、あ、本名は、猛射争応!き、君、クラスは?あっ、名前…」


“教えてよ~まだ、し~らな~い、あーたーし~、ドキドキするようなぁ~”


「ええっ?ちょっと…」


無邪気にかつ楽しく歌う少女に戸惑ってしまう。学校内がヤバいくらいに静かで、さっきから廊下を誰も通らない異常事態だとしてもだ。この楽しい時間が続けば、それでいいとさえ思う自分がいる。


「サヴァン症候群だな。この子は」


いつの間にか、隣に並んだアカが呟く。心なしか、ダニー・ト〇ホみたいな渋顔が穏やかな気がする。


「サヴァン?ああ、ステイナイト…てことは、この子の属性何っ?まさか、セイバーって訳…」


「それは、サーバント…そうじゃなくて、何かに特化した能力を持つ子達の事だ。Ⅹメンなんて言うなよ?それとも違う。この子の場合は、多分、会話とか自分の感情とかを、歌で表現するんだ。なぜか、アニソン多しでだけど…」


“愛ってなんだ~…ためらわないこと…ヨロシクー勇気!”


親指を上げ、頷く少女にアカが笑う

(かなり無理があるけど歌詞だけど“ヨロシク”って思えばいいのか)ガス銃の音が廊下の隅から響いてきたのは、その時だった…



 「さすがに多いな」


トミーが呟き、手持ちのパイプで群がる不良ゾンビを1人、また1人と打ち据えていく。


「前に出るな、トミー、当たっても知らねぇぞ?」


両の手に銀のベレッタを構えたスギがBB弾をばら撒きながら、吠える

(ブラ〇グインスパイア)


「問題ない、お前の腕次第だ」


「言ってくれるぜ、とーへんぼく!」


その光景を見つつ、強力な蹴りを前に聳える何人かにぶち込む俺は、

教室内に展開した群れを見て、思わず呟いてしまう。


「ミラ・ジョヴォ〇ッチ呼んで来い」


「道を開け、ソー、一旦、出るぞ」


「わかってる、女の子は?」


「大丈夫、どっかに消えた。神出鬼没の彼女、心配はない」


「そうだな!だったら、大将、そろそろ使えよ」


争いごとは嫌いらしい。だが、こちらもあまり、暴れる様を見せたくない。だが、彼女の歌を聞きながら、戦いたかったと言う本音は言わない方がいいか?


「無論だ」


アカが群れの前に出る。目を血走らせた猟奇の群れに対し、冷たく言い放つ。


「座れ」


敵の動きが止まらない。そりゃ、そうだ。多勢に無勢、頭狂ってても、自分達が有利なこたぁ、わかってるだろうよ。だが、無理だ。アカの、赤帝の前では…


「座れ!!と言ってるだろう」


轟音のような声に突っ込んできた全員の足が止まり、そのまま痙攣とゆうより、気圧された感じで、床に片足をついてしまう。


スタ〇ド使いだよね?と言いたい言葉をグッとこらえ、アカが築いた道をトミー達と共に進む。


「そこまでだ、リリパッドのオタク共!」


鋭い声と共に、軟体動物のような動きの2人が俺達の前に立ちはだかる。


「お前等は“ノーフィアー”と“ノーフューチャー”奴等についたのか?」


スギの説明に苦笑いが浮かぶ。全く、この国に生まれたからには、どいつもコイツも、一度は漫画、特撮を通過儀礼してやがる。


「ソー、このク〇ガとゾ〇ド野郎は俺とトミーに任せな!お前は正面だ」


「正面?」


振り向けば、入口である、下駄箱付近に、長髪のゴメスとはまた違った感じの美人が立っている。


「あれが、連中のリーダーか?」


「そーそー、ソーですよ。ソーさん!わざわざ出向いてきてくれました

“長門(ながと)”さんです、いやぁ、申し訳ない」


不意の横槍出現のシバに一撃を加えたいが、向こうの方が1枚以上の上手…俺が動いた瞬間には、相手の鋭い突きが懐に収まっていた。


「てめっ、ショートの長門に、負けず劣らず、つえぇじゃねぇかっ」


血反吐交じりに吠える俺の横で、シバが苦笑い声で、


「いやぁっ、どっちかって言うと、ビック7、旧日本艦隊モチーフっすね」


と先程と同じくらい意味不明の言葉で補足するも、ツッコミを返せねぇっ、くらいに

や・ら・れ・て・る。まさか、漫画の主人公みたいに死ぬかもしれない日が来るとは…


アカは他の雑魚を調伏…トミーとスギは交戦中…こんな時だけのリアル…救いがねぇ。


無言の大女、長門が手刀を頭より上に構える。俺はよく処刑台とかで立たされて、目隠しはいらないとか言う、ナイスガイみたいに目だけはしっかりと開けておく事に決めた。


“な~みーだ~でぬ~れちゃう、月のよ~る~”


場違いと言っていい程、可愛い声に相手も、俺も動きを止める。不味い…


「オイッ、じゃなくて、早く逃げて、ここ危ない!」


悲鳴に近いけど、要点はしっかり伝える俺の声に、緑髪の少女が、シバの隣をゆうゆうと通過し、俺と長門の前で不思議そうに小首を傾げる。ホントに一体何だ?この子は、アリスのチャシャ猫か?


進出気没にも程があんだろ?いや、それよりも、先程まで殺気満々だった、目の前に立つ大女の視線が気になる。心なしか息が荒い。2時間くらい前のシバの言葉が気になる?


百合って確か、あれだ。こないだ芳文社の漫画で読んだけど、女、いや、女の子同士の可愛い表現だ。まさか…


こーゆう時の俺の予想は寸分違わず、長門は自分より、ちょい小さめの少女の華奢な両肩をむんずと掴み、優しく…だけど、何か怖さを含んだ声で囁く。


「一緒に行こうか?」


“以心伝心!GO GO GO GO!YES!”


とか絶対に言うな!俺の叫びは喉をせり上がる血潮に遮られた。クソッタレ、マジで不甲斐ない!


少女はこっちを少し見た後、長門に笑顔を向け、


“こーのー世界にう~まれ~た~、そのい~みを~きーみぃと見つけにゆーこう~”


と承諾の歌を歌う。


目的は済んだと言うような顔で去っていく、長門に連れ立って歩く少女は振り向かずに歌を口ずさむ。


“今は思いきり凹んでいいよ…自然と元気になれるまで 気長に待っているから…

無理に笑顔つくらなくていいよ…気が済むまで ずっと覚えてていいよ“


俺の拳が震える。やっぱりいい歌だ。アニソンも、この子の声も…


「いやぁ、泣けますねぇ」


ゆっくり、音もなく、立ち上がり、ノンビリ語るシバの背中を掴む。察しの良い奴だ。恐らく時間はかけねぇだろう。悪いが、今日は悠長に待ってられる時間はない…



 「スギはどうした?」


「構うな!準備があるって話だ。それより見えた。マジで車使ってる!行くぞ」


シバの情報はやっぱり正確だ。トミーの原付に、無謀に3ケツした俺達は夜の国道を

ぶっ飛ばす。


「何かアレだな。これ、ブレイドの最終回、バイクで疾走パターンだな」


「あれは3人1人につき1台のバイクで並んでだろ?こんなすし詰め状態じゃねぇ」


トミーの何処か楽しそうな発言に、俺はすかさずツッコミを入れる。問題なのは、目の前のバンをカバーするように、横から俺達に並んだバイク野郎共の目が血走ってるって事だ。コイツ等もご同輩か?


“ブレイクダウン!爆音で鳴らすミュージック…スビードぜぇんかい!向かい風にのって…闘いつづけろぉっ!ブレイクダウン!ブレイクダン!…ダウン、ダウン…!


爆音のアニソンではないけど、それに近いギタフリミュージックを豪快に鳴らし、スギの運転するトラックがバイク部隊を蹴散らす。


「敵は退かせた!行きな!」


お礼と同時に、トミーがスピードを上げる。俺はバイクの狭すぎる座席スペースに両足を乗せ、叫ぶ!


「かっならーず、ぼくらーはであーうだろう、おんなじ鼓動の音をめっじるしーにしーてー…」


“わすれないーで…いつだってーよんでるからー…おんなじ悲鳴の旗をめっじるしーにして~”


嬉しそうな笑顔で車窓から顔を覗かせる少女。素晴らしきデュエット(協奏)…俺のテンションは一気に跳ね上がる。これだから、オタクは止められない。こーゆう奇蹟に、これから何度出会えるだろう?自身と少女の歌声に酔いしれたまま、一気に跳躍する。漫画程ではないが、車後部に両手が掴まれたのは、上出来…さて、この後は…


「終わりだよ。リリパッド…」


気が付けば、少女を押しのけるように顔を出した長門がこちらに、攻撃の構えを見せている。


「お前達、アウトサイダーはこの世界の正常な流れを崩す、武闘派のオタクなんて、

イレギュラー中の、イレギュラー、存在を狂わすモノは消えるべきだ」


「確かに一理ある。俺達は永遠のノーサイド、でも、構わねぇかもな。少なくとも、その子はOKみたいだぜ?」


「何っ?」


訝しむ長門の後ろで優しく、だけど芯の籠った強い歌声が響く。


“おーとーこならー、誰かのために強くな・れ!女もそうさ~、見てるだけじゃ

始まらない。これが正しいって言える勇気があ・れ・ば・い・い!たぁだ、それだけ~、出来ればー、英雄さ!…オーライッ!“


ガッツ溢れる特撮ソングに力を得た、俺の剛腕すぎる拳がフロントをぶち抜き、

車内に体を滑りこませる。結構太いと自慢の首に、少女が抱きつく。


「何をしても無駄な事だ?」


言い含めるように喋る長門に笑顔でニヤリと笑いを返す。


「大丈夫だ。多分、どうやら、俺には素敵なディーヴァ…あっ、ブ〇ッド+じゃない方ね?と強い仲間がいるようだ」


「?」


疑問に、少し可愛く首を傾げる長門の後ろの窓にアカとトミーのバイクが写った…



 「なんとか、いち段落…」


運転手を脅して、気絶した長門を連れ帰ってもらい、降りた俺達と少女は夜空を見上げながら、歩いている。


呟く俺の隣で、頷いた少女が少し寂しそうな顔をする。何となく察しはついていた。

思えば、奇想天外な出会いだった。この子は俺達と違う世界の存在、今回はたまたま、波長があっただけだ。ゴメスも長門もそうかもしれない(運転手の顔も何処かボヤけていた気がする)何か、ハ〇ヒ的な、いや違うか…


考えてみれば、そもそものキッカケはウル〇ラQのテーマソングが始まり…


俺達は、これまで数日間、アンバランスで奇想天外なゾーンに迷い込んだのかもしれない。


「まぁ、これでお別れ…じゃないっすよね?一体、また、会えます?」


少女が笑い、ゆっくり口を開き、答えを返してくれる。夜風にそよぐような優しい声が耳をくすぐる。


“始まりくれた君にそっとささやく…


未来がとらわれても、遠くきえても、澄んだ声が覚えてる。僕の名前をよんでー


あの日のように笑いかけてー“


歌終わりと共に淡い光が俺達の前で瞬き、少女の姿を包んでいく。思わず瞬きをしてしまう。次に目を開けた時、少女の姿は何処にもなく、リリパッドの3人が残された。


「まるで、真夏の夜の夢だな…」


アカが呟く。


「これからどうする?てか、どうなる?」


「どうにもならねぇ、俺達はただ、進むだけさ。あの子が示してくれたのかもしれない…」


「ソー…」


苦笑いのような声でアカが呟く。


「何だよ?」


「お前もシバみたいになってきたな」


「ああ、そうかもだな。全く…少し嫌になる」


呟くように答える自分達に、スギの車が近づいてくる。それを見ながら、

あの緑髪の少女と再会できる日はそう遠くないなと、何故か非常に自信のある確信を、俺は抱いた…(終)

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