第5話 騎士団
朝日が登り始めた頃、騎士団が到着しました。
村にやって来た騎士達は百体以上のゴブリンの死骸を見て驚いています。
騎士達の中から一際大きい騎士がゼルゴに話しかけます。
「私は騎士団長のフェイグだ。これはお前達だけでやったのか?」
「ええ、なんとか倒せました」
「これだけの大群だと上位種も居たと思うがそいつも倒せたのか?」
「はい、うちの村には頼りになる番犬が居るので」
ゼルゴの視線の先を見て騎士団長フェイグは驚きます。
「な!? その白銀の毛並み。···まさかフェンリルか!?」
騎士団長の驚きの声を聴いて騎士達は剣を構えます。
「落ち着いて下さい。このフェンリルは私達の家族です」
「家族だと? 神話級のモンスターが?」
「はい、俺の息子に特に懐いています。名前はギン」
騎士団長フェイグはギンを見つめ、隣に居るジャンにも視線を向けます。
「フェンリルの隣に居るのがお前の息子か? お前の息子の肩に居るのは只の猫じゃないな?」
「はい、その猫はケットシーです」
「···ほう、猫の貴族ケットシーまで居るのか。随分と変わった村だな。ゴブリン退治にも関わっていそうだな。どうやら詳しく説明してもらう必要がありそうだ」
騎士団長フェイグの言葉を聞いて不安になったジャンはギンとキュートを守る様に抱きしめます。
その姿を見てフェイグは笑みを浮かべ優しくジャンに語りかけます。
「心配しなくてもいい。そのフェンリルとケットシーには何もしない」
「本当に?」
「あぁ、剣に誓おう」
フェイグの言葉に安心したのかジャンはギンとキュートを抱きしめるのをやめました。
「詳しい話は村長の家で話します。ついてきてください」
ゼルゴの言葉に頷き、フェイグは騎士達にゴブリンの死骸の片付けをするように命令して村長の家へと向かいます。
ジャンはギンとキュートと共に、集会所でジャンの帰りを待っているミティアと村長の元へと向かいます。
ジャンからゴブリン討伐の報を聞いて村長とミティアは安堵の溜息を吐きます。
「ジャン、動物達と共にゴブリンの所に向かった時は心臓が止まりそうになったのよ」
「うん、ごめんなさい」
申し訳なさそうに俯くジャンをミティアは抱きしめます。
「でも無事で良かった。お父さん達も無事だったみたいだし、キュートやギンや他の動物達にも感謝しないとね」
「うん、全部動物達のおかげなんだ。キュートとギン、本当にありがとう」
改めてジャンにお礼を言われてギンとキュートは喜んでいます。
キュートとギンの頭を撫でているジャンは、村長の家にゼルゴと騎士団長フェイグが向かった事を村長に伝えます。
「そうか、ゼルゴと騎士団長様が我が家に。わかった、儂も向かうとしよう」
村長が自宅へと戻り、ミティアとジャンも家へと戻ります。
家に戻ると放牧地に羊達や飼い犬のアルフ、飼い猫のミーが戻って来ていました。
「皆、本当にありがとう!!」
ジャンは羊達やアルフやミーを撫でて感謝を伝えます。
感謝の気持ちが伝わったのか、羊達やアルフやミーが嬉しそうにジャンの側に集まります。
その様子を見て嫉妬したキュートはジャンの肩に乗り、ギンは撫でろと言わんばかりにジャンの横へと座ります。
ミティアはそんなジャン達を見て微笑みながら家へと戻りました。
ジャンはしばらく動物達と戯れていました。
すると村の方からゼルゴと騎士団長フェイグがやって来ました。
動物達と戯れているジャンを見て騎士団長フェイグは目を丸くさせます。
「本当に動物達と仲がいいんだなジャンは。この光景を見てしまえば、動物達がゴブリン討伐の一助になったという話も信じるしかなさそうだ」
騎士団長フェイグはジャンに近付き、ジャンの頭を撫でます。
「ジャン、良くやった。お前がこの村を救ったのだ」
フェイグはジャンを褒めますが、ジャンは首を横に振ります。
「ううん、違うよ。動物達が救ったんだよ。僕は助けてもらうようにお願いしただけで何も出来なかったんだ」
ジャンは何も出来なかったと悔しそうにしています。
フェイグはそんなジャンの頭を優しく撫でます。
「そんな事はない。お前の父にキュートやギンとの出会いは聞いた。お前がキュートを助けなければこの村は滅びていただろう。ジャン、お前が築いた絆がこの村を救ったんだ。胸を張れ」
「···そっか。うん、僕も無力なんかじゃなかったんだね」
「あぁ、お前はこの村の英雄だ」
フェイグに褒められ、ジャンは頬を赤くさせ照れています。
「そうだにゃ、ジャンを凄いのにゃ!!」
キュートはジャンが褒められて自分の事の様に喜んでいます。
ギンもジャンが褒められているのがわかったのか尻尾を嬉しそうに振っています。
「ジャン、それでなんだが、領主様に今回の件を伝えに行くんだが、一緒に来てくれないか? 報奨も貰えるだろうし、当事者が一緒に来てくれた方が説明も楽だからな」
ジャンは領主様の所に行けると聞いて嬉しそうに目を輝かせます。
ナーシャに会える事が嬉しいのでしょう。
「うん、行きたい!!」
ジャンは悩みもせずに即答しました。
こうしてジャンは領主様がいる街――カルフォートへと行く事になりました。
弱き者〜されど無敗〜 立鳥 跡 @tatedori
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