4-9 目的と善し悪し


カチカチ


「ふーん、そんなことがあったんだ」


「……まじで結構胃がキリキリした。本当に破けると思ったんだから。あ、右気をつけて足音」


カチカチ


「おk。てか何その喋り方、うける。お、お、お、よし!一キル飯うまうま!」


「雪音こそ、若者みたi「若者ですけど?な・に・か?」


「……すみません」


 雪音と俺はソファに座り、戦争シミュレーションゲームをしている。今回は雪音が訪ねてきたのではなく、俺が彼女を呼んだ。珍しいな、お前が積極的に女の子を誘うなんて、と思われているとだろうが、この前めちゃくちゃ楽しそうだったから俺もしたかったのだ。だって生殺しだったし……まぁそれだけではないけど。


 トップアイドルグループ『Amour』feat.敏腕マネージャー襲来イベントは、グループリーダーが重度のオタクだった件後特に何も起こらず終わりを迎えた。


 買い出しに行った4人が帰ってきた後、縁さんが何やら事務所から呼び出しをうけたらしく、私が帰るのに他のメンバーを置いていくというのは仕事の関係上よろしくないとのことで、五人と舞香はまとめてお帰りになったのだ。


 茜さんだけはまだ遊びたいと駄々をこねていたが、他のメンバー(主に金城さん)に引っ張られる形で連れて行かれた。この子は純粋に年下として妹として可愛らしいな、強制的に庇護欲を高めさせられる。これも彼女が人気たる所以の一つだろう。こういうことを考えていると、つくづく自分は『お兄ちゃん』という役職がいたについてきたな、と感じさせられる。


「だー!ちょ、あー!し、死んだ……ちょ、俊、ひだりっあー!死んだー……」


 おっと、考え事をしていたら二人とも死んでしまった。久しぶりにFPS系もしてみたけど結構楽しいもんだな。もう一つ改めて気づかされた事があるとすれば雪音のゲーム力についてだろう。普通に俺のサポートもしつつ、キルも重ねて初心者を一桁の順位に持っていってくれた。だから余計にゲームを楽しく行うことができたのだろう。雪音様様だな。


「ありがと、雪音。めちゃくちゃ楽しかったよ」


「……」


「……なんすか」


 先ほどまでの喧騒はどこにいったのか、雪音は黙ってこちらをジッと見ている。仲間にして欲しいのだろうか?


「いや、結構すんなりといってくるようになったのね、雪音と。さっきの軽口も良いわね、ポイント高いわ」


 ……この人、本当にさっきのゲーマーと同一人物か?性格というか人格そのものが変わりすぎだろう!悪魔が憑いてたって言っても信じるぞ俺は。


「さすがにあれだけ言われたら変えるよ。それに母さんにも言われてるしね……仲良くに、と」


「ふふ、佳奈美さんには本当に感謝しかないわね」


「……あれから、何か変化はあったの?」


 そう、今日雪音を呼んだのはゲームだけが目的ではない。当初、彼女が隣に住む目的としていた身辺警護のためである。


 母さんから聞いた話によると、やはり彼女の父親の判断は正しかったようで、いまだにポツポツとだが手紙は来ているようだ。そこで今はどんな感じかを雪音ちゃんに聞いて、と母さんに言われたという訳である。もちろん警察には相談しているらしいが、用心するに越したことはないだろう。


「んー、今のところは特に何もないわね。家からは極力出ないようにしているし、物も通販で取り寄せている。それに、隣には俊も住んでるしね。でも、そうね……少し今とは暮らし方は変えようかな、とは考えてるわ」


「……え?どうして」


 暮らし方を、変える……まさか、引っ越すのか?

 

 突然の思いもよらぬ彼女の返答に、俺はすぐさま反応ができなかった。


「確かに私はあの時、俊がいるならとここに引っ越したけど……状況が、状況だからね」


「……それって、舞香と、絵梨花ちゃんのために?」


「……ふふ、さすがは私の義弟ね、想像力がとても豊か。ほら、もう一戦するわよ。次こそは絶対に勝つ!」


 あえて彼女は何も明言することはなかった。笑いながらに出した言葉の意味上は誇らしく、だが言った本人はどこかもの悲しそうにも見える、そのなんとも言い難い矛盾に次に出すべく言葉が詰まったのか、俺は彼女の意見を否定することもできないまま、その場の幕は下ろされた ——




◇◇◇◇◇




「じゃ、今日も夜遅くなりそうだから。帰りも縁さんに送ってもらうし、俊介は寝てていいからね。あー学校だるい……」


「おーう……」


 あの時、引っ越さないでくれ、という言葉が出なかった。


 だが、そう言ったところで何か変わったのだろうか。きっとあの時にはすでに彼女の心はもう決まっていた。だからこそ、彼女は俺にその話をしたのだろう。


 もし、変質者がどうにかして雪音の家を訪ねてきた時、舞香や絵梨花ちゃんがその場に居合わせることはないと、確実にはいいきれない。その時に迷惑をかけないように……


 彼女は昔からそういう人間だ。大事なことは胸の内に秘め、自分一人で全てを背負いこむ。


「……どったの?朝から心ここにあらずって感じだけど。なんかあったの?」


「んー、いや……」


 舞香は優しい、だが今は彼女だって、いや彼女こそ今が最も大事と言える時期だ。


 この前の俺の家に集まっていたのだって、ただ遊びにきていたわけではない。いくらトップだからといっても何もしないままじゃ何人なんぴとたりとその座に居続ける事はできない。だからこそ、新しいグループ単位でのプロジェクトを企画する為に、ここのところ何度も何度も会議を遅くまで行っている。


「ほら、何かあったんなら言いなさいよ。家族なんだから心配だってするわよ、一人で悩むのだけはダメ」


「……雪音が引っ越すらしい」


「は!?」


 いい兄ならば、ここで伝えず一人で問題を解決することで妹の負担を減らすものなのかもしれない。だが、俺は知っている。雪音を引き止めるには舞香の力が必要だ。その為なら悪い兄だと思われてもかまわない、例え偽善だと揶揄されようと、俺はこの決断を間違っているものとは思わない。


「いつ、そう言ってたの?」


「昨日聞いたんだ、前に話した変質者がらみのことで」


「なるほどね……もしかして、いや、もしかしなくても私たちのためにって事よね」


「おそらくは、な。……すまんが、俺一人じゃ雪音を止めることはできないと思う。だから……」


「わかってる、もちろん手伝うわよ。よし!今から乗り込むわよ」


「さすが、まい……今からぁ!?学校は!?」


「そんなの、少しくらい遅れてもいいでしょ!今一番大切なものが何かを考えなさい。ほら、いくわよ!」


 なんと頼もしい……我が義妹ながら、まるで行動力の化身である。舞香は食べ終わった食器を片付けると、俺を連れ彼女の待つ隣の部屋へと向かったのだった ——



———————————————————

新作短編


『誤作動から始まる隣人お姉さんとの同棲生活』


を掲載しました!お時間がありましたら是非とも御一読お願いたします!!

▼URL

https://kakuyomu.jp/works/16816700427713931088


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アイドルな義妹と女優な幼馴染 どちらか選べなんて無理だろう! mimc @mimc00000

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