第5話 ありがとう

「電車が到着します。

黄色い線まで下がってください」

アナウンスが聞こえて私は前に進んだ。

結局、記憶は戻らなかった。

私がここで誰と出会い、何をしたのか。

何もかも忘れてしまった。

電車が来て乗り込んだ。

椅子に座り、鞄の中を開けると

アルバムが入っていた。

『ハッピーエンド』と書かれていた。

開いてみると私と彼の写真がたくさんあった。

映画館やボウリング。

とてもたのしそうだった。

次のページを開くと『花火大会』

とだけ書かれていた。

花火大会に行ったのかな?

その時、そのアルバムの中から1枚の手紙が

落ちてきた。

開けてみると、

大きな文字で

「ごめん」

とだけ書かれていた。

きっとあの人なんだろう。

私は胸に手を当てたとき、グシャと音がした。

ポケットに何かが入っていた。

そこには枯れた花があった。

私は一体あの人とどんな恋をしたのか?

あの人にどんな事を言ったのか?

きっと迷惑をかけたに違いない。

「わたしこそ、ごめんね。そしてありがとう」

窓を見ると葉っぱが風に吹かれて飛んでいた。

青いまま私の心と共に枯れていった。

「さようなら」

私はあの人からもらった手紙を窓の外に投げた。

そして、泣きながら「ごめんね」と呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピーエンド 緑のキツネ @midori-myfriend

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ