第4話 さよなら

「ごめん。あれは違うんだ。

優子が強引に俺を引っ張たんだよ」

誰かの声が聞こえたが、誰かわからなかった。

「誰?」

「えっ!?」

私とどんな関係があるんだろう?

あんな人と付き合えるはずがない。

自分って誰だっけ?

自分の名前は?

自分、もしかして記憶喪失になった!?

医者らしき人が私の元に近づいてきた。

「あなたの名前は何ですか?」

「分かりません」

「彼の名前は?」

「知りません」

「これは記憶喪失ですね。

記憶が戻るのが厳しいかもしれません」

彼は膝から崩れ落ちた。そして、

何も言わずに帰って行った。

それから、私の名前は覚えたが、家族の名前や

友達の名前、何もかも忘れてしまった。

そんなある日、私の元にお母さんがやってきた。

「お父さんが遠くの地域に転勤することになったの」

「それってどういうこと?」

「引っ越すことになったの」

「いつ?」

「明後日」

「分かった」

私には友達もいないため、何とも思わなかった。

次の日、私はずっと通っていたであろう高校に

行って最後の挨拶をした。

「今までありがとうございました」

私がそう言うと、女子たちは笑いながら拍手した。

「さみしいよー」

ギャルが可愛い声で言ってきた。

病院に来てくれた男の人は静かに外を見ていた。

帰る時、彼が私の元にやってきたが、

何も言わずに涙を流しながら帰って行った。

何をしたかったのか?

そして、いよいよ引っ越しの日を迎えた。

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