第5話 歪と連帯

 目の前には、大きなダンジョンのような建物がそびえ立っている。


 まるで、夢の世界からそのまま持ってきたかのような、カラフルでどこか不思議な雰囲気を放っている。




「谷底にこんな…建物が…。」


「この谷は、有名な谷です。古代の人々は、ここで敵から身を守るためのアジトをよくここに建てていました。必要があれば穴を掘ったり、岩を掻き分けたりして、大規模なアジトを作っていました。でも、最近は王都の拠点も離れてしまって、この辺りの土地は使われておりません。」


「へー。」


「そして、古代の生態系がそっくりそのまま残っています。なので、ここにいると時間の流れがゆったりとしたように感じられます。」


「よし、中に入るか!」




 俺が扉を開け、中に入ろうとすると、慌てふためいた様子で副王妃が止めようとする。




「いや、ちょっと待って下さい!」




 いきなりのことに驚いたが、扉から手を離す。




「その扉、罠がかかっているかもしれません。ここは、慎重に観察しましょう。」




 俺は、扉の取手から板の隅々まで隈なく調査した。


特に罠はないようだった。




「よし…。慎重に…。」




 小声を漏らしながら、慎重に開けていく、すると…。




「うわぁー!」




 俺は、慌てふためいた。俺が踏み出そうとした、足のほんの数cm先から、どかどかと崩れ落ち、人が一人はまるぐらいの小さな穴が空いた。


 すると副王妃が、




「危なかったですね。慎重に行ってよかったです!」


「危なかった…。最初から罠があるとか鬼畜過ぎ!マ○オじゃあるまいし…。」




 一歩ずつ一歩ずつ…。慎重に歩を進めていく。少し羽目を外せば、罠にハマる。




「あー、気が狂いそうだ。」


「あっ!そのボタン踏んではいけません!」


「ん!?」




カチャッ!




 っと俺はうっかり、足元にあった小さいボタンを踏んでしまった!


 すると、視線の先の道に針が現れた。


 下から上に向かって、50センチ程突き出している。




「む…無理ゲーじゃん!こんなんマ○オじゃないと無理だよ!」


「いや、手立てはあります!重力魔法が使えればの話ですが。」


「ん…もう!今、俺神様と入れ替われないんだよねー。目を合わせないと…。そ、そうだ!ラシードさん!あなたと目を合わせれば、いや、間に合うか?」




 俺は考えた。神様と入れ替われるのは、ほんの1、2秒程。良くて3秒もつかもたないかぐらいだろう。


 その間に、この針のゾーン100メートルほどをくぐり抜けられるか?




「いや、神様なら重力を反対にするぐらい楽勝なんじゃ…。」




《呼んだか?》




「かっ…神様!あの…重力を反対にすることは可能ですか?」




《ん~。でも、その後結構な負荷がかかるかもだけどいいかい?》




「よ…よしっ!分かりましたっ!やってみます!」




(いち…にい…)




「え?本当にやるんですか?負荷がかかるって言ってますけど。」


「そんなもん関係ねぇー!男ならとばすっきゃないでしょ!」




(さん…し…ご…ろく…)




「こういうところは慎重に行かないと…。」


「やるときはやらないと、何も始まりませんよっ!」




(なな…はち…きゅう)




「どうなっても知りませんからね!」




(じゅう!)




「行くぜぇーっ!神様っ!バトンタッチだっ!」




《よーし。そこの君!ぼくにつかまって!》




 ラシードは、少し戸惑ったが、そんな暇はないと悟ると肩につかまった!




《少し、スピード出すけど、我慢してねー!》




「うぃうぃうぃうぃうぃ」




顔が可笑しくなりそうな速さだ。


(少しどころじゃないじゃない!)




 あと、10メートル程になって、効果が切れそうになった。




《や…やばい。もうだめだー!》




「うわぁぁぁーーー!」




 そのまま落ちそうだったがギリギリのとこで回避した。


 あと、数ミリずれていたら大怪我だ。




「あ…あぶねぇーー!死ぬかと思った!」




そして、後ろを振り返ると…




「あわわやわやわわ…。」




 泣きながら震えているラシードの姿があった。




「だ…大丈夫ですか?」


「だ…大丈夫です!さ…先に行きましょう!」




タッタカと足早に歩き始めた。




「あー!待って下さいよ!罠があるから慎重にって誰が言ったんですか?ホントにもう!」




ラシードは少し怒っているが、なぜ怒っているのかは分からない。




 それより頭が痛い。先程の代償だろうか。




俺が原因なのだろうか?




 そうも思ったが、よく分からない。昔から女というものは訳がわからない。意味の分からないところで切れたりするものだ。


 ラシードは、僕の少し先を行っている。


 罠にはまったりしたら大変だと思った次の瞬間!


両側の少し飛び出た岩が飛び出してきた!




「ぐはっ!が…あ…。」




 危ない!今にも押しつぶされそうだ!もし、腕を掴んで力で引き戻そうとしても、挟まれているため、千切れる可能性がある。




(どうしよう)




《力で岩自体を壊せば中のやつだけ助かるんじゃない?》




「おっ!さすが神様!いいこと考えるね!」


「でも…岩自体を壊せても、挟まっている部分が残ったら意味ないじゃん!」




《チッチッチッ。岩自体を壊すんじゃなくて、細かく言うと、分解するんだ!その物質自体を分解してしまえば、残ることはないよ!》




「しょうゆ…。エホンッ!


そういうことね!」




「う…あ…。」




「ま…待て?でも、十秒目を合わさなきゃいけなかったよね?ま…間に合うかな?」 




《さ、さぁね。》




「まっ!やってみるっきゃないでしょ!」




《そうこなくっちゃね!》




(いち…にい…さん…し…ご…)




「う…あ゛っ!がはっ!」




(間に合うかな…な…はち…きゅう…)




さらに、幅が狭くなった!




「うあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」




(じゅう)




「よしっ!行くぞ!バトンタッチだ!」




《よし!》




岩に触れた。


脳を使って解析する。




《岩ぐらいなら…。ん?この岩仕掛けがされてあるな?少し解析に時間がかかりそうだ!》




「お…お゛ぇー!か…ぐ…う…あ…。」




《ヤバい!もう…。もたない!》




「うわぁー!」




俺は、バトンタッチした衝撃で倒れている。


はっ!として立ち上がる…。




─end─

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