帰ろう
「さぁ、帰ろう。キーシャ」
そう私は言うと、キーシャを振り返った。
するとキーシャは私の服の端を握り締めていた。その顔は今にも泣きそうだった。
「……もう無理をしなくてもいいのだよ、ウィル。私のせいで同族殺しをさせたようなものじゃない……。だから、自分のことを責めないでよ。魔族が全て悪いのよ」
「そんなことはないよ、キーシャ。私が自ら決別したのだ。だから、何も君のせいではない。私が私の邪魔をした者を、私の意志で倒したのだ。それだけだ。それに君のような人が誰かを殺めている姿は見たくもないから……。
だから、帰ろう。君の暮らしていた故郷へ。きっとこんな役立たずな裏切り者でも、何か出来ることはあるかもしれないし……ね」
私は空の彼方を見つめた。自分は魔王を殺した魔族にとっての裏切り者であり、人間からすれば魔族に裏返った裏切り者である。もう私には帰る場所はない。だが、キーシャを送り届けることだけでも、最後にするべきだった。
そう私は決意して、歩き出した。
隣にはキーシャがいてくれた。だが、私には自分の背後に死神が纏わり付いてる気がして仕方がなかった。それが私を殺すためにいるのか、私に殺されたことを恨んでいるのか……。もう分からない。
彼に捧げるレクイエム 影冬樹 @kagefuyuki
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