誰がための聖戦
向かって来る男に敬意を表し、私は彼を斬り伏せた。悲鳴を上げさせず、ただ何かを感じさせる前に。闇の力で相手の懐に入ったので、他から見ればいきなり男を倒したように見えただろう。血を全身に浴びながら。
得体の知れないものは、恐怖を呼ぶ。
「化け物がッ。闇使いなど聞いてないぞ」
と、一人の男が叫んだ。
他の者もいつの間にか、歩みを止めていた。恐怖から、そうせざるを得なかった。
私が剣を引き抜くと、男は無造作に倒れた。重い何かが落ちる音が耳に聞こえた。これが本当は守るべき者に、刃を向いた結果だった。何とも虚しくなり、同時に呆気なく感じた。
剣を振り下ろして、付いた血を落とした。地面に赤色の模様が描かれた。
私は剣を持ち直すと、男達に真っ直ぐ向けた。
「お前達はこれまで何人殺したのだ?」
「俺らは悪くないですっ…そこの隊長が俺らに無理矢理殺させたのです。だから、」
「だから?」
と、焦ったい男に私は聞いた。
「悪くないのですッ」
と、男は言い切った。
私は彼を静かに睨んだ。口を開けば、書き記せないほどの言葉が、飛び出しそうだった。
「…お前らは同じような台詞を吐いた者を、その手で何人も殺したのだ。たとえそれが他者からの命令であったとしても。最後に判断するのは、自分だ。お前が自分の意思で、自ら丸腰の人々を殺めた。それは事実である」
と、男の首元に剣を当てた。
「その者達のためにお前を殺める事が出来るなど、幸せだ。きっと殺された彼らも安心して、成仏出来る。どの道処刑される運命なら、それが早まって困る事はない」
私は今更、命乞いを始める男を一度睨んだ。そして、リーダーのように首筋に剣を滑らせた。吸い込まれるように、剣は切り進んだ。
騒めく男を無視して、私はすぐに後退った。汚れた血が付く事のないように。
二人が倒された事で、他のびびった男達が逃亡しようと動いた。それを察知した私は、闇の力で懐に入って、切り倒した。
その場で生きている者は、私とキーシャだけになった。辺りには倒れている男達と、必ず近くに発生する血の海。その光景は自分が見慣れているものだった。
狩る者と狩られる者。狩り人と獣、強者と弱者の関係だった。
自分がまたいつか見ると思っていた、光景だった。
そのはずなのに、私の胸には言葉で表せない虚しさが残っていた。きっとこんな形では終わって欲しくなかったのだろう。
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