聖戦の始まり

 副首都の隣街を避けながら歩いていると、背後から馬に乗る大群が追って来た。全員が武装していて、一つも平和的な様子がない。こちらが止まると、大群の先頭を走る男が馬を止めた。一度振り向くと、キーシャはすぐ後ろに隠れていた。

 私は勇気を出して、声を掛けた。向こうに聞こえるよう、全力で叫びながら。

「お前達は何の用がある?」


 男はこちらを見物するような目をした。何かと嫌らしい、気持ち悪い視線である。

「お前がそこの魔族と手を組む、異端者か? 今、ここで捕まるのなら、お前が苦しむ事なくあの世に送ってやろう。少しでも抵抗するのなら、その魔族と同じように地獄を味わせてから、死ぬがいい」

 と、出会って数秒で男はいきなり死刑宣告をして来た。

 これだから、私は人が嫌いなのだ。人であるにも関わらず。そもそも、人を間違っていたら、どうするのだろうと思った。


「待て。何を証拠にこの者を魔族と決め付ける?」

 それは、私なりの彼らへの挨拶であった。最後の、彼らがどう思うかを言わせるために。


「証拠などいらないのだ! 怪しい者は全員、異端者であり、邪悪なる魔族と手を組む、人類の叛逆者であるのだ……分かったのなら、大人しく死ぬがいい」

 男は腰から剣を抜くと、神秘的な光が現れる。

「この、聖剣に滅せられる事でっ」

 と、男を先頭に大群が剣を手に、押し寄せて来た。


 私は気付いてしまった。彼らのように狂った人々のせいで、何人もの人間が殺されたのだ、と。もし、私が魔族であるキーシャと一緒にいないとしても、殺されていたかもしれない。叛逆の英雄として、全てを嘘に固められて。

 ただ、唯一の幸運を言えば、これからする事は全て自分の意思である。誰にも邪魔されない聖なる戦い、聖戦を行うのだ。魔族対人類と言う、人が作り上げた終わりなき戦いを、この手で終わらせるために。それなら、これからこの手で血で汚れても、気にする事はない。


 私はキーシャを再度、見た。怖さで丸まっているのだった。彼らに争う力を持ちながらも、決して傷付けようしない。その一方で、向かって来る彼らは何をしようとしている。ただ、魔族であるから、異端者であるから、殺す、だと。そのような事など、あってはならないと今なら言える。彼ら魔族を一番殺めて来た、英雄であるから。



 顔を歪ませながら、襲って来る彼らを眺めながら、私は剣を抜いた。

 ここから、聖戦が始まる。二つの勢力が命を掛けて、彼らの信仰を世界に示す時が。

 そして、私の戦死者殺された者達への弔い合戦を行う、戦いが。


 ここには、血と死しか存在しない。

 だが、一方に希望も芽生えようとしている。


 勝ち取った者だけに授けられる、希望と言うものが。

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