The Rampage 1912 - 不死者は不死であるが故に最高の死を求める

冬野立冬

prologue - 不死者は不死であるが故に最高の死を求める


 北国のとある小さな村にてその事件は起きた。


 ────早朝、四時二十分。


 村の誰もが夢の中に身を投じている時間帯に『ソレ』は村の中に踏み込んだ。

 雪の上に自身が歩んだ証を残しながら『ソレ』は村の中を彷徨う。

 のそり、のそりと家の横を通り過ぎて行く。

 雪の上を歩いていると言うこともあってか『ソレ』の足音はそこまで響かず、村人の誰一人して村に歪な存在が入り込んだ事に気付いてはいない。

 それを良い事に『ソレ』は村の中を自由気ままに歩き回る。

 やがて、一つの家の前に『ソレ』は辿り着く。

 木の扉を巨大な身体で無理矢理に押し除け『ソレ』は半ば強引に家に身体を押し込む。

 そしてその時、初めて家主である村人が『ソレ』に気付いた。


 暗闇の中を蠢く三メートルはあろうかと言う巨大なはゆっくりとこちらに呻き声の様なものをあげながら近付く。


 そして、村人の目の前に立った瞬間。村人はようやく目の前の『ソレ』が何者なのかを理解し眠気を瞬時に覚ます。

 叫ぶ事でせめて家の中にいる家主の子供にだけは被害を出すまいと声を上げようとするが────


 ガキリ。という歪な音と共に声を上がる暇もなく頭蓋骨を強靭な牙で割られ即死した。

 『ソレ』は亡骸となった村人の肉を頬張り、口元に真っ赤な血を付けて暗闇の中に水が混じったねちゃねちゃという音を響かせては時々骨を砕く激しい音を響かせ自らの腹を満たしていく。

 そんな最中────


「母ちゃん……?」


 部屋の奥から子供がその光景を見てしまった。

 視界の先に横たわる母かどうかも最早判別がつかない亡骸を見て子供は根源的な恐怖を覚えて涙を流し始める。

 そして涙の次に遅れて子供は泣きじゃくる。

 村に一つの泣き声が響き渡るが村に人々は大半が気付かない。気付いた者もいたがまさか子供の親が死んだ事によって泣いていると思う者はまずいなかった。それ故に誰もこれから起こる惨劇を知る由もなかった。


 そして突如村に泣き声はプツリと止んだ。

 声に反応して起きた村人数人は泣き止んだと思い再び床に着く。

 しかしその声が消えた原因はそんなモノではない。


 子供は顔から巨大な爪で引っ掻かれ衝撃と共に壁に打ちつけられた後首元を噛まれた事によって骨が砕け、これまでに味わったことのない様な痛みと共にこの世を去ったのだ。


 ────午前七時。


 その家で起きた事はすぐさま一人の村人から芋づる式の様に村全体に広まった。

 そして村長はその凄惨たる現場を見て血の気を引いた顔になりながら呟く。

 これは────ヒグマの仕業であると。


 ×                     ×


 そんな悲劇の村に一人の飄々とした態度をぶっきらぼうにぶら下げている男が訪れようとしていた。

 日本人ではない。

 髪はヨーロッパ人独特の金髪であり、軽い天然パーマが掛かっている人物であった。


 彼はであった。しかし彼は不死者故に


 とは言っても彼は決して死にたがりという訳では無いのだが、とある理由から彼は最高の死を求めて世界各地を歩く放浪者となっていたのだ。


 そんな彼はもちろんこれから訪れる事となる村が羆によって恐怖のどん底に叩きつけられている事など知る由も無い。

 そして彼は不死者としてこの村の英雄として受け継がれるようになってしまう事も未だ────勿論知る由も無い。

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The Rampage 1912 - 不死者は不死であるが故に最高の死を求める 冬野立冬 @fuyuno_ritto

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