架空の音楽ゲームとARアイドル

アーカーシャチャンネル

本編

 とあるアイドル動画を見たユーザー達は、その内容に驚きの声を上げていく。その動画の投稿された日時は西暦2017年1月1日午前10時とある。

【これは一体?】

【信じられない】

【時代が追いついたのか】

【このアイドルって、CGか?】

【凄すぎる】

【最近のアイドルは、ここまで進化したのか】

【まさか、元日にこのような動画を発見出来るとは】

【あのグループには勝てないだろう】

【まだ超有名アイドルは現役だ。CGのアイドルに負けるはずがない】

【えっ? あれってCGだったのか】

 様々な声が動画のコメントとして流れる。それほどに、彼女の登場は衝撃的だったのだ。特定の名前はないが、キャプション文にはARアイドルと言うシステムを使用して制作した物である事が書かれている。

「これが新世代のアイドルになるのだろうか? そして、コンテンツ業界にも影響を与えるのは間違いないだろう」

 動画を見ていた一人の青年は、動画に登場したアイドルが今後の日本におけるアイドルコンテンツに影響を与えるのでは、と考えていた。



 それから一カ月後の2月1日、衝撃的な展開を迎え――ネット上でも、このニュースが盛り上がっていた。

【どういう事なの?】

【確かに便乗商法が凄い事になっていたのは分かるが……】

【ここまでやらないと止められないという事か?】

【超有名アイドル商法の規制法案?】

【ネットのニュース記事を見るまで、ネタかと思っていた】

【掲示板のスレでは、大騒ぎになっているようだったな】

【ここ最近ではステルスマーケティング等も問題になっていたからな。業界に対して自重を求めたが、無理だったという事かもしれない】

【自重を求めた結果が、この規制法案なのか?】

【何でもかんでも規制法案にしてしまうのは問題があるが?】

 その日は超有名アイドル商法規制法案が国会で成立され、芸能人の間で起きているステルスマーケティング、超有名アイドルの名前を悪用した詐欺事件等が法案成立を加速させたのでは、と言われていた。

 その一方で、つぶやきのまとめサイト等による情報改悪、超有名アイドル投資家と呼ばれるような勢力も加担した結果が規制法案だという声もある。

 しかし、それらのつぶやきはタイムラインにも掲載されていない為、アカウントごと削除されたという気配もあった。



「これで、アイドルを巡る一連の流れが変わる」

 スマートフォンでネットの状況を確認していた青年は、机の上に置かれているパソコンで何かを調整しているように見えるのだが。

 服装はいかにもオタクテイストな物ではなく、逆に知的と言われそうな服装センスを持っている。

 そして、彼の扱うこのパソコンは、いわゆるビジネスモデル等ではなくカスタマイズされたゲーミングタイプだった。何故、そこまでの高性能を求めたのかは青年にしか分からないだろう。

 ゲーミングパソコンだからと言って、イースポーツやブラウザゲームの為に用意した物でもないのだが――。

「彼女は日本で今までと違う新アイドルとしてデビューする事になる」

 青年が調整していたのは、ARアイドルだった。ドレス等は仕上がっており、後はダンスの微調整と言った所だろうか?

 ARアイドルはバーチャルアイドルと概念的には似ているが、VRとARの意味が違うのと同じように、ARアイドルは拡張現実技術を使用した次世代のアイドルなのだ。

「モーションキャプチャ―ならば簡単だが、この場合は微調整が難しいか」

 モーションキャプチャ―で直接入力する方式と、あらかじめ用意されたモーションからセレクトして組み合わせる方式等があるが、彼の場合はモーションをゼロから作成しているのである。ここまでの作業をして、彼は何を伝えようとしているのか?



 超有名アイドル商法規制法案が話題になってから、一週間後の2月8日――都内のゲームセンターにてロケテが行われていたゲームが話題となっていた。

「この時期にロケテと言うと、格ゲーか?」

「もしかすると、プライズゲームの景品かもしれない」

「あるいは、カードゲーム系の先行稼働かも」

 そんな会話をしていた男性客2人がゲーセンに入ると、ある一角で人混みが多かった。どうやら、男性の一人が指差すエリアがロケテをしているエリアらしい。

「あの筐体か…。形状の見た目は、カードゲーム系に見えるが違うのか?」

「カードゲームと言うよりは、ダンスゲームに見える」

「ダンスと言うよりも音楽ゲームじゃないのか?」

「音楽ゲームではあるが、アバターが踊っているのが見える。PVかと思ったが、そうではないらしい」

 2人の男性が発見したのは、ARステージと言うARアイドルを踊らせる事が出来るゲームである。

 女児向けのゲームでアイドルを題材にした物が存在するのだが、それをAR技術で発展させたのがロケテの行われている作品と言ってもいい。

「簡単に言えば、ARステージはアイドルのオーディションステージと思っていただければよいと思います。そして、このゲーム…というよりARステージでは、プロデューサーが育てたARアイドルの技術を発表する場になっております」

 ゲーセンとは違うスタッフの女性は、ARアイドルと同じコスチュームを着て2人に説明をし始めていた。どうやら、彼女はゲームメーカーのスタッフらしい。

「ARアイドルって、1月に話題となった例の動画ですか?」

「そうです。そのARアイドルを使用する事でプレイが出来ます」

「自分達はARアイドルを所有していない。この場合は、どうやってプレイすれば?」

「この場合は、ネットでダウンロード可能なARアイドルのサンプルモデルを使う事も可能です。ロケテストでは、準備してもらう物は特にありません」

「サンプルですか。ARアイドルは、確かアイドル・プランというARアイドル作成ソフトを使う話も聞いていますが…」

「このARステージは、アイドル・プランで作成したARアイドルを自由に発表できる場所の一つとしても機能するようになっております」

「なるほど。ああいう風にプレイするのか…」

 スタッフの説明を聞いている男性とは別に、もう一人の人物は他のプレイヤーがプレイしている光景を見ていた。目の前にある2面パネルの下をタッチしているように見えるが――。

《ARステージ スタート》

 システムボイスが流れた後、固定された8つ存在する筐体とは別に設置された中央モニターに8人のARアイドルの名前と外見、プロデューサー名が表示された。

 更には、現在の順位も表示されている。どうやら、オンライン対戦型と呼ばれるゲームに該当するらしい。

「この場合、プロデューサーはARアイドルをサポートする役割…と言った所か」

「他のゲームで言う所のプレイヤーは、ARステージではプロデューサーに該当します」

「順位があるようですが、どのような基準で決まるのですか?」

「順位に関しては、ダンスがうまく踊れたか、要所のアピールポイント等でポイントが加算され、プレイ終了後に最終順位が出ます」

「その際の曲に関してはランダムですか?」

「全員が同じ課題曲をプレイします。課題曲で一定ポイントに到達した場合、自分の持ち歌を披露できる次ステージに進む事が出来ます」

「その次ステージと言うのは?」

「簡単に言えば、ボーナスステージのような物でしょうか。1プレイで2曲+ボーナスステージで1プレイ200円設定になっています。今回はロケテストと言う事もあって、1曲+ボーナス1曲という特別設定です」

 スタッフが言うにはロケテスト仕様で200円と言う事らしい。他にも電子マネーも使用可能だが、今回はロケテストと言う事もあって非対応らしい。



「何か、メモリスロットのような物があるんですが?」

「このメモリスロットに、楽曲、衣装、ダンスのメモリを入れる事で画面中央にARアイドルが出現します。ロケテストではサンプルが用意されていますので、特に気にする必要はありません」

「なるほど。ここにアイドル・プランで作成したARアイドルのメモリデータを読み込ませるんですね―」

 10分が経過し、自分の番が来た男性はスタッフの女性から3つのメモリスティックを受け取り、それぞれのスロットに挿入する。

「これが、ARアイドル…」

 彼は目の前の光景に驚いていた。アニメに登場するようなデザインのアイドルが、自分の目の前で手を振っているのである。他にも色々な仕草等を見る事が出来るらしい。

「これは……?」

「ARアイドルのロードが終了しましたので、ここで簡単な動作説明が入ります」

「動作説明と言うと?」

「この動作説明後に楽曲選択画面が表示されます。そこで楽曲を選択後、バトルが始まると言う仕組みになっています―」

「バトルですか?」

「バトルと言っても、アイドル同士で格闘技をしたり、シューティングのようなバトルをする訳ではありません。それは、動作説明を見れば分かります」

 しばらくすると、動作画面が現れた。ひし形のボタンがタッチ画面の中央にあるライン上に配置されているように見える。



 そして、左から現れたのはSD化したARアイドルのように見えた。SDキャラと言うと、デザインにも賛否両論が出てきそうな予感もするが――完成度は非常に高く、デザインが荒いや時代遅れの様な声は出てこない。

「このSDキャラが、他の音ゲーで言う所のプレイバーや判定ラインに該当します。SDキャラは常に動いていますので、タイミング良くひし形のボタンを押していけば、演奏しているかのように見えます」

「なるほど。表示されているSDキャラに関しては変更は可能ですか?」

「SDキャラのコスチュームやデザインを変えることは可能ですが、SDキャラとは別の物に変更するのは不可能ですね」

「そうですよね。普通にプレイバーとかにすると、別のゲームにも見え…」

 色々と直球で言うとまずいようなネタも織り交ぜつつ、チュートリアルは終了した。ひし形以外にも、他のゲームではロングノート等と呼ばれているずっとタッチしている必要のあるライン、それ以外にはアレンジボタンと言うのがあった。

 基本は、この3種類のボタンを使うようだ。音楽ゲームとしては複雑な部類ではなく、それこそ幼児向けテイストを織り交ぜたような部分も存在している。

「アレンジボタンは、一部楽曲限定で使用するボタンです。ここ最近ではボリューム等を操作する事でエフェクトをかけたりできる音楽ゲームがありますよね? ああいう感じの操作が出来るようになります」

 スタッフさんの方も音楽ゲームをやる人らしい。そうなると、話が早い。

《ARステージ スタート》

「この曲は、比較的にボタンの数が少ない。いけるか?」

 2画面構成のモニターは、上ではARアイドルが踊り、下では音楽ゲームをプレイするような感覚で指定されたボタンをタッチするような……そんな光景が展開されている。

 ゲームの見た目はARゲームでなくても十分なシステムであり、あえてARゲームにする必要性があるのか――という意見もあるかもしれない。

「えっ!? えっ?」

《アクシデント》

「これって一体どうなっているのか――?」

 プレイしていた側の人物も、この状況には慌てているような表情をする。その一方で、別の場所でプレイしているプレイヤーは落ち付いているような表情を見せているが、類似ゲームで慣れているのだろうか?

「一定以上のミスが続くと、ダンス中のアイドルが転倒する、ダンスを間違える等のアクシデントが起こるようになっています。それを立て直す為にも上手く演奏をする事が求められます」

「ゲームオーバーのタイミングは?」

「操作パネルの方で評価ゲージと言う物が見えますね? それが0の状態で1曲が終わるとゲームオーバーになり、エキストラステージへ進めません」

「エキストラステージへ?」

「そうです。製品版では、1曲目にもプレイ保証がありますので、演奏失敗したとしても2曲目へ行く事が出来ます」

「演奏失敗以外では?」

「マッチングした場合、ベスト4に入らないとエキストラステージへは進めません。ちなみに、エキストラステージは1プレイ中1度しか体験出来ませんが…」

「つまり、エキストラステージはオーディション合格のごほうびみたいな物と?」

「そうなりますね。エキストラステージは、基本的に音ゲー的な操作は必要なく、観賞メインと言う事になります」

「エキストラステージでは、何か特典があるんですか?」

「今の所は予定はないですが、ステージの様子がオンラインで全国のプレイヤーにお披露目できたり、動画サイトに動画をアップ出来るようになると思います」

 そして、彼のプレイは終了した。結局、エキストラステージに到達出来なかった。



 ロケテスト版の場合、製品とは仕様が異なるケースが多いのだが、今回の場合はプレイ前に配布されているパンフレットでは製品とほぼ同じ仕様でロケテストをしていると書かれていた。

 パンフレットの方が印刷上の都合でそのままなのだが、ロケテスト筺体は仕様が違う――というのも否定できないが、周囲の声を聞く限りでは、そんな事はないらしい。

 一方で、一連のロケテスト動画を見ていたネット住民の反応はバラバラだった。魅力を感じずに動画を途中で切った視聴者もいるだろう。

 しかし、全部見た上で感想を言った方が炎上しにくいというのも一理ある。それを踏まえての反応のようだ。

 下手に炎上させるような意見を書けば、炎上マーケティング狙いのサイトに本来の魅力を伝えられずに炎上したまま稼働中止――という事にもなりかねない。

【ネット上のプレイ動画を見ても、面白いかどうかが分からない】

【これはロケテストに行かないと分からないと言う事か?】

【ARアイドルで、ここまでの拡張性を持たせる展開には驚いた】

【将来的に他のプレイヤーのARアイドルを披露する大会とか、賞金が出たりとか…ありそうな気配がする】

【アイドル・プラン自体はソフトが出ているはずだから、ARステージが正式に稼働するまでに作品を完成させるのも手か?】

【正式稼働が待ち遠しいぜ】

【1プレイ100円で2曲+ボーナスステージは高いと見るか安いと見るか…】

【ボーナスステージは動画でアップ出来るかどうかで、評価が分かれるかもしれない】

 純粋にARアイドルに期待する者もいれば、空振りで終了するのでは…と言う意見もある。



 同日午後7時、ネット上では別の動画も話題となっていた。丁度、つぶやきサイトのタイムラインは、その話題で持ちきりだった。

【早速、アイドル・プランで作成したARアイドルの動画がアップされているようだ】

【クオリティ高い作品が多いな。これじゃあ、自分の作品が埋もれてしまう】

【誰だって、最初は初心者だ。いきなりプロ級の作品が出たとしても、疑惑が浮上するのもARアイドル業界だと思う】

【まずは、自分で作品を作って発表する…それがスタートラインに立つと言う事かもしれない】

【そうだな。確かに作品を発表しないで、いきなり下手な作品は出せないから発表を辞めるというのは間違った認識かもしれない】

【超有名アイドルと同じ過ちをARアイドルでも繰り返す事だけは回避して欲しいと思っているが、その願いは届かないのだろうか?】

【人の作る物である以上、絶対に事件が起こらないという保証はないだろう。ファンが暴走するなどしてARアイドルブームに水を差す事だけは――】

 果たして、ARアイドルも超有名アイドルと同じ結末をたどるのか、それとも別の可能性を照らしだせるのか?

「全てはARアイドルファン、ARアイドルのプロデューサー、ARアイドルの運営がお互いに支え合うような展開が理想かもしれない」

 タイムラインをスマートフォンで見ていた青年は、ARアイドルが新たな火種を生み出しそうな気配を感じていた。

 それが現実にならない事を祈るばかりである。実際に、このゲームがロケテストのみで終了したのか、正式稼働したのかは――まだ分からない。

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