エピローグ

最終話 【#コラボ雑談】最近のふたり【花蜜はにー/萌黄あかつき/虹】

 9月も下旬に入った土曜日の昼下がり。


「みなさん、こんにちは~。花蜜かみつはにーです」


 僕はいつものように配信を始めた。


「みなさん、どうも、こんあかつき。レインボウコネクト3期生、バーチャル魔法少女萌黄あかつきでーす」


 恋人であり、推しでもある彼女と一緒に、僕の部屋で配信をしている。


「今日の配信は雑談なんですけど、あかつきさんとコラボなんです」

「だって、今日は記念日なんだもんっっ!」


 詩楽が抱きついてきた。形の良い双丘が僕の腕に押されて、形を変える。


(ちょっ⁉)


 配信中に、僕の男が覚醒したらどうなるんでしょうか?


「はにーちゃん、今日は何の記念日でしょう?」

「うっ、うーん、えーと」


 おっぱいに気をとられていて、頭が働かない。


「ぶっぶー…………なんで、あたしたちの大事な記念日を忘れちゃうの⁉」


:配信で夫婦喧嘩をする女子ふたり

:はにーのことだから、お約束を守ろうとしてるに1万ウルチャ

 

「ごめんごめん、あかつきさん。別のことを考えてた」

「女のことなんでしょ?」

「ち、ちがいますって……いや、女であってるか」

「はにーちゃんも男の子だもんね。浮気は許す。本気だったら、世界を滅ぼすけど?」

「あかつきさん、なにから突っ込めばいい?」


 そう言いつつも、僕は視線を詩楽の胸元へ。胸元が開いたシャツは見るだけで兵器だ。


「えへっ、はにーちゃんったら、あたしに夢中でかわいいんだから~❤」


 詩楽は僕の視線で意味を悟ったらしい。


:なぜ、あかつきは急にデレたんだ?

:闇堕ちからのデレとは不安定すぎるやろ


「あかつきさんとナニをしているかはご想像にお任せしますね」


:ナニがカタカナなのが意味深

:絶対にエロいことしてるな

:配信中にエロ行為って、エロマンガかよ⁉

:結婚前提の付き合いじゃなかったら、ぬっころすとこだったわ


 最近、はにーが男性だったり、あかつきさんと交際していたり、いろいろ暴露した結果、リスナーさんからネタにされることが多い。


「で、はにーちゃん、今日は何の日だっけ?」

「えーと、はにーとあかつきさんが出会ってから丸1年の記念日だよね」

「正解でーす。ご褒美にチューするよ」

「いや、みんな見てるし、配信中にエッチはまずいよ」

「もちろん、冗談。だって、あたし清楚な魔法少女だもん」


:清楚w

:って、今の会話からすると、配信中にエッチしてなかったんやな

:はにーを呪い殺すとこだったわ


「というわけで、1年前の今日、はにーとあかつきさんが知り合いました。あかつきさん、当時の思い出を振り返ってみて、どうですか?」

「あたし、橋から飛び降りようとしてたけど、はにーちゃんのアニメ声に一耳惚れして、やめたんだよね」

「予想以上に重い話が返ってきた~」


 内容とは裏腹に、詩楽も僕も明るい口調だ。


「あのときは、マジでどうしようか困ったよ。コンビニ帰りに橋を通りかかったら、美少女がとんでもないことしようとしてたんだから」

「……反省しています。もうしませんから」

「わかってる。この1年であかつきさんが強くなったこと、はにーが誰よりも知ってるから」

「はにーちゃん、ちゅき。ちゅきすぎる❤」


:隙あらばバカップルになりやがるw

:てぇてぇとはいったい?


「でも、あの事件がなかったら、あかつきさんと付き合うことも、推しと一緒に活動することもなかったんだよね」

「はにーちゃんがVTuberやってなかったら、救えない命がたくさんあったと思うの」


:あかつき、良いこと言う

:魂が男でも、それだけ声がかわいければセーフやろ

:はにーは男の娘ヒロインだと思ってる


 僕、がっちり目な体格なんですよ。武道系の人ほどじゃないけど、平均よりは肩幅が広いし。男の娘には無理がある。

(声だけ男の娘って、ありですか?)


「で、あかつきさんと出会って、1年が経ったわけですが、はにー今が楽しくてしょうがないんだよね」

「あたしも。はにーちゃんのおかげで、先輩や後輩、同期とも仲良くなれたし」


 そこで、ディスコーダーの着信があった。


『へろー、おふたりさん。アモーレが参上にゃ』


 美咲さんだった。美咲さん以外にも声が聞こえる。マイクの近くで誰かしゃべっているようだ。


『ふたりとも1周年おめでとうだぜ。あかつき、記念にオレとセクロスしねえか?』

「プリムラ先輩。あたしの母親の劣化コピーですよ?」

『がーん、オレ様のセクハラが劣化コピーだと⁉』


 プリムラ先輩がショックを受けていた。

 セクハラのヒドさは競い合うとこじゃないと思う。


『すやぁ~ふたりともおめでとう』

『2期生3人で勉強会してたんだけど、休憩でふたりの配信を見始めたにゃ』


 今日のアモーレさんは語尾が美咲さんモードになっている。


『で、聞いてて、おめでとうのセクハラをしたくなったわけだぜ』

『ちがうっての。バカップルを観察する会をしたいって話になったんだにゃ』

『それもちがう。婚約記念パーティでしょ~すやぁ』


 スイレン先輩は突っ込んだ直後に寝てしまったようだ。


『というわけで、楽しみにしといてにゃ』

「ありがとうございます」

『あっ、最後にひと言。婚約まですれば、セクロスしてても、てぇてぇ理論は成り立つよ? みんな、セーフでいいよな?』


 美咲さんは最後に爆弾を投げて、通話を切ってしまった。


:セーフと言わせようとの圧がw

:まあ、中途半端よりはマシだけどさぁ

:そういうの気に食わない人は離れてったし、やりたいことすれば


 続けて、ディスコーダーの着信音が鳴った。


『おめでとうでござる』

『おめでとう~』


 同期の舞華さんと、おーぶさんだった。


『拙者、ふたりの婚約記念パーティで竹を斬ってみせるでござる』


 たぶん、日本刀の抜刀術で竹を割るのだろう。

(婚約パーティで「斬る」って問題ないのかな?)

 結婚式だったら、「切る」は忌み言葉だけど。


『今日の占いによると、ふたりのラッキーイベントは……添い寝。勢いで最後までしたら、永遠の愛で結ばれるって』

「ぶはぁっ!」


 おーぶさんの占いに噴き出す。


「ありがと。おーぶちゃん。処女を捨てるなら、今日しかないわね」

「ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 さらには、詩楽の自爆もあって、僕は絶叫してしまった。


:あかつきクオリティだ

:88の次は処女だと自爆

:処女喪失予告もやべえw

:逆に言えば、ふたりはまだやってないのか


「あかつきさん、なんてことを……」

『拙者も応援するでござる』

『占いの力を信じて』


 そう言い残して、同期のふたりは去っていく。

 さらには。


『すいません、お次は4期生が参上しました』

『面倒くさいけど、婚約ぐらいは祝わないとね』

『先輩たち、おめでとうっす』

『婚約パーティでは、おふたりの椅子にしてください』


 後輩たちまで現れた。


(あれ? 今日は凸待ち配信じゃないんですけどね)


 少し話した後、後輩たちも通話を切る。

 ようやく落ち着いたと思った頃だ。


「あっ、今度は電話だ。ちょっと失礼するね」


 詩楽がスマホを持って、部屋を出て行く。

 ひとりで間をつなぐこと1分ほど。詩楽が戻ってくる。


『みなさん、こん小百合。レインボウコネクト・アダルトの小百合お姉さんでーす♪』


 やたらとノリの良い声が詩楽のスマホから聞こえた。スピーカーモードにしているらしい。

 しかも、よりによって、相手は詩楽の母親。


:レインボウコネクト・アダルトw

:大人ってより、エロ路線にしか思えんw ¥5000

:マジでデビューしてくれね?

:ヤバさという意味では立派に合格やろ

:ワイチューブくんにBANされる未来しか見えない


『おふたりとも、1周年記念、おめでとう』

「……あ、ありがとう」


 詩楽は戸惑いながらも礼を言う。


「ごめんなさい。お母さんに優しく慣れてなくて、ぎこちなくなっちゃう」

『ううん、私がしてきたことを考えれば、無理もないわ。まだまだ母親失格だけど、いつか認めてもらえるようにがんばるから』


 詩楽は言葉に詰まっている。


「あかつきさん照れてますけど、うれしそうですよ」

『……あなたも娘を支えてくれて、ありがとう』

「いいえ。大事な推しで、恋人ですから」

『婚約パーティ、私も手伝わせて』

「お願いします」


 それだけ言うと、小百合さんは電話を切った。


「なんだか、いろんな人が来て、疲れちゃった」

「今日は終わりにしようか」


 詩楽がうなずく。


「なんか婚約する流れになってますけど、ふたりともVTuberを続けていきますので、よろしくお願いします」

「同じく。あたし、クソ雑魚メンタルで、これからも落ち込むと思うんだ。でも、はにーちゃんと一緒なら乗り越えられる」

「はにーも推しのあかつきさんに好かれたおかげで、自分に自信が持てた。はにーたちなら、なにがあっても大丈夫」

「ん。これで勝つる」


 詩楽は満面の笑みを浮かべる。

 午後の陽ざしが銀髪に注ぐ。あまりにも綺麗で、配信を切ってないのに見とれてしまった。


「はにーちゃん、だーいちゅき。みんなもちゅき、ちゅき、だーいちゅき」

「はにーもです。じゃあ、今日はこれで終わります」


 僕が配信終了ボタンを押すやいなや。


 ――チュッ。

 僕の頬から柔らかな音が鳴った。


 配信後は、ふたりでイチャラブと恋愛映画を見て、その夜は同じベッドで寝て。


 翌日も、その次の日も。

 ずっと、ずっと未来まで。

 僕たちは支え合って、配信と学校と恋愛を楽しんだ。

 つらいこともあったけれど、苦しくなかった。


 ~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛び降りようとしていたのは推しのVTuberで、アニメ声の僕もVTuberになりました。 白銀アクア @silvercup

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ