面白くない

エリー.ファー

面白くない

 賽子を振って、時間が経過するのを待っている。

 飽きてしまうまで続けるつもりだ。

 その前は、人を五人。

 殺してしまった。

 正直、なんということはなかった。

 雑音の中で生きていくのならば、雑音を生み出す者を心から憎むというのは当然のことであると思う。

 そう。

 そうやって生きていく術を抱えている。

 誰にも渡せないこだわりと、誰かによく似た絶望を背負っている。

 賽子をまた振る。できあがった言葉は、読むことができなかった。学ぶ機会を失ってこの年齢になってしまうと、自分の人生を諦めるしかないのである。嘘をついても、自分に返ってくることは倫理によって知ることのできる一つの指針である。しかし、諦めてしまうとその倫理さえ手放してしまうような気分になる。賽子に本来、書かれるべきなのは、言葉ではなく数字ではないのか。

 そう思った。

 周りに誰もいないので返事はない。

 自分で自分に向かって返事をするか考えたが、やめてしまった。繰り返すだけ無駄なように思えた。

 状況が状況なのだ。

 私だけで、生きていく。

 それしかできない。

 賽子は相棒である。私の時間をつかさどっている。退屈を少しでも和らげる薬物であり、それは応急処置である。このまま失神できたら、なんと楽なことだろうと思う。葬送を望む。誰でもいいのだ。黒い服で攫いに来てくれ。大人しくするかどうかは分からないが、信じて欲しい。信じてくれるだけの関係が欲しい。

 賽子を振る。

 音が響く。乾いている。上層で響いている。

 上でも誰かが賽子を振っている。声が聞こえてくる。

 数字ではない、音だ。降り注いでくるから、急かされるように、また賽子を振る。

 いつまで行うのかと思ってしまう。だめだ、考えるな。考えるとその分、時間が急激に増える。まるで蛙の卵のようである。

 気持ち悪い。

 気味が悪い。

 気分が悪い。

 光線銃で一掃してしまいたい。

「面会だ。どうする」

 声が聞こえてくる。

「いや、いい。賽子をここで振ることにする」

「会いたがっているそうだが」

「こちらは会いたがっていない」

「こちらから言うのもなんだが、たまには気分を変える必要もあるだろう」

「気分が変わることはない。賽子と同じだ。目が変わることはある。しかし、賽子自体の目が変わることはない。それを知っていながら、気を紛らわせるために賽子を振っているのだ」

「難しいことを言う」

「難しくはない。これは人間なら誰もがやっていることだ」

「何故、今日はこんなに話してくれるんだ」

「どういう意味だ」

「何故って、いつも話しかけても無視してくるじゃあないか。いや、別に無視をする権利もある訳だから、それはどうでもいいんだ。ただ」

「ただ、なんだ」

「今日だけは対応が違うと思ってな。気になったんだ」

「何故だと思う」

「分からない」

「考えろ」

 賽子を振る。

 青と黄色と三角と緑と黒と球体。

 一気に振る。

 一つ飛び出して、闇に落ちていく。

 もう、拾い上げることはできない。

「最終確認だ。面会はしないのか」

「あぁ、しない」

「後悔しないか」

「しつこい」

「お前の母親だぞ」

「母親が二人来ても、面会はしない」

「そうか」

「あぁ」

 賽子を振る。

 面白いわけがない。

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