第十話 勘違いしてもおかしくないよね

 ちなみに、今回の熊本へはさすがに五十嵐さんはついてきていない。


 ものすごく渋ったという話は聞いているが、あの人も立場がある身だ。

 たまにこちらへ出向するということで、無理やり納得させられたらしい。


 そういうわけで、キャンピングトラックの運転は、俺が合宿免許で短期間に習得してきた特殊大型免許使っての旅路だった。

 まあほとんど俺が運転することなんてないんだけど、だって、自動運転のほうが俺より優秀だからな!

 初めての道でも、大型車両が進みづらい狭い道とかも、ちゃんと避けて移動するし、駐車だって場所さえ指定してしまえば、全自動だ。

 

 ただ、酒は飲めない。前も言ったけど運転できる状態にある人間が車内にいることが必須になるから。

 

 本来そういう予定だった。


 予定だったが諸々のゴタゴタのおかげで、俺は優雅なさけがのめる旅行ができるようになった。

 浅沼後輩の父親いや──お父様が、なんと免許持ちだったのだ。

 しかも、酒は飲めないらしく、「私は下戸なので気にせずに飲んでくれ」というお許しの言葉も、もらった。


 とはいってもお父様が直接運転することはなく、自動操縦の仕方をレクチャーしたので、後はそれを操作してもらうくらいだった。

 

 ちなみに久仁雄くんは普通の車じゃ体が入らないし、必要と感じなかったらしく、普通免許も持っていない。

 なのでキャンピングトラックも所有者は久仁雄くんだけど、所有しているだけだ。

 まあキャンピングトラックの運転席も久仁雄くんにはぎっちぎちだから、もし免許持ってても運転席に座るのは大変なんだけどね。


 そして、少し気が引けたので控えめに酒盛りしつつ、熊本に到着というわけだ。

 あ、娘である浅沼後輩は出発してから早々にやけ酒したせいで、すぐにすやすやだったぞ。

 到着間際に目が覚めて、自己嫌悪と酒の残りでテンションが低かったわけだな。


「で、久仁雄くん? 本当にここが住む場所なの?」

「そうですよ。ふみさん、セキュリティ面も前住んでいた同様レベルのじゃないと、五十嵐さんが認めてくれなかったので」


 実はまだキャンピングトラックも駐車場に止めたわけではない。

 住む場所を一目見るために、一旦その手前に止めて降りた。

 その住む場所は見上げた俺の首が痛くなるほどの、高層マンション。

 

「俺は別にワンルームのアパートでも良いんだけど?」

「と言いましても、もう上層階2階分を五十嵐さんが買っちゃったので……」

「ええ!? こんな高そうなところ買ったんですか!」

「……あのですね。相当補助金が出たらしく。ほとんど手出しはなかったと……」


 浅沼後輩に気まずそうに話す久仁雄くんだったけど、詳しい話を聞いてみると、久仁雄くんが移動するというのは結構大事らしく、五十嵐さんが交渉したみたいで、もう熊本に決めていたが前の候補地の一つであった、北海道の屈斜路カルデラダンジョンを引き合いに出して、「そちらでも良いんですが? というかあちらのほうが、日本一のカルデラダンジョンを踏破したという箔がつくかも」ということをものすごーくオブラートに包んだ言い方をしつつ、こちらに住むための条件を釣り上げていったみたいだった。

 最終的には折れて、住む場所の補助だけでいいということにして、譲歩したという建前も確保していた。

 すげぇぜ、さすがは五十嵐さんだ。おそろしい。


「にしても、ここもだいぶ発展してるんだな、ダンジョンのおかげか?」

「そうですね。大規模ダンジョンが出来たところは、出来る前と比べて10倍から100倍くらい人口が変わったみたいですよ」


 なるほどなーと、久仁雄くんと話をしながら、地下の駐車場に入れるためもう一度みんなで、キャンピングトラックに戻る。


 それからもソファに座り、適当な話を続けようとしたら、真面目な顔をして浅沼父が正面に座って声をかけてきた。


「芦刈くん、失礼だが下の名前を伺っても良いかね?」

「は、はぁ。史康ふみやすといいますが、それがなにか?」

「では、史康くんと呼ばせてもらうね」


 なんだ? いきなり距離を詰めてこられたぞ? これから近くに住むから親近感でも湧いたかな?


「不躾だがご両親はどちらに?」

「父も母も俺が物心付く前に亡くなりました。育ててくれたのは母方の祖父と祖母ですね、ですが二人ももう……」

「……これは、失礼なことを」

「いえ、もう受け入れたことですので」

「君は強いのだな」

「いいえ、久仁雄くんもいてくれたことですし、気落ちなんてしませんでしたよ」


 つい聞かれたから素直に答えたけど、浅沼父はどうしたんだ?


「お父さん、さっきから先輩に何を聞いてるの? 失礼じゃない」

「大切な話だろう? 少し黙っていなさい」

「大切な話って? 何よ」


 大切な話だったのか。……なんで?


「お前の結婚相手のご両親のことだ。今ちゃんと聞いていなくてどうする」


 へー、俺って浅沼後輩の結婚相手だったのか、……なんて?


「は、はぁ!? 何を言ってるのよお父さん!」

「なんだ。まだ、結婚までは話していなかったのか。だがな、彼なら父さんは良いと思うぞ。お前を大事にしてくれそうだ。なあ、母さん」

「そうね、私もいいと思うわ」

「ちょ、ちょっとまって! 私と先輩はそんなんじゃないって!」

「何を馬鹿なことを、静香、照れ隠しでもそれはひどいぞ。お前の矢面に立って、仕事をやめさせてくれたり引越し先も用意してくれた、さらに俺たちの住む場所はおろか、仕事まで見つけてくれた。しかも彼はお前のために、お前のパーティメンバーから殴られたとまで聞いたぞ。そんな人は恋人でもなかなかいないぞ」

「ええっ! 先輩殴られたんですか! くそぉ、あいつら私にたかろうとしたせいなのに、先輩殴るのなんて逆恨みじゃない」


 なんで親父さんその話知ってたんだ? と、思っていると、「大丈夫だったんですか」と、浅沼後輩が俺の顔を撫でようとしてくるので、すいっと避けた。


「なんで避けるんですか!」

「だって恥ずかしいだろ。怪我はなかった、大丈夫だ。そんなことより誤解を解かないと」


 俺を撫でようとして避けられてる浅沼後輩を見て、微笑ましいものを見るような表情を浅沼両親がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秒で終わった魔王退治、俺は現代ダンジョンで無双する? よねちょ @yonetyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ