第九話 熊本へ到着+三人

「はるばる来たぜ熊本!!」

「おー!!」

「……」


 俺が、移動に使わせてもらった久仁雄くんのキャンピングトレーラーから降りて叫ぶと、久仁雄くんが勢いよく腕を振り上げながら合わせてくれた。

 振り上げた腕がブォン! と、ものすごい風切り音をたててるのですごい迫力だ。


「どうした! 浅沼元後輩! 元気がないぞ!」

「お、おー……はぁ」


 そう、結局浅沼後輩も熊本まで着いてきてしまった。

 俺はなんの問題もなく、普通に仕事を辞めてこちらへ来れたのだけど、浅沼後輩はゴタゴタのあげく逃げるようにこちらへ、来る羽目になった。

 まあ、全部自業自得なわけだけど。


 経緯を説明すると、実際に振り込まれた金を見た浅沼後輩は、浮かれてしまって──まあ、気持ちはわかる──、それはもう高価で効果な装備品が乗ってるカタログを、取り寄せてしまったわけだ。


 そこまではまあ良いとして、実際に購入してる姿をパーティメンバーに見られてしまっては駄目だったな。

 なにせ買った装備の合計金額、億近くいったらしいからな。アホか。


 そこからはもう、詰め寄られて白状させられて、パーティメンバーにタカられそうになり、会社の同僚にもパーティメンバーの知り合いがいたらしくそこからバレ、タカられそうになり、見事に知らない親戚が増えて、タカられそうになったわけだ。


 どうしようもなくなった浅沼後輩が、もうすでにやめていた俺に泣きそうになりながら連絡をしてきた。


 仕方がないので、俺が間に入って会社をやめさせ、パーティは久仁雄くんを後ろに控えさせ──何もさせてはいない、終始無言でいてくれといっただけだ──パーティから俺が引き抜いた形にさせた。


 その際、無理矢理の引き抜きに、男連中が殴りかかってきたので、お詫びとして一発ずつだけ食らって後は避けた。

 俺が殴られるたび、久仁雄くんから発する圧力がすごくなっていたけど、そのおかげでなんとか冷静になって怯えていた。



「うちの娘が、ご迷惑をかけてすみません」

「申し訳ない」


 俺達の後ろから出てきて、謝っているのは浅沼後輩のご両親だ。

 さすがに周りが騒がしくなりすぎて、同じ場所には住めなくなってしまったので、浅沼後輩と一緒に引っ越すことになった。


 浅沼後輩は仕事しなくてもいいと言っていたが、娘の世話になるのはよろしくないということで、こちらで仕事を探すと言っていた所を、久仁雄くんに頼み込み、動画の編集とか五十嵐さんの部下とかをやってもらうことになった。


「大体、久仁雄くんのおかげなので、俺に謝るのはもうやめてください」

 

 ご両親は迷惑かけたことを本当に悪かったと思っているらしく、頻繁に謝ろうとしてくる。

 俺は別に大したことはしていないからいいのだけどな。久仁雄くんには感謝してもらいたい。


「娘ばかりか私共も世話になってしまい、申し訳ない」

「いえ、僕も人手は欲しかったわけですし、渡りに船というやつですよ」


 うん、久仁雄くんはこんな奴だ。良いことをしてるのに大したこととは思っていない。


 この流れを変えないとな。

 よし!


「お二人共、謝るのはそこまでです! 俺達は感謝の言葉を求めています!」


 二人は目を丸くしたが、俺が落ち込んでる浅沼後輩をちらりと見た後、ニッと笑ったら、何かを察したように「親子ともどもありがとうございました」と、落ち込んでいる浅沼後輩の頭を下げさせてお礼を言った。


「はい、お礼はしっかりと受け取りました。ここで新生活が始まるわけです。謝るのはやめて、前を向いていきましょう! な? 浅沼元後輩?」

「……はい、ありがとうございます。でも元後輩はやめてくださいよ」

「うーん、それは前向きに検討するぞ」

「その台詞、絶対、前向きじゃないやつですよ!」


 とようやく調子が戻ってきた浅沼後輩のツッコミに、その場にいる全員で笑った。

 よしよし、辛気臭いのはもうなしだ。せっかくの新生活明るく行こうぜ。


 

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