第140話 野菜泥棒は犯罪だけど魔王が相手ならオッケー!

一縷の望みを持って、立派なお城をスルーして回り込み、精霊さんに頼まれた群生地へと向かった。

だが、城の反対側へと着いたところ、やはりマンドラゴラの群生地は城の中にあるようだ……。


どないすんねん。

これ完全に精霊さん達を無力化するための作戦だよね?

精霊に安易な自爆攻撃をさせないための、魔王による戦略的な拠点設営だよね?

なんと言うか、すっごい後手に回っちゃってない?

この世界は大丈夫なの?

エルフちゃんと在庫ちゃんも連れて、別の大陸に引っ越すべきなのかな~……?

ほら、『子育ては周囲の環境も大事』って言うし……。


「一応念のために聞くけど、このお城って昔エルフとかその他の種族が立てたお城ではないよね?」


「違いますね。危険領域内で城を立てるなど、どの種族でも不可能でしょう。」


「……じゃあ、やっぱりこのお城って……。」


「魔王の城でしょう。罠の可能性もありますが。」


サファイアは淡々としてるな~。

でも罠の可能性もあるのか……。

入りたくないね~。


「他にマンドラゴラが手に入るところってあります?」


「ありますがどこも遠いです。幸いにもこの城はダンジョンではないようです。中に入ってマンドラゴラを採取しましょう。」


「魔王がマンドラゴラを全て焼き払っている可能性はないの?」


「……一応あります。ですが、マンドラゴラを好む強力なモンスターは非常に多く存在します。焼き払わずにむしろ栽培面積を拡大している可能性もありますので……。」


……一応採れる可能性はあるのか。

『一応』で明らかに危険な場所に入りたくないよ~!

でもサファイアはマンドラゴラを手に入れるまで帰る気はなさそう……。

そういえば『この城はダンジョンではない』って言ってたな……。

門番とかはいなかったけど、中に入ったら見つかるのだろうか?

そういえば、そもそもこの森に入ってからモンスターと遭遇していないのでは……?


「例えばの話だけど、このお城に入った途端、外に出ることのできないダンジョンに変貌する可能性ってあると思う?」


「……無いとは言えませんね。」


おっけ~!

100%罠だわ。

でもどうにかしてマンドラゴラの有無だけでも確認しておきたい。

……空から確認できないかな?

サファイアだけなら飛べるんじゃない?


「サファイア。敷地内には入らないように注意しながら空を飛んで、上からマンドラゴラの群生地が残っているか見下ろして確認することは出来ない?」


「……そうですね。蜘蛛のモンスターが襲ってくる可能性がありますので、その時は援護をお願いします。」


「分かった。気を付けて。」


サファイアがフワフワと空へ上がって行く。

木々の高さを超え、城壁の高さも超え、城の高さよりも高くまで上がれたようだが、蜘蛛らしきモンスターの気配は全くない。

やっぱりこの辺一帯のモンスターを全部この城の内部に閉じ込めているんじゃないのかな?

そんでマヌケが入って来た瞬間出れない様にして、モンスターの大群と戦わせる感じ。

となると侵入するには、どこのなにで罠が発動するのかを見極めないといけないな……。


サファイアが降りてきた。

マンドラゴラの群生地はあったのかな?


「マンドラゴラを確認できました。やはり規模を拡大して栽培していたようです。」


……無い方が良かったなぁ~……。

まぁ、あるものは仕方がない。

慎重に忍び込んで盗むことにしよう。


「モンスターの姿は見た?」


「……いえ、モンスターは1匹も見ていません。……やはり罠でしょうね。」


「まず間違いないだろうね。問題はどこからが罠で、なにで罠が起動するかってことだよね。一番考えられるのが、マンドラゴラの畑に入った瞬間に逃げられなくなるパターンかな?マンドラゴラの畑はだいぶ城門から遠い位置になかった?」


「えぇ、城門からだと一番奥になると思います。」


……ふむ。

逆に言えば、今いる位置からは近いのか……。

城も城壁も普通のもの。

錬成魔法で穴を開けることは出来るかな?

ちょっと試してみよう。

……問題なく通れるようになったね。


「マンドラゴラで必要なのは根っこの部分だよね?」


「……精霊様が使うものなので分かりかねます。」


……とりあえずマンドラゴラの畑全体に魔力を行き渡らせてみる。

なんか変な魔力が通っているけど、これって罠じゃないかな?

とりあえず干渉しない様に避けておこう。

今やるつもりなのは土魔法。

地面ごと動かして、マンドラゴラに外へと出てきてもらうんだ~。


慎重に慎重に、変な魔力が通っているところだけはキッチリと避けながら、土を動かしてマンドラゴラを運搬し、最初の1個が手に入った。


……楽勝じゃないかな?

畑にあるマンドラゴラ、全部頂いちゃうよ~ん!


そんな訳でどんどんマンドラゴラの運搬は進み、最終的には自動で決まった安全ルートを運搬するベルトコンベアの様に全てのマンドラゴラを運び終え、インベントリに回収できた。

私がいれば大規模農業も楽勝なんじゃないかな?

耕運機もう1個作ることも考えておこう。

まぁとりあえず、マンドラゴラも全て手に入れたし、これで問題なく帰れるね。

結構決死の覚悟を決めている様子だったサファイアもこれにはニッコリ……してないな。

そんなに戦いたいのなら頼まれた仕事が終わってから戻って来ればいいでしょ。

今は依頼物の納品が最優先なの。

ほら、気づかれる前に帰るよ!


「……戦わずに済むとは思いませんでした。あなたがいてくれて本当に良かったです。」


……分かりにくいけどなんかのフラグかな?

そう言うのは帰り着いてから言ってくれないと何かが起きちゃうでしょ!

……ホントになんか変な音がしだしたし、地面が少し揺れている様な……?


次の瞬間、見えていた大きな城ははじけ飛び、中から大量のモンスターが溢れ出てきた。

モンスターはすぐに城壁内部を埋め尽くし、城壁をやすやすと破壊して全方位へと散らばっていく。


まるで大襲撃の様だね。

サファイア~!

フラグ建てたんだから出番ですよ~!

1匹残らず細切れにしちゃって~。


攻撃してくるモンスターや、進路を邪魔するモンスターを次々と処理しながら少しづつ進み、少しづつエルフの国の方向へと移動していく。

だが正直数が多すぎるし、ダンジョン産モンスターではないようで、殺しても死体が消えないのが地味に厄介だ。

まぁ、モンスター自体は正直弱い。

私でも片手で倒せるレベルだ。

右手でモンスターを仕留め、左手でインベントリに回収する。

それを延々と繰り返しながら、エルフの国へ向けて進むのだった。




なんとか『魔除けの聖遺物』の効果範囲内と思われるところまで移動して来ることが出来た。

正直結構疲れている。

1匹1匹はそこまで強くなくとも、やはり数は脅威だね。


「サファイア、怪我はない?」


「問題ありません。あなたは……そういえば回復魔法が使えたのでしたね。」


「少し顔色が悪いけど大丈夫?」


「……正直魔力を使いすぎました。ここまで来れば問題ないと思いますが、戦闘があった際には助力をお願いします。」


「分かった。このペースだとエルフの国まではもう少しかかりそうだけど、休憩はしなくても大丈夫?」


「大丈夫です。今は急いで戻ることを優先しましょう。」


くっ!

ベッドの中では今のところ毎回『休ませてほしい』と懇願するのに……。

まぁ、私も全部無視しているから、なにも文句は言えないのだが……。


セクハラと下ネタは置いておいて、私もサファイアもなかなかの疲労困憊ぶりで、明らかに移動速度が遅くなっている。

それでも『魔除けの聖遺物』の範囲内である以上、モンスターの危険はないので安全だとは思うのだが、まだなんか妙に嫌な予感が消えない……。

なにが原因だろうか……?

特にフラグは建ててないし、それっぽいことも言ってないよね?


答えは後ろから走って来た。

4足歩行で馬の下半身にヒトの上半身。

腕には斬馬刀の様な刃物を持っており、なかなかの速度でこちらに単騎で向かってくる。

……そう、魔王馬モンのご登場だ。


なんとなく顔がムカついたので、一番スキルレベルの高い火魔法を、クラスター爆弾のイメージで投下しまくってやった。

間違いなく命中した。

だが、激しい爆発音と共に、爆炎と土煙が舞い上がった為、どうなったのか確認が出来ない……。


今馬モンが土煙の中から地表を滑りながら飛び出してきた。

……なんか倒れたまま動かないけど、躓いて転んで頭でも打ったのかな?

あ、サファイアが突撃した。

そしてそのまま一刀両断。

真っ二つになった魔王馬モンの体が蒼い炎に包まれて燃えていく……。


……これで終わり?

馬モンわざわざ何しに来たん?

確かに『魔王本体なら攻め込んでくることも可能でしょう』とサファイアは言っていた。

『魔除けの聖遺物』で普通のモンスターが近づいて来れないから、単騎で凸ってきたことは理解できる。

でもこんなにアッサリと魔王が死んじゃうのは、流石に予想外だよね。

サファイアは凄くスッキリした顔してるけど……。


こうして、魔王馬モンは炎に包まれて消滅した。

残されたのは爆撃跡地に落ちていた、馬モンが持っていた斬馬刀の様な刃物だけだった……。




「ただいま~。こちら、依頼のあったマンドラゴラですよ~。大量にあるので、係りの方は受け取りに来てくださ~い。イロイロあってひっじょ~に疲れているので、早く来ないと寝ちゃいますよ~。立ったままでも寝れちゃいますよ~。」


無事にエルフの国へと戻り、そこからワープして再び神様の国へと戻って来た。

あとはマンドラゴラを精霊さんに納品するだけ。

今回は本当に疲れたなぁ……。

早くゆっくり休みたい。


「おかえり。マンドラゴラは無事に手に入ったんだね。ここに出してくれればいいよ。後は勝手に持って行くから。」


精霊さんはすぐに現れてそういうので、インベントリからどんどん出して地面に置いていくのだが、地面に置いて手を離した瞬間にマンドラゴラが消えるね。

目の前で見ているのに消える。

見えない精霊さんがいっぱいいるのかな?

『足りない』とか言われたらもうこの国から逃げ出す所存なんだけど……。


幸いにもギリギリ数は足りたようで、残り4つの時点で、マンドラゴラが消えることはなくなった。

良かった良かった。


「想像以上に沢山あったんだね。報酬は期待しておいて。……ところで、何かあったの?」


「色々あって魔王馬モンを倒しました。」


「……うまもん?」


説明は討伐したサファイアの仕事だよね。

私はもう寝よう。

……なんとなくソフィーアと一緒に寝たい気分だけど、もう寝ちゃってるかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Growth of one person ふぉいや @feuer0922

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ