第139話 仕事なんか放り投げて帰りたい……。

一応神様との魔道具に関する契約を書面にして貰い、私の不労所得は確実なものとなった。

特許権を神様が保証してくれるような物なので凄く安心の契約だね。

まぁ、最初はあまり売れないだろうから、期待はしない方がいいとの話だったけど……。

超効率よく土地を耕して畑の面積を増やす実績を作らないと誰も買おうとはしないだろうし、そもそも魔道具って高いからね。

大きな畑を持っていて、人を雇って管理している地主でもない限り、個人で買うことはないよね。

一度畑を持っている人達を集めて、目の前で実演販売でもやればそこそこの数が売れるかもしれないけど……。


まぁ、売るのは神様に任せよう。

元々死ぬまで遊んで暮らせそうなくらいには資産を持っているのだ。

子供が出来たこともあって追加資金が欲しくなっただけだし、期待はしないが楽しみにして待つことにしよう。


さて、魔道具は完成したし、次はソフィーアにプレゼントするための剣を作りたい。

ただ、ソフィーアが使っている大剣は本当にハイスペックだから、あれ以上の剣を作るのは非常に困難だろう。

となると鑑賞用に美しさを追求したカタナを作るべきか……?

KATANAをすごく気に入っていたし、それならソフィーアも喜んでもらえそう。

でもどうせ贈るならいい物を贈りたい気持ちがある。

レア度の高い素材でKATANA作りか……。

サファイアが使っているD:KATANAプロトタイプみたいに、ドラゴン素材で作るのもありだけど、見た目の美しさという点では『悪くない』だけで、芸術的美しさはあんまり感じなかったんだよな~。


「緊急事態。集まって。」


……いきなりだね精霊さん。

精霊さんの言う『緊急事態』って、嫌な予感しかしないよね~。

いったいどうしたんだろう……?

魔王討伐に向かった精霊さん達が全滅したとか?


「全滅はしてないけど半分がしばらくの間攻撃に参加できない状態になった。魔王に罠を張られていたみたい。魔王の1人は一応自爆の道連れに出来たらしいけど、罠を張られていたことから考えて本体ではない可能性もある。魔王の強さから考えてただの分身体ではないと思うけど、仕留めそこなった魔王にも結構なダメージを与えられたみたいだし、一応見つけたやつは全て駆除しておきたい。協力して。」


だが断……りたいなぁ~。

とりあえず『精霊は自爆する』ということが分かった。

ちょっと精霊の攻撃方法が怖すぎない?

『しばらくの間攻撃に参加できない状態になった』ってことは、自爆したのに死んでないってことだよね?

マジで敵対したくないんだけど……。


それに、自爆テロを受けて1人しか死んでない魔王も普通にヤバいよね。

本体か分身体かの判断もつかないんでしょ?

そんなのが複数いるところに殴り込みに行きたくないな~……。

というかその場には何体の魔王がいたの?

結構なダメージを与えたらしいけど、精霊の自爆攻撃を受けて死なない魔王が沢山いたりするなら、私じゃ何の役にも立たないと思うなぁ~。


「その場にいた魔王は4体。1人は倒したからあと3体……だと思う。それにあなたに手伝ってほしいのは魔王の駆除ではない。精霊を早く復帰させる為にあるモノが必要。それを取りに行って欲しい。」


……まぁ、魔王と戦いに行くわけじゃないのなら協力してもいいけど。

それってどこにあるの?


「エルフの国の近くに『危険領域』と呼んでいる場所があるのは知ってる?その地域にしか生えていない特別な草がある。それを採りに行って欲しい。実物は半精霊が知っているはずだから、2人で行ってきて。」


う~ん?

『危険領域』という言葉は確かに聞き覚えがある。

エルフの国から人間の国に行くまでの間にあるらしい場所でしょ?

たぶんあの辺だと思うけど、ビッグボアの狩場ってだけじゃなくて、自爆した精霊が復活する為のアイテムも生えているのか……。

まぁ、草を見ても私には分からないと思うし、言われた通りサファイアと2人で取りに行くかな。

拒否権はないみたいだし。

……報酬は出るのかなぁ~……?


気づけば既に、精霊さんの姿はなかった。

仕方がないのでサファイアを探しに移動する。

サファイアも私を探していた様で、すぐに見つけることが出来た。

でも出発は少し待って欲しい。

ソフィーアと少し話をしてから出発したい。


「どこかに行くのか?」


ちょうどいいところにソフィーアも来た様だ。


「ちょっと精霊さんに、危険領域に生えている草を取りに行くよう頼まれてね。今から行ってくるよ。」


「そうか……。危険領域は中心部に行くほどモンスターの危険度が上がる。気を付けて慎重に進むんだぞ。」


「大丈夫。どの草を持って行けばいいのか知らないから、サファイアも一緒に行くことになってるから。モンスター相手なら何も問題はないと思うよ。勿論油断はしないけど。」


「……本当に気を付けるんだぞ。師匠、彼をお願いします。気を付けて。」


「分かっています。何も心配する必要はありません。」


サファイアが心強いね。


そんな訳でさっそく出発。

そういえば前はいつの間にかワープしてたけど、今回はどうかな?

これがその魔道具かな?

どうやって使うの~?


サファイアがワープ装置と思われる魔道具に触れる。

一瞬視界がグニャっとなった気がしたが、その時既にワープは完了していた。

速過ぎるね。

せめて発動前に一言声をかけて欲しい。

別に問題はなかったけど。


ついでに完全に忘れていたが、神様の国とエルフの国では時差があるんだった……。

エルフの国ではとっくの昔に日も沈んでおり、時刻は既に深夜帯の様だった。


「精霊様のお願いですから、出来るだけ急いで移動します。しっかりとついて来てください。」


そう言ってサファイアはなかなかの速度で移動を始めた。

それも空を一直線にだ。

一応私の追いつける速度で移動してくれている様だが、空を飛ぶのはズルいと思う。

空を自由に飛びたいな~。


そんなこんなで結構な速度で走り続けて4時間くらい。

向こうならとっくに日も沈んでいて、夕食も終えてお風呂に入っている様な時間だと思う。


サファイアが地面に降りてきた。

目的地に着いたとは思えないし、休憩かな?


「ここから先は空を飛んでいると蜘蛛のモンスターに攻撃されますから……。目的地はそこまで遠くありません。休憩は必要ですか?」


「少し休憩したいね。そろそろ食事をしておいた方がいいと思うし。」


「分かりました。では少し休みましょう。私は周囲の警戒を行います。」


……サファイアは食べないのかな?

食べようと思ってるのはドラゴンのもも肉ステーキなんだけど……。

脂身は少なめに見えるけど、結構美味しそうなお肉だよ?

……まぁ、とりあえず食べるか。


フライパンを設置。

火魔法で火を出しながら、脂身でフライパン表面を軽く擦るように油を敷く。

そしてドラゴンモモステーキを優しく投入。

少し熱したフライパンに肉を置いた瞬間『ジュワー!』という音と共に、お肉の素晴らしい香りが周囲に広がった。

……これってモンスターを呼び寄せたりしないかな?

ちょっと心配。


片面が焼けたようなので肉をひっくり返し、もう片面も焼いていく。

もも肉は硬いイメージがあった為、そこまでステーキを分厚く切らなかったので、焼けるのはまぁまぁ速いのだ。

既に辺り一帯には誤魔化しようがない程のお肉の香りが漂っている。


……もう焼けただろう。

火魔法を止め、肉を木の皿に移し、ナイフで切ってみる。

表面は焼けているが、なかはまだ赤みが残るミディアムレアの状態だ。

鶏肉ならもっとしっかりと焼かないと怖いが、牛肉なら最高の焼き加減だろう。

……ドラゴンって鶏肉の部類なのかな?

いや、あのドラゴンに羽は生えていなかったし、空を飛ぶこともなかった。

とりあえずこのまま1口食べてみよう。


一口大に切ったドラゴンのモモステーキを、恐る恐る口に運んでみる。

……旨い。

尻尾よりもだいぶ歯ごたえはあるが、噛めば噛むほど肉の旨味があふれ出てくる。

焼き加減も恐らく問題ないだろう。

食中毒は流石に怖いが、これ以上焼いてしまうと、肉が硬くなり過ぎて食えなくなると思う。


パクパクと食べる手は止まらず、そこまで時間はかからずに、ドラゴンモモステーキを食べ終えた。


「食事は終えたようですね。では出発しましょう。」


サファイアは食事がいらない様で、すぐに移動を開始してしまった。

ハイエルフも食事は普通に必要だと思っていたのだが、大丈夫だろうか?

まぁ、本人が大丈夫だと判断するのなら問題はないんだろうけど……。


そういえば結局、何の草を採りに行くのかすら聞いてないな。

今のうちに聞いておくか。


「マンドラゴラです。」


……私の心を読んだかのようにサファイアが教えてくれた。

マンドラゴラ……?

それって抜いたら叫び声をあげて、その叫び声を聞くと死ぬっていう伝説がある植物?


「何ですかそれは?至って普通の植物ですよ。ただ、根の部分には毒があるので、人が食べるのはやめておいた方がいいです。」


へ~。

精霊ってそんなもので復活するのか。

毒で復活とか、不思議な生体だね~。


「マンドラゴラはそのまま食べることはありません。主に薬の材料の1つとして扱われます。根に魔力を貯め込みやすい性質があるので、非常に優秀な素材です。その分、群生地はこの危険領域以外にはほとんどないのですが……。」


……この『危険領域』ってそもそも何なんだろう?

ダンジョンの影響範囲とはまた違ったものなのかな?


「あそこの山が見えますか?あの山から地脈を通る魔力が噴出しているために、この辺り一帯は動物が非常にモンスター化しやすいところなんです。ダンジョンは神や魔王が生み出すものですが、危険地帯は自然発生した広域ダンジョンみたいなものですね。ダンジョンの様にコアを破壊すればなくなるような物でもないので、厄介さではこちらの方が上です。あの山……」


……いきなりサファイアが黙って止まってしまった。

どうしたんだろう?

前の方をジッと見ているけど、何かあるのかな?

私には真っ暗にしか見えないけど……。


……真っ黒にしか見えない……?

他の方向は暗くても普通に見えているのに……?

嫌な予感しかしない。

今は精霊さんに頼まれた仕事を優先するべきで、厄介ごとはまた今度にした方がいいんじゃないかな?


サファイアがゆっくりと歩きだしたので、私もすぐ後ろをついていく。

近づいて見えてきたのは、高く聳え立つ城門と、非常に立派なお城だった。


……ここに魔王とか住んでないよね?


「この先に群生地があったはずなのですが……。」


……行きたくないよぉ~!

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