第138話 不労所得万歳

『魔道具を作ろう』

そう思うだけなら非常に簡単だが、魔道具は非常に簡単な物でも普通は完成までに数日かかるし、実用性のあるものだと1月以上かかるのが当たり前の代物だ。

まぁ、神様は簡単そうに1日もかからず作っていたが、あれは神様だからこそ出来るであろうことなので例外として考えるべきだろう。


まずは作りたいものをイメージする。

……特にないな。

じゃあ日常生活で必要な物とか、『こういうのがあれば便利だな~』っていうものを考えてみよう。

……最近の私の生活ってモンスターを狩っているか、下半身に忠実に生きているかの2択じゃない?

狩りに必要なのは……魔道具は必要ないな。

夜の営みで使う大人の玩具でも作ればいいのか?

……ありだな。

今のハイ師匠なら悦んでくれそう……。


という訳で、まずは持っている回転する魔道具を分解し、中を見ていくことにした。

いきなり全てオリジナルで作れるだけのセンスは、私にはないのである。

既にあるものを真似して、自分好みに改良して、少しづつオリジナルにしていくのが、一番覚えやすい取り組み方だと思うしね。

まぁ、私はそういうタイプっていうだけで、全員に当てはまるかは知らんけど……。


それじゃあご開帳~。

え~っと……。

……うん、分からん。

パーツ1つ1つの意味はなんとな~く分かるんだけど、想像以上に複雑だわ……。

この複雑さを例えるとすれば、パソコンでCPUの意味や性能は知っていても、CPUのピン1本1本が何に関係しているのかはサッパリわからない様な感じ……。


まぁ、流石にCPUと比べたら、ヒトの手作業で作られたであろう魔道具はだいぶ理解しやすいと思うのだが、これを自分で1から作るのは無理だな。

道具と素材があれば真似くらいは出来そうだし、多少改良出来そうなところもある。

ライターみたいな火を点ける魔道具は、もっと構造がシンプルだっまのになぁ〜……。


「な~にして~んの~?」


神様がやってきたようだ。

アドバイスとか貰えるかな?


「魔道具を自分でも作ってみようと思いまして……。」


「おぉ~。魔道具作りは難しいよ~。細かいパーツをい~っぱい作んなきゃいけないし、魔導線をきれ~に繋げなきゃいけないし、いざ完成してもどっかにミスがあったりすると一切動かないから最初からやり直しだし……。」


ネガティブなことばかり言うのは止めて!

私、初めてなのよ!

萎えたらどうするの!

まぁ、難しいことは分かるし、気持ちが萎えても1度はやってみるつもりだけど……。

なにか前向きな気持ちになれるアドバイスをプリーズ!


「前向きな気持ちになりたいのなら、ソフィーアちゃんか師匠ちゃんに応援して貰えば?とりあえず作ったものを見てみないと、アドバイス出来ることは特にないよ。完成したら見せてね~。」


そう言って神様は行ってしまった。

まぁ、まだ何もやっていないのにアドバイスを求められても困るよね。

作業に必要な道具があるのなら、使いやすくて便利な道具を教えてくれることもあるだろうけど、素材さえあれば全部魔法と手作業で出来ちゃうし……。


でも、神様に大人の玩具見せないといけないの……?

神様って、見た目子供だよ?

子供にそんなもの見せるとか、人としての何かが終わりそうな気がするんだけど……。

具体的な使用方法まで説明して、見た目子供な神様相手にセクハラかます勇気は、私にはない。

別の物を作るべきか、『これは筋肉をほぐすマッサージ器なんですよ』と説明するべきか……。

……口でどれだけ取り繕っても心や思考を読み取られたら誤魔化せねぇ!

別の物を作るか。


という訳でもう1回1つ1つのパーツを見ながら、頭の中で設計をやり直す。

イメージは後輪駆動の2輪なのだが、流す魔力の量で回転の速度が変わる今の魔道具を、常に一定速度の回転をする方式に変更して消費魔力の量を削減&魔力消費速度の安定を計り、それに伴ってクラッチや複数段階のギア、ギアチェンジの為のギアボックスにステアリングの取り付け方まで考える。

そして結論が出た。


「私には無理だね、諦めよう。」


耕運機でも作るか。

それなら魔道具自体の構造もほとんど変わらないから簡単だし、まだこの世界には普及していないだろうから、神様も知らないだろうし。

今より少しスリムな設計にして、回転を落としてパワーを上げて……。

刃は……こんな感じじゃなかったかな?

昔一度使ったことがあるけど、流石にうろ覚えだ。


まぁとりあえず、だいたいの目処が立ったので、さっそく作業を始める。

まずは肝心の魔道具から。

最早コンピューターの基板を手作業で作っている様なものだが、つい最近4桁になった(器用さ)のおかげで非常にスムーズな作業だ。


1時間程で魔道具部分は完成。

想像よりも簡単に作れ過ぎな気が……。

とりあえず実際に動くかテストする。

魔力を流すと、しっかりと回転を始めた。

設定どおり回転速度はそこまで速くないが、パワーはなかなかだと思う。

私のステータスだと、パワーがいまいち分かりにくいんだよなぁ……。


という訳で、魔道具自体は簡単に作れたので、外側の部分を作っていきま~す。

錬成魔法で鉄をサクサクと加工していき、魔道具を設置・固定するための場所を作り、耕すための刃を付け、持つところもしっかりと作る。


サクサク作り過ぎて、作業開始から完成まで2時間もかからなかった。

さっそくテストだ。

……回らない。

……たぶん、持っているところから魔道具まで、必要量の魔力が伝達してないね。


魔力の伝達といえばミスリル!

手元から魔道具までの部分をササッと加工し再びテスト。

今回は無事に回転を始めた。


実際に地面に使ってみると、いい感じに土を耕せている気がする。

エンジンではなく魔道具だから音がしないのもいいね。


「何を作っているのかと思っていたが、畑を耕す魔道具か?……こう言ってはあれだが、そんなものも作るんだな。」


……大人の玩具を作るつもりだったなんて言えない。

まぁ、今までソフィーアの前では武器しか作っていない様な気もするし、わざわざ魔道具の農具を作るとは思わなかったのだろう。


「お?もう出来たの?速いね~。……あれ?エッチな玩具を作るんじゃなかったの?農具みたいだけど……。」


神様ぁ~!?

それは言っちゃ駄目なやつでしょ~!

ほら、ソフィーアもジト目になっちゃったよ。


「何を言っているのか分かりませんね。最初は筋肉をほぐすためのマッサージ器を作る予定でしたよ?」


「でもエッチなことに使うんでしょ?」


「……そういう使い方もありますね。」


「そっちを楽しみにしてたのにな~。残念だな~。」


この神様、人を揶揄って楽しんでいやがる。


「神様も使ってみたいんですか!?実際に使っているところを見せてくれるなら喜んで作りますよ!」


「えっ!?……いやぁ~。そういうのはスラエラに言って欲しいかなぁ~。スラエラなら顔を真っ赤にしながら実演してくれると思うよ~。それに師匠ちゃんもいるじゃない?私はちょっと……。」


この神様にはセクハラが効果的なようだ。

まぁ、セクハラの代償にソフィーアが強く腕を組んできたが……。

ハハッ……組んでる腕が動かねぇや……。

……この状況、どうしようかな?


「とりあえず、この耕運機はどうですか?悪くはないと思うんですけど……。」


「そ、そうだね!ちょっと使ってみるよ~。」


今のうちにソフィーアの機嫌を取っておかねば。

エロゲの好感度と違ってこっちのBAD ENDはリアルに身の危険があるんやぞ。


「ソフィーア、少し向こうでおやつでも食べない?」


「……まぁ、良いだろう。……程々にするんだぞ。」


……いつか刺されそうで怖いね。

回復魔法があるから即死以外何とでもなると思うけど……。


ソフィーアと共に移動し、私はおやつ作りを始めた。

『おやつでも食べない?』と誘ったが、今から作るのである。

何がいいかな……?

ジャガイモみたいなやつはたくさんあるからフライドポテトなら簡単に出来るけど、フライドポテトは以前も作ったし、私自身別の物が食べたい気分でもある。

……『おやつ』と言っていいのか分からないがコロッケ食べたい。


細かく刻んだ玉ねぎを炒めながら、芋を魔法で加熱。

加熱した芋に串を刺して、中まで加熱されたか確認した後に皮を剥き、ボールに入れて塩胡椒&砂糖を加えたら、木の棒でグリグリ潰す。

そこに玉ねぎを加えて混ぜ混ぜ……。

牛挽き肉があれば良かったんだけど、牛肉は全然見ないからな~……。

とりあえず出来たものを小判型に整えた後にパン粉を付けて揚げ、コロッケの完成だ。


やっぱり魔法を使うとだいぶ速く作れるな~。

味の方は……うん、美味しいと思う。

やっぱり肉がないと物足りない気もするけど、豚や鶏肉でも良かったのかな?

今度試してみよう。


「だいぶ熱いから火傷しないように気を付けて食べてね。」


「分かった……。……美味いな。芋にこんな食べ方があったのか……。」


「何食べてるの~?私にもちょ~だい!」


「どうぞ~。耕運機の方はどうでした~?」


「あっふ!……ウマー!揚げ物とはなかなかやるね~。あの魔道具、なかなか良かったと思うよ。というか、手元からミスリルで魔力を流す通り道を作るとか、凄い便利なこと考えたね~。ミスリルはこの国では生産されてないからな~。真似するには君達の国と貿易しないといけないよ。スラエラが忙しくなっちゃうな~。……妊娠している間は働かせられないじゃん!どうしよう……。」


貿易するのか……。

まぁ、転移で行き来できるなら当然の考えだろうけど、この国の特産品にエルフの国が欲しがりそうなものはあるのかな?


「この辺は年中気温が高めだから、香辛料とか結構採れるんだよ~。鉱脈もたくさんあるし、ミスリルに釣り合うだけのモノはそこそこあるかな~。」


へ~。

まぁ確かに暖かいところだし、スパイスとか栽培していても不思議ではない。

カレーとか作ってるところないかな~?

というか香辛料があるのなら、ボーイッシュボインちゃんに街を案内して貰った時に案内して欲しかったな~。

後で探しに行こう。


「ところであの魔道具どうするの?売ってくれるのなら、なかなかの金額で買い取っちゃうよ~!ウチの国で量産して、ウハウハになるんだ~!」


……一度見られている以上、売らなかったら勝手に作るんだろうな~。

せっかくだし交渉してみようかな?


「1個売れるたびに私に売上金の何割かが入ってくる契約をしてくれるなら、無料でプレゼントしますよ。」


「……う~ん……。売上金じゃなくて利益の2割くらいでいい?」


利益の2割……?

普通に良い気がするんだけど私が世間を知らないだけ?

まぁ、お金には困ってないし、それでいいか。


初めての不労所得を手に入れたぜ!

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