第137話 精霊怖い。

外から入ってくる月明かりしか明かりのない、暗い部屋の中。

ハイ師匠は私に馬乗りとなって、ゆっくりと腰を上下に動かしている。

前回、私に全ての主導権を渡した結果、圧倒的屈辱をその身に受けたからだろう。

ハイ師匠は今回、一切主導権を渡そうとはしなかった。

どうやっているのかは分からないが、手足が動かない様に拘束する程の徹底ぶりだ。


だが甘い……。

私もこの世界に来て以来、非常に多くの経験を積んで来たのだ。

前回の夜戦でハイ師匠の弱点はすべて把握している。

ハイ師匠の動きに合わせ、少しづつ微調整を繰り返すだけで、じわじわとハイ師匠の余裕を奪っていく。

……徐々に手足が動かせるようになってきた。

この調子ならすぐに攻守交代が出来るだろう。


まだちゃんと理性は残っているので、いきなりケモノに豹変したりはしない。

せっかくの機会だ、ハイ師匠のことをもう少し知りたいと思った。


「いくつか質問してもいいですか?」


「んっ……なんですか?」


「名前を聞いたことがないなって思いまして……。」


「……サファイアです。母が瞳の色に因んで付けました。」


「いい名前ですね。サファイアって呼んでもいいですか?」


「敬語もっ……必要ありません。好きに呼んでください。」


「いいの?……分かった。……聞きにくいこと聞いてもいい?」


「なんですか?」


「サファイアってエルフだった頃、こういう子作りはしたことあるの?」


「……私の時代では子を生すのは義務でした。既に死んでしまいましたが夫もいましたし、ソフィーアとそれ程離れていない歳の娘もいます。」


……ソフィーアと同じで未亡人らしいからセーフだよね?

今更『旦那は今もピンピンしてます』とか言われたら、エルフの国に帰り辛くなるところだったぜ……。

……娘さんがいるって話だけど、もしかして前に会ったかな?

『中央官庁』だったっけ?

ドラゴンからの依頼を受けたことをソフィーアが報告しに行ったときに、報告した相手のエルフさんとサファイアの姿が、どことなく似ている気がする様な……?


「私は既にハイエルフであり、私の過去について、あなたが気にすべきことはありません。あなたは種馬としての役割を果たしてください。」


「そう?じゃあ遠慮なく頑張らせてもらおうかな。」


「あっ……。待ってください。いつの間に拘束が解け「攻守交代です。」……。」


起き上がってサファイアを抱きしめ、今度は私が上になる体勢へと変えた。

至近距離で見つめ合うと、名前通りの綺麗な青色の瞳が少し潤んでいて、非常に可愛らしい。

何も言えない様にしっかりと口で口を塞ぎ、今回も欲望の赴くままに、サファイアを満足するまで堪能しながら蹂躙した。

下半身は非常に元気だったが、流石にエルフの秘薬は飲んでいなかったので、前回の様に朝日が昇るまでヤり続けることは出来なかったが、お互い非常に満足できるくらいには愉しめたと思うので良かったのではないだろうか?

そんなことを考えながら、完全に意識を失ったサファイアと一緒に眠るのだった。





「おはよ~!昨夜はお愉しみでしたね~。こちら、昨日君と会ったらしい氷の精霊ちゃんだよ。仲良くしてね~。」


「昨夜はお愉しみだったね。」


翌朝。

朝食を食べにビル1階のダイニングへ行くと、神様が精霊と思わしき子供とお茶を楽しんでいた。

声は確かに昨日の精霊の声だが、普通に姿が見える。


「……昨夜も師匠とヤったのか?」


……ソフィーアが凄いジト目になっている。

とりあえず言い訳をさせて欲しい。


「精霊さんに言われたからやりました。」


「……ム~……。」


嫉妬しているソフィーアが可愛い過ぎてツライ……。

でも後でちゃんとフォローしなきゃね。


ところで、普通にお茶を飲んでるけど、精霊さんに何でダンジョンにいたか聞いたの?

私、普通に殺されそうだったよ?

ちょっと文句を言ってやらないと気が済まない……こともないけど、理由くらいは聞いておきたい。


「魔王について学んでいた。」


……私の思考を呼んだのかな?

もう少し文章を繋げて話して。


「大昔の神は、モンスターの大量発生によるヒト種への甚大な被害を抑えるためにダンジョンを作った。だけど今では、そのダンジョンが完全に魔王の支配下に置かれていて、モンスターの大量発生を生み出す原因になってしまっている。さらに魔王はダンジョンを解析し、新たにダンジョンを生み出す方法まで確立してしまった。これはヒト種にとって非常に不味い事態。」


……へ~。

なんかヤバそう。

……それで?


「魔王を深く知るには、魔王と同じことをしてみるのが一番。手始めに魔王による支配が弱そうなダンジョンを乗っ取ることにした。」


……通りで最後のダンジョンだけモンスターのラインナップがぬるいと思ったんだよ~。

精霊さんのエリアまでが余裕すぎて、『環境の悪さに特化したダンジョンなのかな~?』って思ってたもん。

私は火魔法で周囲の気温を上げることが出来るから余裕だったけど、それが出来ないと寒すぎて進めなさそうだったし。

……それで、私を殺そうとした理由は?


「魔王と近い縁を感じる人間が来たから暇つぶし……少し実力を知りたくなって試してみた。まさか寝床を壊されるとは思ってなかったけど……。」


……そうですか。


私は何も考えないことにした。

精霊という存在はこんなものなのだろう。


「魔王についての理解は深まらなかったけど、あのダンジョンを生み出した魔王の居所は掴めた。これは大きな前進。早速情報を精霊全員に拡散して、集団でボコりに行く予定。」


……やり方が元の世界のネット民みたいだなぁ……。

それが精霊のやり方かぁ~?

普通に怖いわ……。

精霊さん1人に遊び感覚で殺されかけたのに集団でボコりになんて来られたら、ホントどうしようもないだろうなぁ~。


「まぁ、私はお留守番なんだけどね……。」


……なんで?


「……ダンジョンで力を消耗し過ぎた……。」


……気にせず朝食を頂くことにした。




さて、街を襲っていたドラゴンも倒して、追加で依頼されたダンジョン攻略の仕事も終わって、後は報酬を貰って帰るだけという状況なのだが、せっかくなので街の中を観光してから帰ることにした。

いろんな種族が共存している国っていうのに興味があったしね。


案内人はボーイッシュボインちゃん。

どうせまた街中の人に声をかけられて案内どころではなくなると思うので期待はしていないが、本人が街の案内をしてくれると言うのだからやらせてみよう。

穴場の1つでも知れたらラッキーだしね。


そんな訳でボーイッシュボインちゃんに案内され、ソフィーアと一緒に街を歩く。

やはり壁がなくなったからだろう、少しだけ街の中の雰囲気が明るくなっていた。

まぁ、商品の仕入れは無理だったので、品揃えは酷い物だったが……。

食料品で売られているのは麦だけだった。


ただ、この国の人たちはモラルがいいのだろう。

食料の買占めが出来ない様に、購入できる量に制限があることが書かれた張り紙があったし、ドラゴンに襲われる前から一切価格の値上げをしていないらしかった。

普通こういう事態になった時、食料を買い占めて値上がりしてから売る糞商人が出てくるものだと思うのだが、そういうクソみたいな奴がいないからこそ、この国は多種族国家でありながら平和なのだろうか?


「私たちの国よりもだいぶ進んだ国なんだな……。」


ソフィーアが感心したように呟く。


「デヴェロプ様のおかげです。人々の中から代表者を決めて国の運営を行ってはいますが、少しでもその者たちが悪事に走ったり、私欲にかられた場合は、すぐにデヴェロプ様の裁きが行われます。『犠牲を伴った急速な成長ではなく、全ての人が少しずつ豊かになる国を目指している。』と、デヴェロプ様はおっしゃってました。悪事を許さず、真面目に働くすべての人を見守ってくれているデヴェロプ様がいてこそ、この国は成り立っているのです。」


……とりあえず……ボーイッシュボインちゃん、口調がだいぶ変わってない?

大丈夫?

何か変なもの食べた?

真面目に話してくれてるんだろうけど、口調が変わり過ぎていて違和感しかなかったわ。


「……ナターシャに女性らしい話し方を教わったんだけど、何か変だったか……?」


「変ではなかったよ。少し違和感があったけど、すぐに気にしなくなると思う。」


「そっか……。」


今までどんな教育を受けてきたのかは分からないが、私との子づくりを機に、女性としての教育が始まったのだろう。

ナターシャは確か、巫女だけど『巫女』じゃない人の1人だったはず……。

エルフの国には『巫女』がソフィーアの1人しかいないのに、この国には30人もいると聞いて不思議に思っていたが、聞けばこの国には役割としての『巫女』とは別に、職業としての巫女があるらしいので、少し紛らわしい。


ソフィーアとボーイッシュボインちゃんは役割としての『巫女』。

以前にも聞いたが、神は当然として、精霊樹や精霊やハイエルフ、ついでに聖人などが関わる場合に対応するのが主な役割だ。


対して、この国のボーイッシュボインちゃん以外の巫女。

神様と直接の関係は一切ないどころか、姿も見えないし声も聞こえないらしいが、神様の我儘を叶えるための実働部隊として動くのが仕事らしい。

神様が『これが欲しい』といえば、ボーイッシュボインちゃんがそれを他の巫女に伝え、巫女さん達が入手するために動くって感じだ。

まぁ、戦闘力の低いボーイッシュボインちゃんを、あちこちに雑用として参加させるわけにはいかないのだろう。

他の巫女さんはそこそこ戦闘力高そうだったし……。


私のとってこの国は、あくまでも協力関係のある他国でしかないので、細かいことを知るつもりはないし口を出すつもりもない。

巫女についていろいろと考える必要はないだろう。

『お前は知り過ぎた』みたいな展開はごめんだからね。


特に何も起きることなく、普通に街の案内が終わってしまった。

観光名所が特にないのは仕方がないが、特産品とかはないのだろうか?


「この国の特産品か?……やっぱり、魔道具かな?デヴェロプ様が魔道具作りをよくやってるし、魔道具を作るための組織に支援もしているから、他の国と比べると結構発展していると思う。」


……魔道具か……。

結局未だに作る暇がないんだよなぁ……。

せっかくの機会だし、報酬を貰うまでの休暇中に挑戦してみようかな?

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