第136話 ハイ師匠は逃げられない

「……今日何があったのか、詳しく話してください。」


街のビルに帰って、いきなりハイ師匠に言われたセリフがこれだ。

昨日から今朝までの、羞恥心からかどこか余所余所しい感じが一切なくなり、有無を言わせぬ威圧感を感じる。

やはり死ぬ可能性が頭をよぎったからか、どこか変なのだろうか?

それともあの見えない何かに憑りつかれているとか……?


「あなたから精霊様の気配を色濃く感じます。心当たりはありませんか?」


「……あ~……。ダンジョンで凄いやつと遭遇しましたけど、あれ精霊だったんですかね?姿が見えないまま消えちゃったんで分からないです。」


「詳しく。」


という訳で、ダンジョン地下4階で氷の柱の中にいた『何か』に、気温をヤバいくらいに下げられるという攻撃方法で襲われたこと。

柱を壊したら『帰る』と言って完全に気配が消えたこと。

インベントリから回収した石を取り出して、『これを持って行くといい』と言われたことを話した。

石はハイ師匠の手に渡り、ハイ師匠は超至近距離で石を凝視している。


あ、神様も来た。

昨日は何かを作っていたらしく一切関わりがなかったのだが、今日は暇そうに見える。


「……うわぁ……。君なにしたの?精霊でも怒らせた?精霊の気配がめちゃくちゃ濃いんだけど……。」


……もう1回説明しないと駄目なのだろうか?

とりあえず、人の顔を見て『うわぁ……。』は傷つくね……。


ハイ師匠にした説明を神様にも話したところ、神様も一緒になって石を至近距離から凝視し始めた。


いったい何なんだろうね?

私への説明は一切なしだ。


「お、帰って来てたのか。こんなところに集まって、どうしたん……なぁ、君から精霊様の気配がするのだが、何かあったのか?」


私は何も言わず、ソフィーアの体にスリスリとスキンシップを始めた。


マーキングじゃこら~!

精霊の気配をソフィーアで上書きするんじゃ~!


……効果があったかどうかは定かではない。




暖かな陽射しの下、ソフィーアの太ももを枕に長椅子で寝ころび、私はステータスの確認をしていた。

スキルレベルの確認が主な目的だったが、レベルアップによりSPが1703も余っていた……。


今日のダンジョン攻略で、精霊と思われる存在の攻撃を受け、魔力が急速に減っていく体験をした。

精霊と思われる存在があっさりと負けを認めたからこそ、こうして普通に生きているが、ハンマーで氷の柱を壊すよりも先に魔力が無くなってしまっていた場合は、間違いなく私は今頃氷漬けとなり死んでいただろう。

精霊と思われる存在が負けを認めて引かず、柱を壊した後も周囲の温度を冷やすのをやめなかった場合でも、私は氷漬けとなって死んでいただろう。


そんな訳で(魔力)と(超感覚)を上げようと思う。

500づつ上げればいいよね?

あとは……(器用さ)も上げてしまおう。


____________


Lv.61(0%)

・HP(体力):476/500

・MP(魔力):178/1000

・STR(筋力):500

・MAG(超感覚):1000

・SEN(器用さ):1000

・COG(認識力):500

・INT(知力):100

・LUC(運):100

SP.203


スキル

・ステータス割り振り

・回復魔法(12/100)

・風魔法(3/100)

・鑑定魔法(17/100)

・氷魔法(38/100)

・土魔法(5/100)

・破魔魔法(35/100)

・火魔法(70/100)

・物理魔法(60/100)

・水魔法(7/100)

・錬成魔法(67/100)


____________


これでついに3つのステータスが4桁だ。

(筋力)の担当はソフィーアに任せ、私は魔法で頑張るのがいいだろう。


「ん?また少し強くなったか?」


……なんで分かるんだろうね?

密着しているからかな?


正直膝枕というか太もも枕に対して結構懐疑的な見方をしていたが、実際にやってもらうと思いのほかいい物だった……。

そりゃあ枕が高過ぎて寝れないとは今でも思うけど、寝心地の問題ではなく、距離感が凄く近く感じることが大事なのだろう。

物理的な距離ではなく、心理的な距離の方ね。

ず~っと膝枕をしてもらうのは、重いだろうし邪魔だろうから迷惑だろうけど、膝枕を受け入れてくれる程親密な関係が築けているというのは、素晴らしいことなのではないだろうか?

少なくとも元の世界にいた頃には、そんな関係になれそうな相手はいなかった。


「魔力が増えて、魔法が上手く使えるようになりました。器用さも上がったので、今以上の武器品質を求めることが出来そうです。」


「……君はどんどん強くなるな。急にどこかに消えてしまわないか、少し心配になるぞ。」


「ソフィーアを残してどこかに消える気は一切ないよ。」


「……エルフからハイエルフへと進化した者は、長い間姿を現さなくなるんだ。どこで何をしているのかは誰にも分からない。教えて貰うことも出来ない。師匠は魔王を探して世界中を旅していたみたいだが、400年近く行方知れずだったからな。……人間が進化したという話は聞いたことがないが、正直君なら、人間を超えた存在に進化してしまいそうな予感がするんだ。そうなった時、君が突然いなくなってしまうのではないかと、少し心配になる。」


……結構ガチなお悩みの様だ。

進化すると一時的に消えるのか……。

確かに突然消えたら悲しくなるかもね。

間違いなく先に消えるのは私だろうけど……。


とりあえず起き上がって優しくハグをした。

スリスリ……いい匂い。

マーキングは十分だろうか?


「ラブラブだね~お二人さん。とりあえずこれを返すね~。めちゃくちゃ純度の高い精霊結晶だから使い道はあまりないけど、一応大切にした方がいいよ~。いったい君の遭遇した精霊は何者なんだろうね~?」


……この神様は空気が読めるのか読めないのか分からないね。


「そもそも『精霊結晶』ってなんですか?」


「精霊が1か所でじ~っとしていると、その周囲にいつの間にかできる不思議な石だね。純度が高いほど大量の魔力を内蔵していて、何かしらに使えそうだけど今のとこ何の使い道もないただの綺麗な石。一応持ってると、精霊を惹きつける効果とかあるみたいなんだよね~。ほら、君達の師匠もすご~く君のことが気になっているみたいだよ?今夜襲われちゃうかもね!観戦の準備をしておかなくちゃ!」


……持っているだけで精霊に好かれやすくなる好感度上昇アイテムか……。

そんで他の利用方法は今のところないと……。


「ソフィーア、欲しい?これ。」


「いや、君が持っているべきだろう。」


「そうです。あなたの遭遇した精霊様の目的は分かりませんが、意味もなくこれをあなたに授けたとは考えられません。しばらくの間は肌身離さず身につけていてください。」


「……腕輪の中に入れていてもいいです?」


「そうしてください。」


ハイ師匠の圧が強い。

ジーッと顔を見つめてみる。

……少し赤くなった。


「私の目の前でイチャイチャしないで欲しいんですけど~!神の御前だぞ~!まったくも~!私は街の周囲を囲っている壁の魔道具を解除してくる!」


神様は行ってしまった。


「……あの夜のことは出来るだけ早く忘れて下さい。」


ハイ師匠も行ってしまった。


「……師匠になにしたんだ?」


ソフィーアは残っている……。

ジト目が可愛い。

少し嫉妬してるのかな?


「少し縁が深まっただけだよ。そんなことより、麦茶作りをしてみたいから手伝ってくれない?」


「麦茶?麦をお茶にするのか?」


「そうそう、炒めてから煮出すだけで作れたような記憶があるんだけど、イマイチ自信がないんだよね。だいぶ前に妊娠していた親戚が飲んでた記憶があるし、問題ないなら一度作ってみようと思ってて……。」


「そうか、もちろん手伝う。……君が師匠に何をしたのかは、また今度聞くことにしてやろう。」


そんな訳で、夕食の時間までソフィーアと仲良く麦茶作りに挑戦した。

結果としては、なかなかいいと思える物が出来たので、良かったと思う。




お風呂に入り、夕食を頂き、(そろそろソフィーアと一緒に寝ようかな~)と思ったが拒否された。

理由は単純。

何故か下半身がめちゃくちゃ元気だからだ。

私は我慢できるつもりだが、妊娠初期のソフィーアの前で、ハイ師匠とヤった時の様に理性がどこかへと行ってしまうと大変なので、今晩は一緒に寝ないこととなった。

少し寂しい……。


明かりを消し、ベッドでテントを張りながら横になっていると、ノックも無しに扉が開き、ハイ師匠が入って来た。

まさか私に薬を盛ってリベンジしに来たのだろうか?

この元気過ぎる下半身の原因はハイ師匠?


「まだ起きていますね?聞きたいことがあるのですが、ここに精霊様は来ましたか?あなたが帰って来た時に感じた精霊様の気配が、何故か少し強くなったような気がしたので来たのですが……。」


「来てないと思いますよ。来たとしても私に見えないと思うので、断言はできませんけど……。」


どうやらリベンジではなさそうだ。

精霊の気配が強くなってるのか……。


なんとなく、インベントリから例の精霊結晶を取り出す。

……特に変化はないようだ。


「まだ使ってなかったんだ。」


……ベッドの横に何かがいるんですけど~!

ハイ師匠へ~るぷ!

既に侵入されてますよ~!


「精霊様……。」


「あなたが彼と縁のある半精霊?……他にもいるのね。その子はもうお腹に子供がいる……。ふ~ん……。」


精霊さんはハイ師匠の呼びかけをガン無視で独り言を呟いている……。

ハイエルフって半精霊なんだね。

私とハイ師匠の縁を感じ取ったから、あの時アッサリ負けを認めてくれたのかな?

ソフィーアとの縁も気づかれているし、妊娠していることまで分かっているみたいだけど……。

精霊って怖いね……。

今でも姿が朧気で見えないから尚更怖いわ。


「貸して……。」


精霊さんの言葉と共に、私の手の中にあった精霊結晶は、精霊さんの手と思われる部位の中へと移った。

持っていたはずのものが、いつの間にかなくなっていて、精霊さんのところにあったのだ。

ハイ師匠の『既遂の技』を見た時と一緒の感じだね。

過程が吹っ飛んでるぜ!


さて、精霊さん精霊結晶を使って、この後いったい何をするのだろうか?

おっと、精霊結晶が少し浮かび上がったぞ~。

これは……綺麗な石にしか見えなかった精霊結晶が、超細かい粉末状になっていってる……?


精霊さんは粉末精霊結晶を顔と思われるところの前へと持って行き……私に向かって思いっきり吹き付けてきた。

……何の意味があるのだろう?


「今なら人間でも半精霊と子作りが出来るよ。頑張って数を増やしてね。」


そう言い残し、精霊さんは消えてしまった。


……『人間でも半精霊と子作りが出来る』……?

……半精霊はほぼ間違いなくハイエルフのこと。

つまりハイ師匠。

『頑張って数を増やしてね』……?

あ、ハイ師匠の顔が真っ赤になってる。


「精霊様の配慮を受けたのです。……やるしかありません。」


……こうして中1日でハイ師匠との夜戦が再び幕を開けるのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る