Code’Hazehollow

ヨツネ

Code Prologue 黒紫の連弾

必中の狙撃手といえばどこの部隊にも優秀な人間は存在する。

かの者たちは皆、それぞれが卓越した技術を持っている。

『翠静の凪』『魔弾の射手』といった称号を持つものも多い。

それはこの國の組織、特務機関スサノヲにおいても例外ではない。


彼について、仲間たちは口を揃えてこう告げる。

(腕相撲なら誰でも勝てる。)(いつも寝てる。)

(ホントに鬼神衆?)とまあ散々な言われようだ。

その男は頭部を機械の装甲で覆い、隊員としては異質な紫の装備を身に纏っている。威風堂々たる隊長とも、天真爛漫な副長とも違う雰囲気を帯びている。

腰に対をなす二振りの短刀と、背中には怪しく光る打刀。

そして狙撃手たらしめるライフルと、鬼神とよぶにはあまりにも異質である。


時刻は深夜、商業区域の明かりが賑やかにタワーを彩るその最中。

特務機関スサノヲの九番隊の面々は静かに任務開始の時を待っていた。

対象は政府の役人、裏で違法なプログラムを取引し、私服を肥やす罪人であることが発覚したために暗殺の命が下された。

(状況開始。)

隊長である真紅の鬼神、タロスの号令で一斉にタワー内部を登っていく。

ただ1人を除いて。

(紫鬼は外殻で待機、射撃による援護を。)(了解。)

シキと呼ばれた男は小さく返事をすると、壁の僅かな突起を頼りにタワーの外殻を軽々と上へ駆け上がっていく。他の隊員よりもやや軽装でサイバネ化の主流な世界では貧弱な印象さえ受ける。呼吸の音すら聞こえないのは、強風が故か。

(独りだからってサボらないでくださいねぇ? シキさん?)

通信機越しにいたずらな声がする。ちょっかいをかけてきたのは隊長の右腕。

九番隊の副隊長、虎丸だ。最年少でありながら副長の座につく実力者は、今日もムードメーカーとして仲間の緊張をほぐしてくれる。オープン回線で。はぁ。

少し遅れて再び虎丸の悲鳴が届く。どうやら隊長殿にお灸を据えられたようだ。

(注意しただけじゃないデスカァ!! )

痛む頭部を押さえながら、タロスに無罪を主張する。

(愛のムチというものだ、安心せい。)

ふと笑うタロス。任務の度にこの2人は似たようなやりとりをする。

他の隊員では真似できない、絶妙な信頼関係が構築されているようだ。


程なくしてシキは目標の階層の外側、射撃位置に到着する。

ネオンが輝く看板の上にしゃがみ込み、ライフルのスコープ越しに部屋の状況を仲間に伝える。ターゲットがいるであろう部屋は重厚な扉で守られ、その外には屈強なSPたちがうじゃうじゃといた。呼吸を整えながらすぐそばで待機している隊長らに報告。(陽動を頼む。)と短く返答。

息を止めてライフルを構える。瞬く間に階層内の電灯、十数箇所を撃ち抜いていく。スナイパーライフルとは思えないほどの連射性能と精密な連撃であっという間に室内に闇が訪れる。(どうぞ。)とシキ。

(僕にお任せをー!)と虎丸が単独で突っ込んでいく。

暗闇に慌てふためく有象無象をトレードマークである大きな扇、風鬼扇でなぎ倒していく。1人また1人とうめき声を上げながら倒れていく様に

(あの人だけで良くない?)心の中でシキは呟きライフルを下ろす。


商業区の明かりが反射し、やや薄暗いその階層に静寂が訪れ、

九番隊の仲間がターゲットのいる部屋の扉に手をかけたその瞬間。

突如、役人の部屋が向こう側から蹴破られる。数名がそのまま扉ごと弾き飛ばされ、部屋の中から無数の銃弾が仲間達に襲いかかる。急いで電灯の残骸などの遮蔽物に身を隠すが、お構いなしに掃射が続く。

大きく音を立てて破壊されていく壁や窓。シキのいる場所までも流れ弾が来る程

銃撃が止み、硝煙の中から巨体が姿を表す。右手には大口径の機銃。全身に強化骨格を纏いビキビキと筋肉を蠢かしながら男がこちらを睨む。

最後の用心棒か、逃げ遅れて負傷した隊員に機銃の銃身を振り下ろす。

(違法手術のサイボーグか!)倒れた仲間に振り下ろされる拳を隊長と副長が、間一髪2人がかりで受け止める。(グッ!)(重いっ!)

流石の2人も声を漏らすがなんとか防ぐ。

その隙に隊員らも斬りかかるが、あまりに重厚な肉体にかすり傷一つつけることもできない。隊長らはなんとか拳を跳ね除けると瓦礫の裏に姿を隠す。

(なぜ気付かれた!?)タロスが叫ぶ。

(僕のさっきの美声で!?)虎丸が戯ける。またお灸。

いや、やってる場合か。外殻のシキはツッコミを1人でしている。


真剣になったタロスが仲間の安否を確認する。

虎丸は再び大男と戦闘し、相手の注目を集めている

仲間の半数は負傷し立つこともままならないようだ。

その状況を確認したシキは倒れた味方らに何故か弾丸を撃ち込み始めた。

初見であれば理解の追いつかない行動だが、次々と弾丸を放っていく。

すると不思議なことに仲間たちが起き上がり、戦線に戻っていく。

(痛いのは最初だけ・・・すぐ慣れるさ。)

シキのライフルは特別製、生命体の治癒能力を活性化させる回復弾を発射できる

それも対象の傷を負った部位に正確に撃ち込むことができる、シキの能力があって初めて効果が発揮される。その名も『活性弾頭カドケウス』。

紫鬼がスサノヲ最強の狙撃手と言われる所以。味方に慈悲の手を差し向け、敵に必殺の刃を向ける。まさに『黒紫の連弾』たる証明。

この力で、数々の戦場で仲間たちを窮地から救ってきた。


そうしているうちに相手のサイボーグの機銃が回転を始める。

回復したとはいえもう一度食らえばひとたまりもない。

また先程の掃射が来る前に、やつを倒さねば。

タロスが合図を、仲間が四方に散らばり虎丸が風鬼扇を力いっぱい仰ぐ。

そのあまりの風圧に周囲の瓦礫も相まって機械の巨人はよろめく。

シキは弾倉をいれかえ、大男の頭部に続けざまに連射。弾丸を浴びせていく。

視界という機能を失ったサイボーグは苦し紛れにその体を振り回すが、あらかじめ散らばっていた仲間に当たるはずもない。その隙にタロスが男の正面へ。

怒号をあげ振りあげた凶拳が隊長に襲いかかるが、芯のブレた一撃は片腕で構えた大太刀でいとも簡単にいなす。

その後、返す刀で隙だらけの男の体に斬撃。

(悪人に加減は必要ない、であろう?)

後方の壁ごと大男の体を真っ二つに一刀両断した。

ガラガラと音をたてて崩れ落ちる部屋と大男。すでに息はない。

(容赦ないなぁ。)シキは頭部のバイザーを持ち上げ、ほっと一息ついた。


その後、客室だった場所からは瓦礫に潰された役人だった者が見つかり、彼らが手を下さずとも天誅が下る最後となった。隊員らは自らの痕跡などを手早く抹消し、あたかも崩落事故があったように処理を行なった。國のマスコミらはこの一件に鬼神衆が関わったことすら気が付かないだろう。こうして任務は無事完了。

1人の犠牲者も出さずに騒動は終わりを迎えた。



=後日談= =休憩室にて=

(〜月〜日に起きた崩落事件は・・・)(死亡者は違法な取引を・・・)

シキは先日の任務を報道するニュース番組をだらりとしながら見ていた。

お気に入りのコーヒーを飲みながら、優雅な午後を・・・と。

そこに副隊長がやってきた。

(もうすぐ会議始まりますよー、狙撃手サン!)

先ほどまで寝ていたのか、あくびをしながら呼びかける。

(・・・すぐ行きます。)コーヒーを飲み干し気怠げに立ち上がる。


(そういえば・・・)

会議室までの道の途中、虎丸が口を開いた。

(この前の戦闘の時、なんで僕にはアレ撃たなかったんですか?)

もっともな気もするその質問に、シキはう〜んと唸る。

(えぇ、まぁ。副長殿は怪我してなかったようですし。)

やや言い訳気味に呟く。続けて、

(それに・・・)

(それに?)

虎丸が首を傾げる。会議室は目の前だ。

シキが扉に手をかけながら口を開く。

(副長殿はお嫌いでしょう? 注射とか。)


次の任務はどんなものだろうか。うつらうつらと船を漕ぐ。

シキの居住地区は今日も雨。

いつものように机に顔を伏せ、眠りに落ちた。

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