投げキッスは投げるんじゃない、ぶつけるんだよ(社会人)

 平日、午後、社内。

 A子はデスクでパソコンと向かい合ってキーボードをカタカタしていた。そしてタスクがひと段落したところで「ふぃー」と息を吐く。


 ――ピコッ

 その瞬間チャットにメッセージの通知。

 A子「なんじゃい」

 見てみるとB子とだけ繋がっているダイレクトメッセージだった。


 B子『チューしよ』

 メッセージの後に極彩色のハート絵文字がズラーッっと並ぶ。


 A子『帰ったらね』

 B子『すぐがいい!』すぐに『トイレいこ』

 A子『出ないから』と、投げキッスの絵文字を飛ばす。

 B子の返事がない。


 A子は次の仕事にとりかかろうとした。

 すると背後から、


「おーい」

 振り向くとB子だった。なんでもないような顔をしている。A子は「いつのまに来たのか」、と思いながら見ていると、B子は手のひらにキスをして「フーッ」と飛ばすとまたどこかへ行ってしまう。投げキッスである。


 A子「しかたないな」、と立ち上がる。そしてB子のデスクへ向かい、座っているB子の背後から「おーい」と声をかける。

 振り向いて、なんだか期待したように笑みを浮かべるB子。


 A子も手のひらに唇を合わせて離し、投げキッスをする。

 直後に口を開いてモグモグするB子。

 飛んできたキッスを食ったのである。


 モグモグしているB子と目を合わせて困った様に眉根を寄せるA子。


 A子「さっき左手だったよね」

 B子、瞳をキラキラさせてうなずく。


 A子はB子のそばまで歩いて行って、さっき唇を合わせた自分の右手をB子の前に突き出すようにする。


 A子「今はこれで我慢ね」


 ちょっと首をかしげたB子は、すぐに顔をほころばせ、うなずく。そしてさっき自分が唇を合わせた左手を持ち上げて、A子の右手にパチンッとぶつける。


 B子「チュー!」

 A子「帰ったらちゃんとしようね」と微笑む。


 それから帰ってからのことを考えながら、仕事に向き合うA子とB子であった。

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百合コメのぼつ【完結済】 向日葵椎 @hima_see

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