幸せの草原

高黄森哉

幸せの定義


 少年と少女は草原に寝転んでいる。風が吹いて翡翠色の海を撫でると馬皮の光沢がその表面をなぞった。それは海底にいるかのような網目模様の揺らぎでもあった。露が光り、霧が晴れると眼下には一面の緑。そうである。


「ココ、今日は、なに、はなす?」


 モコは言った。そのモコは、五歳の少女で奔放な性格をしてる。がしかし、彼女は体が思うように動かせられなかった。ここまでの悪路で疲弊してしまったためであろうか。でも不思議と、その麻痺は気持ち悪いと感じなかった。労働の疲労は爽快なものなのだ。そう信じた。


「なんでもいいや」

「じゃあ、私がはなすからいいよ。ココ、幸せってどこからくるの」


 ココは答えた。ココは四歳の少年、内気な性格をしている。展翅に興味があり、日々図鑑を見ては毒ビンが欲しいと思っている。しかし幼いので買えないでいる。そんなココは学者気質の探究心からか、代わりに幸せを展翅する方法を答えようと、真剣に考え始めた。


「幸せはどこにもないよ」

「なんでえ?」

「見つけるものだからさ」

「へえ、なんでココはそう思うの?」

「なんでも」

「おしえて~よ~」


 モコがココのお腹を揺らす。むき出しになった腹部がタプタプと揺れた。まだ少年だから胃が胃下垂のような位置に収まっているのだ。その腹が弾力をもって揺れる。


「ねえ、おしえ~て~」

「わかったから、やめてよ」

「しかたないな~」

「たとえば、幸せがあったとしよう。幸せがあるなら、その幸せはみんな同じように感じるはずだけど、人による。つまり、幸せは人が見出してるにすぎないんだ」

「へぇ、これは俗に言う相対性だね。でもそんなことは、きいてんじゃない~」


 この子供達は、自分達の会話を大人たちが聞けば、たしなめるだろうことを知ってるから、わざわざこんなとこまで歩いてきたのである。つまりは、いけない事であった。


「でも、今、幸せだからそれでいいや。ハハハハ」


 ココはそんな風に笑うモコが愛おしかった。ココもモコの陽気が伝染したかのように笑いだす。ココは自分が酔ったように感じた。優しさで歪んだ顔が見える。


「ハハハハハハハ」


 朝日が眩しく感じた。匂いが強く感じた。騒めく、煌めく、楽しいと。それは感覚器官の作用。それは生理現象。


「ねえ、モコ見つけた。きっと幸せはここにあるんだ。ココは、ここに来た時から幸せだった。だから、幸せって、この草原だったんだ」

「そうだ、この草原だ!」

「かんたんだった」

「かんたんだね!」


 二人は抱き合った。ただし、喜びの表現として健全なハグとして。汗で体が匂う、虫の羽音が聞こえる、辺りがピンボケて感じる。モコは気が付けば、ココを甘噛みしていた。ココも噛んだ。これは果物だと信じる。二人逆向きに倒れ込み毟りあう。まるでかぶと虫が樹液をこそぐようにすする。黒色の蜜は甘いという真理。モコはココの〇〇を掘り出してしまう。その器官を消化してしまうと、二人の差を超えた繋がりがせり出した。

 ふと風がフッーと緑のを撫でると、馬皮がビロードに光沢し、馬蠅の幼虫が、その表皮から湧いて出て来るので、そうかそうかと幸せを思い知ったのだが、ただいま海底にいるそうなので、網目模様の揺らぎがユラリとすると、やっぱりするりと発火で、そうだったそうだった、あっ綺麗。

 露が光ると、無意識の霧が晴れて、虚構の草原が顕わになった。一面、緑の植物が揺れる。そうである。


 しかし、アサはアサでも大麻であった。



「見つけた、幸せ」

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幸せの草原 高黄森哉 @kamikawa2001

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