√2話

彼は私が初めて行った外食は焼肉だった。

当時高校生でお互いバイトもしておらず、お金に余裕なんてあるはずもないのに彼は私に焼肉を奢ってくれた。

彼女であっても高校生で人に焼肉を奢るなんてそんな気前のいいことができる人は少ない。

おそらく夜遅くまでどこに行くか考えてくれていたのだろう。目の下には隠し切れないぐらいはっきりと隈ができていた。

彼がそこまでしてくれたのに私がここで下手に遠慮したら、彼のメンツが立たなくなってしまう。

彼に奢られ2人で美味しい焼肉を食べた。

その時も今日と同じような会話をした。

「どの部位が好き?」

「レバー食べてみ?」

「いっぱい食べるぞー!」

まあ彼は今日の会話と昔の会話が同じことに気付いていなかったみたいだが。

でも多分、初めての外食が焼肉だったことは覚えていたのかもしれない。焼肉屋の目の前に連れて行った時ちょっと動揺している彼の表情が見れたし。



これはある種の恩返しかもしれない。

昔の記憶を今になって再現したい。

再現された記憶が彼の心に少しでも触れてまた私を好きになってくれるかもしれない。

でもそんなに現実は簡単じゃない。

でも簡単じゃない方がいい。この気持ちに今すぐに気づかれても彼の今後の妨げになってしまうから。

せめて彼が安定した状態になるまで見守るんだ。



『ありがと。外食誘ってくれて』

この感謝だけは忘れない。ずっと私の中で大切に残しておくんだ。

















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無職の僕と元カノの同棲生活 MAY @redaniel

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