6話
面接が終わったと同時にどっと全身を疲労が襲った。
なんてことないアルバイトの面接だ。
だとしても、しばらくぶりに人と腹を割って話すのは相当な体力を使った。
駅に内設されているカフェに腰を下ろし、しばし休憩をしていた。
面接が終わってすぐの時はアドレナリンが出ていたものの10分もすればその効果は切れ疲れが襲ってくる。
立ち寄ったカフェでカフェオレを飲みながらスマホをいじっていた。
『面接終わった?』
スマホの頭上に1件のメールが届いた。
同居中の元カノからの連絡である。
『ついさっき終わった。』
『お疲れ〜!!』
『今カフェで休んでる。』
『手応えは??』
『あんまり、、、』
『自信持ちなよ〜』
人前で話すことは元々得意じゃない。元々得意じゃない+数ヶ月の引きこもりがかみ合わさったんだ。自信なんて到底持てないし、自分がしっかり話せていたかすら緊張で今は覚えていない。
『そーだ!今日の夜空いてる?』
『空いてるけど?』
『よし!じゃあ今日外食しよう!!』
『家にそんな金ないでしょ?』
『貯金ぐらいはある。』
『それ使っていいの?』
『うん。20万ぐらいあるし。』
『行くか。外食』
『OK!じゃあ今日の19時に駅の改札前集合ね。』
元カノに誘われ、外食に行くことになりました。
久々の外食に胸を弾ませながら待ち合わせ場所で彼女を待った。
具体的にどこのお店に入るとかは決めていないので今のうちにこのあたりの飲食店を探すことにした。
駅構内にはパスタ、ビュッフェ、寿司、焼肉など高級料理店ばかり。駅から出て徒歩3分以内の場所には大衆居酒屋やラーメン、有名ファストフード店がある。
ふと昔のことが蘇る。
高校時代。人生で初めてできた彼女とのご飯。前日の2時までお店を調べたり、どこに行くのが正解かネットの記事を読んだりしてヤキモキしていた気がする。
今思えばお互い会った後に適当に話し合いながら決めればいいのに。
不器用な自分にうんざりする。
最終的には焼肉屋で3000円するコースを2人分頼んだ。もちろん僕の奢りだ。
高校生の男女2人が焼肉なんて少しイキってる気もするし、彼女にいいところを見せようと頑張って僕なりに見栄をはった結果だ。
帰り際に彼女に「次からもう少しリーズナブルなとこいこ?」と言われてしまう始末。
「はずかし」
「何が?」
「ん!?」
バッと横を見るとそこには見慣れた顔があった。
「お疲れ。」
「おつかれ」
「動揺しすぎじゃない?そんなに驚いた?」
「急に現れたら驚く。」
「そっか。それで何がはずかしいの?」
ふとさっき口からこぼれてしまったことを言及された。誰か聞いてるとも思わずこぼれた言葉を一番聞かれなくない人に聞かれていたなんて。
「別にいいだろ。何が恥ずかしかったって」
「いいじゃん。教えてよー?」
「恥ずかしいから教えてくないんだよ。」
「ちぇ〜」
口を尖らせ残念がる元カノ。
「ほらご飯行くんでしょ?」
いつまでの拗ねていてはこの後のご飯にも響く。話を即座に本件に戻した。
「うん!行こ行こ!」
ご飯というワードに反応したのか彼女の拗ねは即座になくなり、笑顔に満ち溢れた顔に変わった。
「どこ行きたいとかある?」
「あ、それなら大丈夫。もう行く場所決めてるから。」
「そう?」
「うん。多分君も気に入ってくれるよ。」
また彼女にリードされてしまった。2人で話して適当なお店入るみたいなシュチュエーションがやってみたかった気もあるがそれはお預けになった。
「じゃあついてきて案内するから」
そう言われるがままに彼女の行く先を辿った。
目の前には赤白く光った石炭とその上に銀色の網が置かれていた。
頭上よりちょっと高いぐらいの位置にある温かみのあるオレンジ色に光った間接照明に黒ベースの室内。
「失礼します。こちら特上ハラミにミスジ、極上厚切り牛タンです。」
扉が開き、店員さんが机の上にお肉を置いてくれた。
「ほら焼こ?何から行く!最初はやっぱハラミ!ハラミだよね!!」
「う、うん。」
「なんでそんなにテンション低いの?焼肉だよ焼肉!!」
君が異様にテンションが高いからこっちがテンションを上げきれないんだよなぁ。
そもそもあまりテンションが顔に出るタイプではないし、割と嬉しいことがあってもこのぐらいのテンションな気がする。
トングで網の上にタレが染みたハラミをのせた。
「初手に脂っこいのいかないともう胃が辛いんだよね。」
「じゃあカルビでも頼むか。絶対後半食べたら辛いお肉ランキング1位。」
「わかるぅ。カルビ美味しいんだけどね。脂がぁ脂がぁ」
「昔は食べれたんだけどね。徐々に脂がキツくなって。」
「今ではたくさんは食べれないのが残念。」
多分4~5切れ食べれば十分。だけどカルビの油をビールで一気に流し込む感じだけは忘れられない。
タッチパネルでカルビとビールを2つ。あと冷麺を頼んだ。
「肉の部位は何が一番好き?」
「タン。1択。」
「わかる!わかるよ!」
「君は?」
「よくぞ聞いてくれました。私はレバーです。」
「レバー?」
「なんだよ!いいでしょレバー!」
「あんま好きじゃないんだよなぁ」
あの独特の味。好き嫌いが分かれる。僕はあんまり得意じゃない。
「浅い。浅いね。まだまだだよ。とりあえずこのお店のレバーを一切れ食べてから好きか嫌いか判断してもらいたいね。」
自信満々にタッチパネルでレバーを注文する元カノ。
届いたレバーを即座に焼き、まるでソムリエかのように「ここだ!!」と声をあげ肉をひっくり返した。彼女なりのタイミングがあるのだろう。
「へい。お待ち。レバー塩やで。」
「なんで関西弁?」
「たまに出ない関西弁?」
「わからなくもない。」
使い勝手よかったり、声に出すことが気持ち良かったりで結構関西弁って関西の人じゃなくてもついつい使っちゃう気がする。
お皿の上に置かれたレバーを1つ箸でつまみ口にはこんだ。
「う、うまい」
「でしょー!!」
「クセがなくて、それでいて素材本来の旨味がある。」
「新鮮なレバーだから出せる味よ。」
歳を重ねるにつれて味覚は変わるって聞いたことがある。これはうまい。
「んー!おいしー!!」
大好物のレバーを口に運び美味しそうに頬張る。
「ありがとう。外食誘ってくれて。」
「どしたの急に」
「嬉しかったからさ。外食なんて久々だし。」
「ならよかった!!まあいい息抜きにもなったし、明日からも頑張るぞ!」
「おー!」
「頑張るために今日は食べるぞ!」
「おー!」
その後。2人でお腹いっぱいになるまでご飯を食べた。
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