5話
大学の就活期を含め、面接練習や実戦の面接は幾度となく繰り返してきた。
だけど人間いざその立場になったら緊張と震えで正常な思考ができなくなって、考えていたエピソードトークや最低限のルールさえも頭から抜けてしまう。
人生初めての面接は散々だったのを今でも記憶している。
大学入試の項目に面接があり、人生がかかった勝負だというのにカチコチになってしまい何も話せなかった。
その後、第一志望の大学は面接で落ち、別の大学を受けたのは今でも記憶に残っている。
軽いトラウマ。
人生がかかった出来事には代償として大いなる緊張と記憶を吹き飛ばす魔法が込められている。
そしてまた人生がかかった出来事に挑もうとしている。
「お願いします。」
「お願いします。」
つい先日、彼女からおすすめされたアルバイトだ。
人によって物事の重要度は大きく変化する。高校生がお小遣い稼ぎにバイトの面接を受けるのであれば、その緊張は間違いなく面接という現場に慣れていない不慣れからくる緊張だ。
逆に僕の場合、この面接に受かるか受からないかで人生が変わるレベルで重要だ。
この面接に受かることができれば本当に少しだけ収入に余裕ができ、朝食の具なし味噌汁にワカメとたまに豆腐すら入れることができる。
そう考えるとより一層身に力が入り、「受からないと」という焦りに襲われる。
序盤はテンプレの質問がいくつか飛んでくるが、それには落ち着いて答えていく。
「質問なのですが、この就職から退職までの期間が3ヶ月なのですが、なぜ3ヶ月で退職なさったのか理由を聞いてもよろしいですか?」
「はい。」
上部だけの偽った会話なんて無限にできる。
だけど本当に受かりたいなら、別にわざわざ自分を偽るのは自分の素を隠すことになる。前の職場にいて常々思った。自分を隠して生きるのは大変だと。できることなら自分の素を曝け出して職場の人と仲良くしたいと。
無愛想なこの顔とスキル不足なコミュニュケーションを持った僕は学んだのだ。
【自分を偽るのは自分に不利益しかもたらさない。】
初めはあまり声がうまくでず、多々噛んでしまった。
それでも自分の言葉で過去の自分を第三者に曝け出した。
誰かに自分のことを伝えるのは僕にとっては怖いことだ。
逃げ出したくもなるし、人の顔を見て話せなくなる。
逃げることは悪いことじゃない。逃げて救われたのが僕だから。
だけど逃げてばかりはダメだ。
逃げた後に別の形でもいいからしっかり向き合わないといけない。そのことを今職場で働いているであろう笑顔が素敵な彼女の顔を思い出した。
「以上です。」
「最後にいいですか?」
「はい。」
「なぜまた働こうと思ったんですか?」
「そうですね。やっぱり」
笑顔で、自分の出せる感情を最大限込めて。
今この場に彼女はいない。本人がいる前でこんな恥ずかしいこと笑顔で言えないから。今はまだ誰かに話すことが精一杯だ。そんな僕が思うまた働こうと思った理由。
「元カノに背中を押してもらって元気が出たからです。」
今は言えないけど、いつか君にこの言葉を送る。
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