4話
スマホとは便利なもので、数十秒あれば簡単な操作で数万以上のバイト先候補を出してくれる。
バイト求人サイトも多々あり、サイトに飛んだあとも絞り込み機能などで自分にあった環境での職場を探すことができる。
元カノに「少しずつ」と言われたのを忘れずに近場で絞り込み検索してみる。
最近のアルバイトは自宅でできる作業も増えてきている。
インターネットは大学の資料やレポートをまとめる時に使ったぐらいでできるとは言いにくい。
家での仕事はインターネットを中心に扱う作業ばかりなので無理だろう。
そうなるとメジャーなバイト先といえばコンビニだが。
昔、とあるコンビニで働いていた幼なじみから聞いた話がある。
「バイトどう?」
「ありゃあ地獄だよ。昨日もさ、急に電話かかってきてさ、今日入れるかって?」
「へー」
「しかも6時間だぜ。それに入ってくる給料が少なすぎる。絶対裏で減らされてるだろ。」
「業務内容は?」
「覚えること多いし、レジ打ちが基本業務だから変な客の対応だるいし、もううんざりしてきた。」
「やめればいいじゃん。」
「やめようとすると意地でも縋り付いてくる。だるい。昨日なんかうざすぎて手出そうかと思った。」
「えー、捕まらないように気を付けろよ。」
「大丈夫、跡は残さん」
次の日から幼なじみはバイトをバックれた。結果、地元のブラックリストに名前が載ったらしく地元でアルバイトができなくなった。
この会話を当時は適当に流していたが、今となっては恐ろしい話だ。
バイトという身分上あまりでかい態度は取れないし、シフトの融通もそこまで聞かない。
高校生だと特にそうだ。自分より身分が上の大人にはどうしても逆らえない。雇ってもらっている身だし。
絞り込んだ検索結果をスクロールしながら見ていく。
日雇い引っ越し業者。7~10時間。体力的に無理だ。衰えた体では足でまといにしかならないだろう。
スーパー。どの部署に配属されるかわかりません。ドキドキすぎる。清掃とかならいいけど血とか肉扱う仕事は無理だぞ僕。
新聞配達。そもそも早朝に起きられない。今の体が完全に夜型のせいで苦労している。
自分にあったバイトは探すのは難しい。
学生であれば、とにかく時給がいい!とか、近場ですぐ行けるところ!などあるだろう。
それでもたくさん条件を絞り込んで、多少なり妥協をしなければいけない時がある。
多少時給が安くても、その他の条件がいいなら許せる。そんな心の妥協が今の僕にはできない。
妥協したら前職と同じになるんじゃないか。その恐怖が僕の中にあったのだ。
「ただいま。」
誰かに頬をつねられた。
この家の合鍵を持っている人は1人しかいなく、ただいまの声で誰なのかわかった。
「おかえり」
仕事を終えた元カノが帰宅したのだ。
「何見てたの?」
「バイト。」
「ふーん。何かいいところ見つかった?」
「いや全然。」
「そ。なら就職できた先輩から助言。深く考えないほうがいいよ。」
「え?」
「企業、雇い主からしたらバイトになんて大した期待はしてない。社員で多少の仕事は埋められるようにしてると思う。だから嫌になったら素直に辞めたいですって言えばいい。最低1ヶ月勤務の職場にしな。そうすれば1ヶ月すぎたあとは好きにやめられるから。」
冷蔵庫からアイスを取り出し、食べだす元カノ。
「で、でもそんな簡単に決めていいのか?」
前の会社では休めば責任。失敗すれば責任。成功しても責任。何に対してもそれ相応の責任を背負わせれた。
その責任は正直重みで、嫌になるぐらいに逃げたくなる要因の1つだった。
自分の1人のことならいくらでも背負う。
だけど他人が絡むとどうしても失敗したら責任を取らなきゃという重圧に駆られる。
「いいんだよ。それで。逃げることも時には大事。」
今までそんなこと言われなかった。
逃げること=悪いっていう認識で生きてきたから。
でも戦略的に、自分が負荷を背負い過ぎない選択肢の1つとして逃げるという項目があるならそれを選んでもいいのか?
「それでも、どうしても無理だったら言って。私の友達づてでバイト先紹介するから。」
そう高校時代友人が大勢いた彼女は笑顔ではにかんだ。
その日の夜。
お菓子の梱包作業の職場に応募した。
彼女は、子供の成長を見守るが如く僕の方を見つめていた。
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