デス・ジャッジメント・クリアランス ~危険な三姉妹の物語《幕間》
野森ちえこ
第5.5話 【幕間】星に選ばれし三姉妹
第5話
https://kakuyomu.jp/works/16816452220729151833/episodes/16816452220984492108
――――――――――
それはまだ、三姉妹がただの三姉妹だったころのこと。
あるとき、なんだかんだあって泥酔した長女は、千鳥足につられてふらふらと考えた。
こんなときは男にやさしく介抱されたいし、ちょっと強引に押し倒されてみたい。
起きたら裸で男と寝てました(ハート)なんてシチュもいい。
鍛えぬかれた肉体を誇る男まさりの脳筋娘だが、心は案外乙女なのである。
彼女の願望は止まらない。
たとえ胸は貧しくとも、女と生まれたからには男の注目を集めてみたい。そんでもって奪いあわれてみたい。
つらつらとそんなことを考えていたら、なにもないところで盛大にすっ転んだ。
深夜の道端で大の字になった彼女は思った。
もうなんでもいいから誰か処女をもらってくれ。
……乙女なのだ。
誰がなんといおうが、乙女なのである。
またあるとき。
巨乳ばかりがもてはやされるこの世界に絶望した次女は、みずからの過去を振り返っていた。
恋やらなんやらキャッキャうふふとまわりが青春を謳歌していたころ。彼女についたあだ名はチチナシ子。ムニューちゃんと呼ばれたこともあった。
寄ってくる男といえば貧乳フェチの変態ばかり。なんてひどい世界だろう。
今度生まれ変わったら、乳がなくても活躍できる世界にいきたい。いや、生まれ変われるなら、ぷるんぷるん揺れる乳がほしい。同情するなら乳をくれ。次女は切実にそう思った。
そして――
姉妹のなかでただひとり、パットいらずのたわわな乳に恵まれた三女もまた、深い悲しみに沈んでいた。
なぜこうもおっぱい好きな男が多いのだろう。なにかというとおっぱい。なにもいわなくてもおっぱい。
大きいからなんだというのだ。ただの脂肪のかたまりではないか。重いし、肩こるし、姿勢悪くなるし、動きにくいし、かわいい下着だってあまりないし、Tシャツ着ただけで『エロい』っていわれるし。いいことなんてなにひとつない。
ほんとうに、ひとつもなかった。
それどころか、いったいどれほど人間関係を壊されたことか。
彼氏を誘惑するなと因縁をつけられるのはもはや日常茶飯事。
同性という同性から、ことごとく憎まれ恨まれ嫌われて、あげくのはてに仕事まで失った。
彼女は涙にくれた。
乳なんてないほうがいい。できることならもぎとってしまいたい。それが無理ならせめて、この豊かな乳をなにかの役に立てたい。そうしたら、ほんとうに自分を愛してくれる男だってあらわれるかもしれない。
三女はわりと本気でそう思った。
乳に悩み、乳に泣き、乳に翻弄されてきた三姉妹。彼女たちの願いを、嘆きを、悲しみを、空のお星さまが聞いていた。
そして『ほんじゃまあ、ちょっと力を貸してやろうかいな』と妙な気まぐれを起こした。
その結果、彼女たちの願いらしきものは、非常に広い意味で叶えられた――といえなくもない。むしろ嫌がらせなのではないかという疑いもあったがきっと気のせいだ。
長女の身体能力はさらなる高みへと進化をつづけているし、次女は喜々として業務にいそしんでいる。また、変身した三女の姿は男子をとても幸せな気分にさせる。
そんなこんなでお星さまが三姉妹に気まぐれを起こしたころ。それまで水面下で密かに動いていた矢場杉産業もまたその活動を本格化しはじめた。
はたしてこれは偶然なのか。それとも――
いずれにせよ、世界征服をもくろむ矢場杉産業に対抗できるのは、気まぐれな星に選ばれた三姉妹だけ――かどうかは、これからの彼女たちしだいである。
さあゆけ! 三姉妹! 世界の平和を守るため――
「うっさいわね、もう! 黙って聞いてれば、責任まる投げか! てか、ナレーション長いのよ!」
あれ。まさか聞こえて……
「この耳つけると勝手に聞こえてくんの! ナレーションすんならそれくらい知っときなさいよ!」
なんと。どういう仕組みになっているのか、変身カチューシャのうさ耳がぴこぴこ動いている。
「そんなことよりユウちゃんよ! さっさと場所だしなさいよ!」
その名のごとく、深い谷間のお胸を強調するバニーガールコスチュームに身を包んだメルヘンバニーちゃんは、ぷんぷん腕を振りまわしている。
ついでにまあるい尻尾がくっついたお尻もふるふるしている。
「くっ……」
いまだパンイチ姿のレーはがくりと膝をついた。なんという美しい曲線。いつ見ても見事な凹凸である。
レーの鍛えあげた筋肉質な硬い肢体とは対局にある、まるみをおびた柔らかなライン。しかもバニーちゃんことメグのそれは天然ものである。
まぶしい。まぶしすぎる。自身がドブに投げ捨ててしまったものはかくも偉大であったか。
「ちょっとレーちゃん! いちいち落ちこんでないで見て!」
なにもない空間に、ふわんと魔法のスクリーンが浮かびあがる。
そこに映しだされたのは、頬を腫らして床に転がっているユウと、それを見おろしている黒スーツの男。すこし離れたところに、やはり黒スーツに身を包んだ男女の姿があった。
「ユウ! あーいーつーらあああああ! マジでぶっっ殺す!!」
またもや駆けだそうとしたレーの腕を、メグは両手でがしいっと掴んだ。
服を着る着ないのやりとりはそろそろ割愛してもいいだろうか。キリがない。終わらない。だいたい、服を着ろといっているメグからしてバニーちゃんになってしまっているのだから収拾がつかない。
レーの腕を掴んだまま、メグは魔法のスクリーンにキッと目をやった。その片隅に地図と住所が表示される親切設計である。
出ているのは隣町の住所だ。タクシーでもつかえばすぐに行ける。がしかし。
メグはレーと自分を交互に見やる。
かたや縞パン一丁。かたやハイレグバニーちゃん。
そういえば、こちらの動きを監視してるとかなんとか、電話の男がいっていたような気もする。
「もう、わかった。こうなったらしかたない」
奥の手――テレポート魔法をつかうしかないだろう。いちかばちかだけども。
なにしろ、テレポート魔法は体力を激しく消耗するうえ、到着地点もかなり不安定なのである。メグが行ったことのない場所だとなおさらだ。誤差数百メートルなんてこともざらで、目指した場所ぴったりに着けるのは十回に一回あるかどうかというレベルなのである。
それはおそらく魔力の問題であって、メグが方向音痴だからというわけではない――はずだ。たぶん。きっと。
「行こうレーちゃん! わたしから離れないでよ!」
「まかせて!」
レーの引き締まった腕が、がっしとメグの細い腰にまわされる。なんて頼もしい。うっかりうっとりしかけたメグはぶんぶん首をふりまわした。うさ耳が揺れる。乳も揺れる。
背に腹はかえられない。
待っててユウちゃん!
メグは両手を天にかざした。
「マジカル・ミラクル・リリカル・バニー、マワレマッハ・ユラユレルールメグル・カンランシャ。
キラキラと虹色の光が二人を包む。
メグの腰にしっかりとまわされているレーの腕。その逆の手には、なぜかまだチューブワセリン(お徳用ビッグサイズ100g)が、かたく握りしめられたままだった。
【第6話に続く♡】
https://kakuyomu.jp/works/16816452220764362489/episodes/16816452221117737448
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