第5話 うさ耳メルヘン魔法少女になーれ!

第4話

https://kakuyomu.jp/works/16816452220764362489/episodes/16816452220869356902


ーーーーーー


「ーー平たく言うと、世界征服ってことさ。今の社会は狂っている。見てみろ。虐待されて死んでいく子供、病んで自ら命を絶つ若者、懸命に生きて来たのに報われずに孤独に生涯を終えて行く老人。君はこんな世の中で生きていたいと思うかね? 自分の子供や孫に生きてるって素晴らしいことだと胸を張ることができるかね?」


 マークは芝居がかった仕草で黒スーツの内ポケットから煙草を一本引き抜いた。それを口にくわえてジッポで火を付ける。倉庫の暗がりに赤い炎がほんのりとゆらめいた。


「我々矢場杉産業は表向きはただの印刷会社だが、実はエロ本、BL同人誌の発行部数ではトップシェアを持っている。日本で印刷される無修正ハードコアなエロ本やBL同人誌の70%はうちの印刷なんだ。知っていたかね?」

「え? うそ! そんなの始めて聞いた」


 ユウは床に転がされた状態でマークの顔を見つめた。ユウは趣味で小説を書いている。当然同人誌を出すことも買うこともあるが、矢場杉産業なんて聞いたこともない。


「でも、それと私のあの服となんの関係があるっていうのよ」

「話は黙って聞くもんだよ、お嬢さん。君が普段目にしている印刷会社は、すべて矢場杉産業のフロント企業なんだ」


 ……この男は一体なんの話をしているんだろう。

 ユウは縛られたまま考えたがその答えは見つからない。床の冷たさだけが伝わってきた。いつの間にか倉庫の入り口に移動したデス代とボックが監視体制に入っているのが視界の端に映る。

 ……脱出はかなり無理そうね。まったく私ってホントについてない。


 ユウの心の声とは無関係にマークの低い声は話を続けた。


「君があの服の適合者であることは調べがついている。服の素材も製法も調査済みだ。我々がハードコアなエロ本やBL同人誌のトップシェアをなんのために握ったか、分かるだろう?」


 あっ! とユウは叫んだ。黒スーツのマークがサングラス越しにニヤリとニヒルに笑った。


「やっと分かったかね。そうだ。あらゆる裸のデータが我々の手で紙媒体の上に再生されていくのだよ。我々にコピーできない体型はないんだ。老若男女、身長体重スリーサイズ、あらゆる体型が我々の手で印刷されている。こんなにいいデータはないだろ?」

「じゃあ、私からあの服を取り上げる必要ないじゃない! 勝手にコピー製品を作っていればいいでしょ!」


 ユウは腕に食い込む荒縄を揺らしながら叫んだ。


「見た目は簡単にコピーできるよ。見た目だけならね。そんなものはすでに完成している。ただ、どうしても実物がないとコピーできないものもあるんだ」

「……ボイスコマンダーと自動追尾ホーミングアルゴリズムね。無理よ。あれは総合技術研究所門外不出の最高傑作にして最高機密。あんたたちなんか実物があってもコピーできないわ」

「それはどうかな。残念ながら君は矢場杉産業を少し甘く見ているようだ」


 マークは吸い終わった煙草を投げ捨てて暗い笑い含んだ声で言った。


 ◇


「おかしいわね。あ、わかった。これをワセリンを塗った私のお尻に突っ込めば、ユウちゃんの行き先が分かる仕組みになってるんだ!」


 レーは言うや否や椅子から腰を浮かせて縞パンを脱ごうとした。メグはそれを慌てて押しとどめる。


「やめて! そんなわけないから! レーちゃん、お願いだからやめて! あぶり出しじゃないんだから。お尻に入れたら字が出てくる紙なんて、世の中に存在しないから! う〇こが付いちゃうだけだから!」


 レーは不承不承パンツにかけた手を離す。


「じゃあ、ユウちゃんはどこに行ったのよ。早く見つけないと矢場杉産業がらみだから絶対ヤバいことになる」

「もう、レーちゃんに任せてたら全然手がかりがつかめない。もう一回リビング行こう」


 二人は連れ立ってリビングに戻る。キッチンを見回すと焼いたウィンナーが艶やかな光沢を放っている。

 ふと気が付いたメグはキッチンをじっくりと舐めるように見た後、念のため冷蔵庫の扉に手をかけて中を見た。


「やっぱり! 粒マスタードがない! ユウちゃんは粒マスタードを買いに行ったんだ」

「え? あ、そう言えばないわね。でも粒マスタードならコンロの下の扉に買い置きがあったのに」


 そう言うとレーはIHの前でかがんでシステムキッチンの扉を開いた。そこには瓶詰のあらびきマスタードが転がっている。それを手に取ったレーが、ほら、とメグに向かって軽くトスした。


「あら、いつものチューブ入りのじゃなくて瓶詰なんだ」

「たまたま仕事の帰りに寄った性城石井で売ってたのよ。そろそろ切れそうだから、たまには違うの食べようと思って買っておいた。はっ! そうだ! 分かったわ!」


 はたと気が付いたレーは、再び縞パンに手をかけた。メグがとっさにレーの腕をつかむ。


「違うから! それ絶対違うから! 粒マスタードをお尻の穴に突っ込んでもユウちゃんの行き先分からないから! 痛いだけだから! その痛さがたまらないとか言い出されても、私困るから! いい加減お尻の穴から離れて!」


 レーは自分の発案をことごとく粉砕されてふてくされ気味になる。不満気な様子でメグに告げた。


「じゃあどうすればいいのよ」

「レーちゃんに任せてたら、いつまでたってもユウちゃんの行き先分からない。もう、仕方がないわね」


 メグはため息をついて自分のワンピースのポケットからカチューシャを取り出した。そしてそれを頭にさっと付けると、若干恨みのこもった視線をレーに向けた。


「私がやるから。ホントはやりたくなかったんだけどね。レーちゃんは服を着ておとなしくしてて」


 そして腕をかざすと高い声で呪文を読み上げ始めた。


「マジカル・ミラクル・リリカル・バニー、魔法の力でユウちゃんの行方を示したまーえ。それー!」


 メグの周囲がすぐにキラキラした光の粒が降り注ぐ。振り上げた腕を下ろすと、そこにはうさ耳魔法少女巨乳メルヘンバニーちゃんに変身したメグがたたずんでいた。




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