第3話 「アイツら、許さん!」

 第2話

 https://kakuyomu.jp/works/16816452220764362489/episodes/16816452220764443681


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「ーーユウちゃんなんてただの繊細拗らせメンヘラ女じゃん!」


 メグの叫び声にレーは冷静に答えた。


「メグ、行くわよ。ユウを助けに」


 レーはすくりと立ち上がるとジャージのジッパーをじじじと下ろし、はらりと片手でそれを投げ捨てた。そして、下も同様に脱ぎ捨てる。パンイチ姿のレーがリビングに立ち尽くしている。筋肉質なその肢体は、リビングのシーリングライトに照らされて古代ギリシャの石像のような神々しささえあった。レーは全身の筋肉を躍動させてリビングの扉の取手に手をかけた。

 メグはまぶしそうにレーの姿を見つめていたが、さすがにはっと我に返って、まさに駆けださんとするレーの腕をつかんだ。


「待った待った待った、レーちゃん、その恰好で外に行く気?」

「当たり前じゃない。妹のピンチに服なんか着てられっかっていうの! まったく、アイツら、絶対許さない!」

「え? レーちゃん、ユウちゃんがどこ行ったか知ってるの?」


 レーはメグの声にゆっくりと振り返った。その表情は怒りに燃えている。


「分かんないけど、誰の仕業かは見当がつくわ。アイツら、ほんとーにやり方が汚い。私はね、メグ」


 メグの目の前でユウは歯ぎしりして悔しそうに低い声でうめいた。パンイチ姿のままで。


「汚い手段で己の目的を達成しようとする男がだいいいっきらいなの! 思い切り踏みつけて、その腐りきった×××を引きちぎってやりたいぐらい」

「い、いや、汚いことする男は私もイヤだけど……」


 メグはあまりのレーの迫力に気圧され気味だった。レーは曲がったことが嫌いな単細胞で短気なのは知っていたが、ここまではっきりと憎悪と怒りと敵意をむき出しにすることは少ない。しかも、今回はその怒りの対象が誰なのか、レー自身が分かっている口ぶりだ。

 これは、ヤバい。メグはひそかに戦慄した。レーちゃんが怒って自分から服を脱いだとき……、公共物が破壊されるぐらいで済めばましな方。けが人、いや率直に言うと死人が出る可能性すらある。それにあの服を着たユウちゃんが加わったら……。ヤバいどころでは済まされない。


「ねえ、レーちゃん、ユウちゃんとその男、なんかあったの?」


 メグはおそるおそる聞いてみる。


「正確に言うと、男たち、よ。もっと言うと一味には女もいるんだけどね。だけど今、それ説明しているヒマはないから。メグもアレ持って行くのよ」


 レーが低くうめいた時、リビングのテーブルの上で、またユウのスマホがけたたましく着信音をかなで始めた。ぎょっとしてそれを見つめるメグ。レーも目を見開いてその音源に目を向けた。そして踵をかえしてリビングの中央に向かい、パンイチの腰をかがめてスマホを手に持ってスピーカーで通話モードにした。低い男の声がリビングに響く。


「ほう。キミはお姉さんかな? 久しぶりだな」

「ちょっと、なんなのよ、アンタ! まずは名乗りなさいよ! 会社入った時に電話の出方習わなかったの?」


 レーはスマホの画面をにらみつけて怒号を返す。


「おっと、これは失礼。でも残念ながら我が業界では、最小限の言葉で間違いなく用件を伝えるのが通話の美徳とされているんでね。長々とした挨拶はしない主義なんだ」

「そんなことどーでもいい! この腐れヤロー! ユウをどこにやったの!」

「クックックッ、それは教えられないな。愛しい妹を返してほしければ、キミたちの持っているあの服を持ってくるんだ」

「き、汚い……。あの服を手に入れてどうするつもりなのよ! あれを着れるのはユウちゃんだけのはずなのよ!」

「クックックッ、キミは本当に脳みそも筋肉なんだな。我が社のテクノロジーをなめてもらっちゃ困るよ。コピーはお手の物だ」

「ユウは、どうしてるの? ユウの服をコピーしてどうするつもり?」


 スマホの向こうから男の不敵な声がスピーカーを通して聞こえてくる。


「それはキミたちは知らなくていい話だ。どうだい、取引しないかね」


 その時、か細い涙声が聞こえて来た。


「レーちゃん、ぐすっ。わたし、もうこのまま殺されちゃうのかもしれない……。どうせ、どうせ、わたしなんか、机の引き出しの奥に押し込められた紙切れのようにズダボロにされて、お尻の穴にワセリン塗られて、とても口では言えないような辱めを受けて殺されちゃうのよ……。ぐすっ」

「ユウ! 大丈夫、今すぐ助けに行くからね! おい、腐れ外道野郎! ユウを放しやがれ!」

「おいおい、穏やかじゃないことは言わないでくれないか。我々は紳士なんだ。そんな変態のようなことをするわけがないだろ? 聞いたかね、お姉さん。すぐにスマホを持ったまま我々の指示通りに動け。言っておくが、キミたちは監視されている。妙な動きをしたら、彼女のこのつつましやかな身体が傷つくことになるかもしれないからな。分かったかね」

「キャー!! やめてー!」


 スマホの通話はユウの悲鳴を残してぷつりと切れた。


「くそ。アイツら、まじで許さん! 矢場杉産業のヤツら、全員ぶっ殺す!」


 レーはスマホをメグに押し付けて走り出した。黙ってレーと男の通話を聞いていたメグが声をあげてレーを引き留めた。


「待って、レーちゃん! ユウちゃんの部屋の引き出しの奥、調べようよ。あれは私たちへのメッセージだよ。 それと……お願いだから、服を着て!」

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