デス・ジャッジメント・クリアランス ~危険な三姉妹の物語

ゆうすけ

第1話 わたしたち三姉妹!

「ねえ、ユウちゃん。わたしお腹すいたんだけど」


 フローリングに腰をおろしてアイロンがけをしている次女ユウ。三女メグはリビングのソファで雑誌を読みながら次女ユウに話しかけた。都会の3LDKで暮らす三姉妹のうちの二人。今日は長女のレーが仕事からまだ戻ってきていない。テレビではイケメンが彼女と観覧車に乗るドラマが終わって、スプレーのCMをにぎにぎしく流している。


「私は今忙しいの。明日仕事なんだから。なんか自分で作って食べれば?」

「今日はレーちゃんの当番なのに、休日出勤しなきゃならないんならそう言っておいてほしいよねえ。ところで、それ、アイロンかけちゃっていいもんなの?」


 次女ユウはせっせとアイロンかけを続ける。ユウの手元ではアイロンがスチームを盛大に吹き出している。


「いいんじゃない? ダメとは言われてないし」

「よくそんな派手なの着て仕事できるよね。恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいけどメリットの方が大きいもん」

「ふうん、そんなもんなの」

「他人のことはほっといてよ。あんたもぼーっとしてると同僚にいいように使われちゃうから気をつけなさいよ。だいたいメグは昔からお花畑でメルヘンなんだから」


 次女ユウは手元のアイロンを滑らせながら、ぶっきらぼうに答えている。少し浮かせたアイロンからスチームをあて布に吹き付けて、そのあと上から力を入れて押し付け滑らせる。もともとしわのできにくい素材で作ってあるから、目に見えるほどアイロンがけの前後で違いは出ない。それでもアイロンが通った後は繊維の目が落ち着いているかのようだった。ユウは満足してアイロンを立てると、手に取ってばんざいするかのようにその服を広げた。パステル色を目の前にぶら下げて満足げな次女ユウ。

 三女メグはそれをちらりと見て相変わらず雑誌をつまらなさそうにめくりながら声を上げる。


「ねえ、その服、いつも思うけどさ、盛りすぎだよね」

「盛るって言うな。メグには分かんないのよ。まったく」

「色はわたし好みだけど、もうちょっとかわいいのじゃないと着る気がしないな。しかし、レーちゃん遅いよね」


 次女ユウは首回りが伸びないように気を付けながら、服をハンガーに通した。そして軽やかに立ち上がると、それをよいしょっと言いながら背伸びをして、リビングの壁のフックに吊るした。一歩下がって、腰に手をあててしげしげと仕上がりを眺めている。そして「うん。上出来」とつぶやいてから、キッチンに足を向けた。


「レーちゃん、またどっかで走り回ってんじゃない? あんな脳筋が自分の姉だと思うとなんか悲しくなっちゃう」


 なにげなくつぶやいたユウの言葉に、メグが思わず吹き出した。


「ユウちゃん、ちょっと。人のこと言えないって。ユウちゃんがそんなこと言ったらブーメランだって!」

「ふん! なんか作ってあげようかと思ったけど、そのまま飢えとく? それとも自分の胸の脂肪でも食べる?」

「すみません、お姉様。あわれなわたしに食物をめぐんでください」


 その時、リビングのテーブルに置いてあったスマホが鳴り出した。メグが雑誌をぽいっとソファのそばのマガジンラックに放り込んでスマホをつまむ。


「だれ?」


 キッチンでフライパンを持ったユウが声をかけた。


「レーちゃんから。服持ってきて、だって」

「えー、またー? こんな人通りのある時間に。頭おかしいんじゃない? それかただの変態だよね、いつもいつも」

「二丁目のコンビニのトイレに隠れてるんだって。しょうがない。このメグちゃんが行ってやるか」

「ご苦労さんね、メグ」

「ユウちゃんのこれ、持って行ってあげてもいい?」

「やめてよ。こんなのあの脳筋が着たら世界が破滅しちゃうよ」


 オリーブオイルをフライパンに落としながら、次女ユウはさして興味もなさそうに言った。三女メグはリビングから一瞬だけいなくなり、すぐにジャージを手に取って戻ってくる。


 フライパンでウィンナーを転がしながら次女ユウは三女メグに声をかけた。


「メグ、パンツは?」

「一応、持ったよ」

「気を付けてね、そこらへんのものをあんまり壊さないようにね」

「分かってる。じゃ、行ってきまーす!」




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