NEW NPC⑫
翌朝
「新久、聞いてるの? 昨日の勉強はどこまで進んだのよ」
朝から母親がうるさいことに変わりはない。 だがだからこそ現実であると実感させてくれる。 心配してくれるのは分かるが、もう親の言いなりになる気はなかった。
「新久! 返事をしなさい!」
「僕はもうお母さんの言いなりにはならない」
「新久? 貴方は何を言ってるの?」
「僕は絶対に工業高校へ行く。 そのためなら勉強は頑張るから」
そう言うと新久は家を出た。 まだ母親は何かを言っていたが、やることさえやれば問題ないと思っている。 学校へ着くと昇降口で初弥を見つけた。
「初弥くん!」
名を呼ぶと彼はビクリと肩を震わせた。 新久もいじめっ子たちが怖くて初弥に自分から絡みに行ったりしたことはなかった。 突然の態度に驚いたのも無理はないだろう。
「な、何・・・?」
初弥から見れば新久もいじめっ子の一人なのだ。 ただ明らかにやらされていた感が出ているとは思っていたはずだ。
「友達になろうよ」
「え? 友、達・・・? それはどういう・・・」
「だから、僕は初弥くんと友達になりたいんだ」
「でも、そんな、僕と友達なんかになったら・・・」
初弥が返事に困っていると背後から見慣れたグループがやってきた。 いつも初弥をいじめる彼らだ。
「新久? アンタ、初弥と何をしてんの?」
新久が一人で初弥と話しているのは珍しく変に思ったようだ。 そんな彼女にハッキリと言った。
「初弥くんと友達になっただけだよ」
「はぁ? 何それ、友達ごっこ?」
「ごっこじゃない。 本当の友達」
「今友達になって、後から初弥を裏切ろうとしてるの? ははッ、いいねぇ! 新久にしては名案だよ」
「初弥くんにそんなことはしない! 僕は絶対に裏切らないから!」
そう言うと彼女の笑顔がスッと消えた。
「アンタ、何を言ってんの? アタシに生意気を言ってもいいと思ってんの?」
「僕だって人間だから」
「いつアタシたちに逆らえるようになったんだよ」
「僕だって意思を持つ人間だから!」
新久は自分の意見を主張した。 だが彼女は鼻で笑っている。
「はいはい、分かったから。 もう見栄を張るのは止めて早くアタシたち側に付きなって」
「もう付かない。 僕はずっと初弥くんの傍にいるって決めた」
「これ以上、いい加減にしないと」
「僕は君たちにこき使われるような、コンピュータじゃない!」
強くそう言うとこの場は静まり返った。
「は、何それ・・・。 本気?」
睨み付けるように目を細めてくるが、新久がもう物怖じすることはなかった。
「は・・・。 一気に冷めたんだけど。 新久、後で憶えていなよ?」
そう言うとグループは去っていった。 初弥が困った表情で言う。
「新久くん、いいの?」
「うん、いいんだ。 僕が決めたことだから」
「でもそれじゃあ、新久くんもいじめの標的に」
「僕はもうやられっぱなしじゃない。 自分の意見を主張していく」
「自分の、意見・・・」
そう言うと初弥は自信なさ気な顔をした。
「初弥くんも僕と同じ人間なんだから、もっと自分の意見に自信を持って。 もし持てなくても、僕がずっと初弥くんの味方でいるからさ」
これを機会に新久は初弥側へと付くことになった。 相手はクラスカースト上位の不良たち。 時には辛い思いをすることもあったが、対抗しているうちに初弥も段々と物事をハッキリと言うようになった。
少しずつ味方は増え、彼らには標的がいなくなった。 そのうち仲間内で揉めるようになりグループは解散した。
―――お姉さん、ゼット。
―――また会える日を楽しみに待っているから。
-END-
NEW NPC ゆーり。 @koigokoro
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