NEW NPC⑪




しばらくして光の帯が包み込むと警備員とNPCたちはどこかへ消えていった。 それを見届けると辺りを確認し、隅の方に寄った。


「それで? 君たちはどうやって外へ? てっきり廃棄所かどこかへ転移すると思っていたのに」


彼女の言葉を信じるならクレア姫である新久にバグがあるということが分かっていたようだ。 もちろん意思を持つNPCなんて分かりやすいため当然なのかもしれないが。


「逆に質問させてほしい。 君は一体何者?」


尋ねると彼女はポケットからあるモノを取り出し提示した。


「私はゲームでの秩序を保つ捜査官なの。 運営会社の一人からリークを受けて調査に来た」

「やっぱりゲームプレイヤーじゃなかったんだ」


見せてくれたのは捜査官だと証明するバッジだった。


「運営側なら、転移石をもらっておけばいいのに・・・」

「それも考えたんだけど、結局調査のためにゲームに慣れる必要があったのよ。 ・・・それにクレア姫の属性が、NPCからプレイヤーに変わっているという報告も受けていてね。

 転移石を獲得するついでに丁度よかったの」

「え・・・? わた、僕がプレイヤーになっているんですか!?」

「その話し方。 やっぱり中身は男の子だったのね?」

「あ、はい・・・。 新久って言います。 ごめんなさい、言えなくて・・・」

「気にしなくていいわ。 それに、私の背後から敵が近付いてきた時守ってくれたでしょ? カッコ良かったわよ」


ゲームの中とはいえ女性にそう言われると気恥しくて赤面してしまう。


「って! 見ていたんですか!? てっきり気絶しているのかと」

「どこまで意思があるのか、本当にプレイヤーなのか、それを確認したくてね」

「通りで・・・」


新久は彼女に回復アイテムを使いHPが回復しても目覚めなかった時のことを思い出していた。 寝たフリをしていたのなら起き上がるわけがない。 

ゲームでは新久が上手だが、他では女性の方が一枚上手だったようだ。


「・・・それで、君は?」


今度はゼットに顔を向けて言った。 ゼットは何故かあたふたしていて話せそうにないため新久が代わりに事情を伝える。


「彼の名前はゼット。 廃棄所から出る方法を唯一知っていたため、手伝ってもらいました。 意思を持つ僕にはあの場所は合わなさ過ぎるので」

「姫様・・・」


ゼットは庇われ複雑な思いをしているようだった。


「彼はNPCのまま意思を持っているのでしょうか。 ちなみに彼の属性はどうなっていますか?」


そう尋ねてみたものの女性は困った様子を見せた。


「ごめんなさい。 私には管理者権限はないからそれは分からないの」

「そうですか・・・」


自分が何者なのか分からないというのは怖い。 新久も現在似たようなものであるが、自身では自分は人間だと思っている方が強い。 重い空気を察したのかゼットがとびきり明るい声を出して言った。


「大丈夫だって! 俺、新久に会えて楽しかった! もしかしたらただバグっているだけなのかもしれないけど、今までNPCとしてただ武器を売っていた時に比べたら、本当に充実していたんだからさ!」

「・・・ゼット。 僕もゼットに会えなかったら今頃、廃棄所から抜け出せていなかったよ。 多分、お姉さんも」

「へへッ。 役に立てたなら嬉しいっす!」


短い付き合いだが友達のようになれて嬉しかった。 だがバグであると判断されれば今度こそどうなるのか分からない。 おそらく捜査官の女性も何かを感じてくれたのだろう。


「運営にゼットくんがこのまま残れるよう掛け合ってみるわ。 意思があるならAIだろうとプレイヤーだろうと関係がない。 ネット法がどうこうとかじゃなくて、私がそうしたいからそうさせてもらうの」

「お姉さん、ありがとう!」


ゼットはそれを聞き涙ぐんでいた。 武器商人として武器を持って旅に出たいと言っていた夢が叶うかもしれないのだ。


「それで新久くんはどうなるの? どうやったら現実の世界へ戻れるのか、分からないけど・・・」

「大丈夫です。 NPCをやって、お姉さんに出会って、自分の意思を押し殺してばかりでは駄目だと気付かされましたから」

「?」


彼女とゼットは頭にハテナを浮かべていた。 だがここから先は自分の事情であるため詳しくは話さない。


―――やっぱりNPCのままでいるのは駄目だ。

―――僕は自分の意思を持っていたい。

―――自分の意思を誰かに示して、自分はここにいるんだと証明したい。

―――だから・・・ッ!


「現実の僕、目覚めてくれ!!」 


そう言い放った瞬間新久は光に包まれた。 目を開けるとそこは柔らかくて真っ暗な場所だった。


―――ここは・・・?


真っ暗な場所と言えばダンジョン。 少し嫌な感じがしたが明らかに身体に感じる感触が違う。


―――これは、ベッド・・・?


思い切り布団を剥ぎ取った。 そこは自分の部屋だった。 電気をつけていたため少し目が眩む。


「僕、現実の世界へ帰ってきたんだ・・・」


無事戻れたことに安堵すると涙が出てきた。


―――今起きたことは全て夢だったのかもしれない。

―――でも今はその夢に感謝をする。

―――僕は今から変わるんだ!

―――そして、僕の存在を証明してやる!!


そう決意をし立ち上がった。



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