NEW NPC⑩




「ゼット、止まって!」

「え?」


瞬時に気付いた新久は呼び止めた。 だがゼットの反応は間に合わず、そのまま外へと出てしまった。


「ッ、お前たち! バグ復帰の報告は来ていないぞ!?」


どうやって帰っていたのか知らないが、やはりこんな風には戻らないらしい。 怪しいモノだとすぐにバレてしまった。


―――何か使えそうなものは・・・?


来た道を振り返る。 だが何も落ちているものはなかった。


「お前たち、コイツらを捕まえろ」


連れているるNPCにそう命令をした。 彼らもバグったNPCなのかもしれない。 虚ろな目をしてゾンビのように迫ってくる。 新久とゼットは後退っているうちに行き止まりへと追い詰められていた。 

絶体絶命のピンチでこれは消されてしまうかと思ったその時だった。


「何だ!?」


地から光の帯が幾本も立ち上がっていく。 新久にはそれに見覚えがあったが、想定していなかった警備員は驚いている様子だった。 だが今何故それが起こったのかは分からない。 

帯はゆっくりと消え、そこから先程ダンジョンで助けた女性が現れたのだ。


「あ、姫様! よかった、無事にここまで辿り付いていたのね」

「君は一体何・・・」


あまりに不可解な事象に理解が追い付いてこない。 そしてそれは警備員も同様のようだ。 


「ここにプレイヤーは来ることができないはずだ。 なのに何故!」

「名前を知っていれば移動できる転移石。 私はこれを使った!」


そう言って姫救出クエスト完了時にもらえる転移石を握りながら指を突き付ける。


「警備の依頼を請け負った貴方たちの会社が、NPCをいたぶっていることは調べが付いていた。 先日、AIにも最低限度の人権を確保しなければならないネット法が制定されたのを知っているはず! 

 姫様を追ったおかげでここへ来ることができたわ」


警備員は焦るように後退していく。


「今から運営に報告させてもらう!」

「お前たち、に、逃げるぞ!」

「待ちなさいッ!」


彼女は警備と一緒に逃げるNPCを捕まえようとする。 だが一歩踏み出したところで派手に転んでしまった。


「痛ッ・・・!」

「だ、大丈夫!?」

「あ、姫様・・・。 ありがとう・・・」


やはり多少ドジなのは変わらないようだ。 彼女は姫を見て言った。


「あ、そうだ姫様! 逃げた三人を捕まえてきてくれない!? 姫様強かったよね?」

「え、私が!?」

「姫様、お願い!」


彼女が何者なのかはまだ分からないが、今の状況で助けられたのは事実だった。


「わ、分かった・・・」

「姫様、俺も手伝う!」


ゼットも協力してくれることになった。 NPCよりも警備が優先だと思い二人で挟み撃ちにする。 するとすんなり捕獲することができた。


「姫様、やっぱり凄いね! 足も速いし体力もあるし、実は男の子なんじゃないの!?」

「・・・」


―――・・・そうか、まだゼットにしか本当の僕のことを打ち明けていないから。


だが彼女は新久に対してそれ以上何も言わなかった。 警備員を連行するよう捕まえ、NPCの首のロープを解いた。


「一応奴隷扱いされていたNPC二体も、検査してもらった方がよさそうかな」


何かを操作し運営に報告をしていると警備員が吐き捨てるよう言った。


「まさかプレイヤーに紛れ込んでいたとはな・・・。 警備の俺でも知らなかったぞ」

「それは当たり前でしょ。 私の存在は運営にしか分からないんだから」


新久には話していることがサッパリだったが、何となくゲームに不慣れな理由は分かった気がした。 おそらくは大量のアイテムだけを所持しクエストに臨んだのだ。 

今回のクエストで全てを使い切ってもいいと思っているのならそれも可能なこと。 転移石はあのクエスト専用の譲渡不可アイテムのため必要不可欠だったのだろう。


「これでよし。 運営に報告したから後で迎えに来ると思うよ。 それで・・・?」


ロープを解くと今度は新久に向き直った。 当然だがゼットも隣にいて緊張している様子だ。


「話したいことがあるみたいだし、あっちで聞こうか」



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