NEW NPC⑨




「・・・でも出ると言ってもどうやって?」


とりあえずもう一度部屋全体を大きく周ってみることにした。 見落としがあるのかもしれないし、使えそうなものが見つかる可能性があるためだ。 

だがやはり元の場所まで戻っても出口は見つかりそうになかった。


―――やっぱりここから出るとしたら、さっきの監視室のような場所を通らないと駄目か・・・。


あまりやる気があるようには思えなかったが、脱走となれば話は変わるだろう。 ゲームに精通している新久には管理者側とプレイヤー側に越えられない力の差があることをよく知っている。 

ましてや自分は今ゲームのNPCなのだ。 客にあたるプレイヤーよりも立場は弱い。


―――逆にNPCだからこその強みがあったりしないかな?


脱出方法を考えていると近くから声がかかった。


「おーい」

「・・・」

「おいってばー!」

「・・・え? ぼ、いや、私?」


隣を見ると小さな男の子のNPCが立っていた。


「そうそう、君」

「え、君喋れるの?」

「うん。 君も意志があるっぽいから話しかけてみた」


―――・・・僕以外にもいるんだ、自分の意志を持つNPC。


自分は元々人間であるため意志を持っている。 となると彼も、そうは思うが分からなかった。 それに折角意思疎通を図れる相手だというのに、本当は人間だなどと言って水を差したくない。


「俺の名前はゼット。 君の名前は?」

「・・・クレア」

「クレア? もしかして姫様!? わー、凄ぇ! クレア姫、初めてみた!」


ゼットは目を輝かせている。


「ゼットも自分の意志があるから、ここへ連れてこられたの?」

「そうだよ。 俺は街にいる武器商人なんだ。 だけど武器って物凄く高いじゃん?」

「・・・まぁ」

「だからみんなの気持ちを考えて、値下げして武器を売っていたんだ。 そしたらプレイヤーが殺到してさぁ! 異変に気付いた警備員が、俺をバグ扱いして連行したっていうわけ」

「なるほど・・・」


頷いているとゼットが顔を覗き込んできた。


「姫様はここから出たいんでしょ? 俺も協力していい?」

「ゼットもここから出たいの?」

「うん、出たいんだ」


仲間ができるなら心強かった。


「ならお願いするよ」

「よかった! 俺さ、ここから抜け出せる唯一の場所を知っているんだよね」

「本当!?」


長くここにいることで色々と知っているのかもしれない。 部屋の隅、硬質で何もないただの壁に見えるが、近付いてみれば確かに薄っすらと境目の線が見えた。 

彼の話によると指令室から直通でここに来ることは稀で、壊れたNPCをまとめてここへ送る時に使われるらしい。


「ここへ辿り着いたNPCは自分の足で散らばっていくというんだね」

「そういうこと。 あと、NPCのバグが取り除かれ外の世界へ復帰するモノもここから通ることになる」

「バグが勝手に直ることは有り得るの?」

「稀にね。 運営としてはイベント中止期間が長いよりも、早めにプレイヤーに楽しんでもらいたいからバグ復帰のNPCを優先的に利用するんだ。 だけど二回バグ送りにされたらもう終わり」

「そうなんだ・・・」

「じゃあ、とっととここから出ようぜ」


二人は次のバグNPCが送られてくるのに合わせて入ることにした。 今まで一人で行かなかったのは、やはり不安だったためらしい。 協力者がいれば脱出も容易になる。 それは新久も同じ考えだった。 


「もう一度武器商人になるの?」

「いーや。 折角武器を持っているんだから、それ使って旅に出ようと思っているんだ」

「へぇ、確かに、それはいいかも。 ぼ、あ、私も何か武器を融通してもらおうかな?」

「おっけー! でも、クレア姫は筋力低そうだから短剣とかしか装備できなさそー」


そのような他愛のない話をしていると自分も彼と同じようにできるのではないかと思えてくる。 廃棄所は嫌だが現実世界にもまだ恐れはある。 ゲームの中で生きていけるのなら一番いいのだ。


「そう言えば、姫様も自分の意志が芽生えた理由でここへ来たのか?」

「あー、そうなんだけど、それは最初からというか・・・」

「ん?」


ゼットが首を傾げているため、真実を打ち明けることにした。 特に秘密にしている必要もないし、信頼は築いておきたい。


「僕、本当の中身は男なんだ。 元々は人間だった」

「人間ってマジで!? え、転生してきたのか?」

「いや、死んではいないから転生ではないと思うんだけど・・・」

「それでも凄いや! 人間とNPCが合体しているのは初めて見た!」


ゼットは興奮気味に目を輝かせていた。 怖がられたり軽蔑させられたりはしなかったため一安心した。 話していると光が見えてきた。


「あ、そろそろ出口だな」


出口に差しかかったその瞬間、一人の警備員の姿を確認した。 首にロープをかけたNPCを連れていて、まるで奴隷商人のようである。



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