NEW NPC⑧
落ちた先は瓦礫の山だった。 指令室のような場所と直通しているとは思えないため、特別に繋げたのだろう。 クレア姫の特性なのか落下の衝撃はほとんどない。
HPゲージが存在しないため痛みがないのかもしれない。
―――汚い場所・・・。
―――ここにいるモノは・・・?
辺りを見渡し嫌な気分になるのを抑えられなかった。 転がっているのは汚れたNPCや壊れたNPC。
―――バグ報告されたNPCか?
中には半透明になっているNPCや同じ言葉を連呼しているNPCもいた。 気味悪く思い彼らを避けて隅の方へ移動する。 そして自分の手を見つめた。
―――というか、僕って動けたんだな。
―――喋れた時も驚いた。
―――確かにNPCは同じことの繰り返しをしていればいい。
―――自分の意見を主張しなくてもいい。
―――だから楽な人生を送れるということは、分かっているんだけど・・・。
再びこの部屋を見渡した。
―――ここには会話相手になるモノすらいない。
―――・・・つまらない場所だ。
プレイヤーがいる外の世界ならよかった。 意思を持つ人を見て飽きることはない。 だがここにいるモノは全てコンピュータだ。 つまらなくなるのも当然だった。
―――一応、声をかけてみるか。
万が一のことがあるかもしれないと思い、近くにいるNPCに声をかけてみた。
「あの」
「・・・」
「ここにいるモノたちは、これからどうなるんですか?」
「・・・」
何も喋らない。 よく見るとどこかで見たことのある敵だった。
―――敵もバグでここに来ることがあるのか。
敵はそもそも喋ることができない。 おそらくこの敵はダメージを受けないとかが理由でここへ連れてこられたのだろう。
―――何の会話にもならないな。
近くには壁に向かって衝突し続けているNPCもいた。 障害物で反転するという動きを忘れているのだろう。 笑ってしまいそうになるが、今はそれどころではなかった。
―――こんなところにずっといても仕方がない。
逃げ出せるならそうしたいところだが、その方法に見当がつかない。 広大な空間を歩きしばらく観察を続けていると、明らかに壊れたNPCとは別種の存在がいた。
先程のロボットと似たような外見で、管理者側の人間なのかもしれない。
「・・・あの」
おそらくは階級のようなものがあると新久は考える。 先程のロボットとは明らかに待遇が違い、暇そうだ。
「何がご用で?」
「この後、ぼ・・・。 いえ、私はどうなるの?」
自分のことを“私”と言ったのは初めてで違和感があった。
「バグだと判断されたNPCはそのまま処分されるけど」
「じゃあ私の代わりとなるNPCは?」
「それは既に制作中」
「そしたらダンジョンは」
「出来上がるまで貴女関連のクエストは全て中止になる」
「・・・」
先程のロボットも言っていた。 ボタン一つで容易く生成、とはいかないのかもしれない。 NPCはリポップ属性を持っているが、その場合バグを持ったまま再度生成されてしまうのだと思った。
「最早壊れた貴女には関係ないことです。 新しい貴女が正常にクエストを進行するでしょう」
それだけを言ってロボットは面倒くさそうに奥に引っ込んでいった。
―――本当に僕はNPCのままでいいのか?
―――確かにNPCはコンピュータだ。
―――感情は持っていない。
―――だけどコンピュータも、一人の人間と変わりないんだよ。
―――もっと自分を主張してもいいと思う。
―――コンピュータに自我が芽生えたら、それは流石に駄目だと思うけど・・・。
―――僕はNPCじゃなくて、ちゃんとした人間だから。
日常の退屈さという不満を一瞬で生死が分かれる戦場で感じられる人間は少ない。 場所が変われば思想も変わる。 新久はここから出たいと思うようになっていた。
リアルに戻りたいかと言われれば頷くことはできないが、少なくともこの廃棄所にはいたくなかったのだ。
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