NEW NPC⑦
「姫様!?」
「おい、NPCが勝手に動いているぞ!」
「バグか? 誰か運営に報告した方がよくね?」
―――あぁ、なるほど、そのせいか・・・。
これだけ声が聞こえれば新久も自分が動いているせいだと察する。 だが今はNPCのフリをしている場合ではなかった。
ゲーム的に彼女の状態がどうなのかはあまりよく分からないが、HP残量がほとんどないことは分かる。
「HP回復薬がほしい」
ざわつく周りを無視し商売に励んでいる店主に言った。
「おう、どのくらいほしい?」
「とりあえず、これで買える分だけ」
彼女をその場に下ろしゴールドを手渡した。 先程の戦闘で敵が落としたゴールドを拾っておいたのだ。 ゲームにおいてモンスターから入手できる金銭は非常に少ない。 持っていないこともある。
基本的には素材を換金する場合が多いが、幸い人一人を回復する程度のゴールドは落としてくれていた。
―――店主もNPCで助かった。
―――彼女のHPは救えるのかもしれない。
周りが騒いでいるなど知らない店主は必要以上の言葉は言わず素直に薬を渡してくれた。 だがこれが本来のNPCの姿なのだ。 何らかの情報をもらえることもあるが、あくまで決まった範囲でのみ。
基本的には無駄なことはしない。
「ありがとう」
薬を受け取り早速彼女に回復薬を使った。 飲み干した瞬間、HPは一気に回復した。
―――・・・あれ、目を覚まさない?
―――相当ダメージを負ったのかな。
彼女の目覚めを待っているうちに周りが急に静かになった。 先程まであれ程騒いでいたというのに不可解だ。 嫌な予感を徐々に聞こえてくるサイレンの音が肯定する。
―――あ、この音・・・。
運営が用意したパトロールである。 不正行為や犯罪行為を取り締まる役割を持っているため、異常となる自分のところへ来たのだろう。 完全に新久めがけて歩いてくるのだから。
―――別に僕は捕まっても構わない。
―――だけどこの子は・・・。
警備が新久の前へ来て言った。
「NPCのバグの報告を受けました。 検査をするので付いてきてください」
「・・・」
もう一度眠っている彼女を見つめる。 サイレンの音があまりにも大きかったためか彼女は薄っすらと目を開けた。
「姫、様・・・?」
「・・・!」
疲れた表情をしているが小さな声で彼女はそう呟いた。
―――よかった、無事に目が覚めて。
―――これで安心して移動ができる。
「彼女を休めるところまで連れていってください」
そう言うと一人の警備が残り彼女を誘導してくれた。 それを見た新久は素直に連れていかれるがままとなった。 街外れから路地裏へと移動し、何もないであろう場所にポータルを出現させた。
当然だが新久はゲームプレイをしていて、そんなところに移動ポイントであるポータルを見かけたことはない。 運営側の特別なものなのだろう。
―――どこだ、ここ・・・?
―――ゲームの裏側?
連れてこられたのは薄暗い指令室のような場所だった。 何だかよく分からない計器類やモニターに頭が痛くなりそうな程大量なログが表示されている。
本来、不正行為をしたプレイヤーは有無を言わさず処罰される。 だがNPCになっている自分はそうではないらしい。
おそらくはバグの発生したNPCのみが入れる場所で、リアルで言うなら裁判所のようなところだ。
「連れてまいりました」
そう言って警備は資料を目の前にいる人物に手渡す。 おそらく運営側の人間なのだろう。 ロボットのような外見で千手観音のように手がいくつもあるデザインになっている。
このまま一人で手術でも始めそうな雰囲気だ。
―――報告書か。
だがそれ以上に気になったことがいくつかある。 まず部屋には壊れたNPCの残骸なのか、手や足が散らばっていた。 装備のようなものも破損状態で放置されている。
そして最も不快感を感じるのが、NPCであろう女性を四つん這いにさせ、その上に座っているということだ。
「なるほど。 自分の意思があるバグか・・・。 レアケースだね」
―――そりゃあ、レアケースだろうな。
―――コンピュータが自分の意思を持っていたら、ちょっと面白いかもしれないけど・・・。
「一応聞くけど、貴女の名前は?」
「新・・・。 いえ、クレア姫です」
「ふぅん。 染め行く紅クエストの救出対象NPCね。 助けられる存在がどうしてプレイヤーを助けた?」
「あのままだと死んでしまいそうだったからです」
「プレイヤーの命は無限大だけど?」
「彼女は一度ダンジョンをクリアしています。 だから死ぬ必要がないと思ったのです」
ロボットは書類に何かを記入しながら冷たく言い放った。
「自己意思の存在を確認。 修復不能なバグのため即廃棄処分。 該当クエストの一時閉鎖。 ん・・・? ログを見る限り戦闘も行っているね」
そう言いながらまるで嘗め回すように全身を観察される。 無機質で感情の一切分からない表情が逆に不気味だった。
「予定変更。 とりあえず一時的に・・・」
ロボットがそう言った瞬間だった。 まるで落とし穴に落ちるよう床が抜けたのだ。
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