NEW NPC⑥
「え・・・? 姫様!?」
突き飛ばされた女性は何が起きたのか分からない様子だったが、再度攻撃モーションに入った敵を見て理解したようだ。
だがNPCである姫がプレイヤーを助けることは普通有り得ないため、かなり驚いている。
―――敵が一気に増えたな・・・。
ただ今はそれどころではなかった。 物音を聞き付けてやってきたモンスターたちが攻撃の機会を窺っている。
「嘘、もう敵が復活したの・・・?」
モンスターのリポップは無限沸きに近い。 そのためボス戦前に収集品を置いておく場合、消耗後であることを考慮し安全な場所を選ぶ必要があるが、彼女はあまり気にしていないようだった。
それ以上に現在の危機であるモンスターに目が向いている。 新久は姫である自分がモンスターの攻撃を受けるのかどうか気にはなったが、実践する気にはなれなかった。
「また姫様を助けなきゃ!」
そう言って彼女はすぐさま剣を取り戦闘態勢をとった。 目の前に立たれ身動きが取れなくなった新久は再び見守ることにする。
―――動けるようになったのは驚いたな・・・。
―――NPCでも自分の意思を持つことができるのか?
戦闘に入った彼女を余所に、新久は自分の手をぼんやりと見つめる。 先程はできなかったが今は指先を自由自在に動かすことができていた。 だが話すことはできなかった。
彼女はお得意の薬で回復しながらの戦闘を繰り返している。
―――ボスでもない敵でもそんなに薬を使うのか。
―――相当な数を持ってきたんだな。
だが徐々に彼女のHPが減っていく。 プレイヤーのHPは誰からでも見えるようになっていて、それはNPCの新久も同じのようだ。
―――どうして回復薬を使わないんだ?
お得意の戦法はもはや見る影もなく、ダメージを食らっては逃げ回っている。 彼女の焦っている様子から新久はすぐに察した。
―――・・・もしかして薬切れ!?
このままだと彼女がやられてしまう。 これはただのゲームで、死んだとしても最初からダンジョンをやり直すだけ。 設定したセーブポイントでデスペナルティを受けて復活する。
―――だけど彼女は、一度このダンジョンをクリアしている。
―――ここでまた敵に襲われたことは、不運でしかない。
彼女の姫救助のクエストはほぼ完了している。 あとは役所に姫を届けるだけだった。
―――今まで彼女の頑張りを僕は見てきた。
―――だからここで、死なせたくない。
正直な話、先程助けに来たパーティーの一人ならそうは思わなかった。 一人でここへやってきて、大量の薬を使い、多大な時間をかけて自分を助けてくれたからそう思うのだ。
とはいえ、上手い手があるわけでもない。 どうしようかと考えていると目の前にいる彼女が突然跪いた。 彼女のHPはほぼゼロに近く“美白”という俗称で呼ばれる状態になっている。
―――マズいな。
―――・・・よし、こうなったら!
どうしても彼女を助けたい一心で新久は動き出した。 自分の身体に命令を出し彼女の剣を奪い取る。
「ひ、姫、様・・・? 一体、何をする気・・・?」
「・・・」
何か言葉を返してあげたかったが、自分にはできない。 彼女は力尽きてしまったのかそのまま眠ってしまった。
―――今のうちに終わらせてしまおう。
ここからは新久が代わりとなって敵を倒す。 もちろん姿は姫のままである。
―――身体が、重いッ・・・!
姫のドレス姿ということもあり戦闘には不向きだ。 それに剣自体は軽いだろうが、姫に筋力がないせいかとても重たく感じた。
ゲームには筋力のパラメータが存在するが、それが著しく低く設定されているのだろう。
―――動きにくいけど、これくらいならいける。
新久は元々このゲームが得意なのだ。 目の前にいる敵がどんな攻撃をしてきてどう動くのか知り尽くしている。 だからどんなハンデがあれこの状況を突破することができる。
―――・・・と、思うッ!
正直な話、新久が使っているキャラクターとはレベルがまるで違う。 装備もお粗末。 ソロ戦闘においてのセオリーである敵に囲まれないという状況も既に崩れている。
それでもここで負ければ彼女もろとも光の粒となり消滅してしまうだろう。 そしてNPCになった新久にセーブポイントで復活する保証はない。 絶対に負けるわけにはいかなかった。
「うぉぉッ!」
姫であることなど忘れ剣を振り回した。 本来負けてもおかしくない戦力の開き。 だが姫に設定された能力なのか、敵の攻撃がほとんど当たらない。 気付けば簡単にモンスターたちを地に伏せていた。
―――きっとボスも復活しているんだろうな。
―――さっさとこのダンジョンから出て、安全な場所へ行こう。
そう思い彼女を担いだ。 彼女はぐったりとしているせいでとても重かった。 多少引きずりながらも最上階を目指した。
「ん・・・」
向かっている途中で彼女が目を覚ました。 姫である自分を驚いたように見つめている。
「姫様、どうして・・・」
不安気な彼女にかける言葉はあっても話すことはできない。 だがそれでも気休めのつもりで声をかけたつもりだった。
「体力がないんだろう? そのまま眠っていればいいさ」
―――・・・え?
自分でも声が出たことに驚いた。 まさか出るとは思っていなかったのだ。 彼女はその言葉に安心したのか再び目を瞑り眠ってしまった。
―――・・・NPCが自分の意思を示せるって、いいのか?
そのような疑問を抱きつつボスを何とかかわしダンジョンから出ることができた。 役所へ行く前に街にある薬屋へ。 そこへ向かおうとすると周囲の異変に気付いた。
―――・・・何だ?
新久自身では分からないことだが、自身の姿は救出されるはずの姫でNPC。 それがプレイヤーであろう女性を担ぎ、自分の足で歩いている。 通常有り得ない光景が新久以外の目には映っていたのだ。
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