プロファイラーX

朽木桜斎

わたしのプロファイルに失敗はありません

 そのように告げ、冪丸奈緒子べきまる なおこのプロファイルは始まった。


「しかし冪丸さん、被害者は脳梗塞による自然死だと鑑識が……」


 中川愛美なかがわ あいみ刑事が語りかけが――


「いえ、中川刑事、犯人はそうなるように・・・・・・・『誘導』したのです」


 冪丸プロファイラーはそうさえぎった。


「誘導とはどういうことかね? 冪丸くん」


 深堀克郎ふかぼり かつろう警部はいぶかっている。


「犯人は被害者が、5年前に一度、軽度の脳梗塞に罹患していたことを知っている人物です。そしてやはり、被害者が平素から塩分濃度の極めて高い食事を好んでいたことも」


「なんですって!?」


「それは本当かね!?」


 中川刑事と深堀警部は同様に驚いた。


「わたしのプロファイルに間違いはございません。失敗などないのです。警部、すぐにでも被害者に近しい人物から洗うのが英断かと」


「わ、わかった! 中川くん、頼む!」


「はい、警部!」


 そのとき、鑑識官の恒田浩一つねだ こういちが、三人のところへ走ってきた。


「警部、新たな事実が判明しました!」


「恒田くん、それはいったい?」


「被害者が好んでいた秋田県産のいぶりがっこの中に、健康な成人でも危険なレベルの塩分濃度を含むパックが混ざりこんでいたようです!」


「では、やはり犯人が!?」


 中川刑事は声を荒げた。


「いえ、それが……」


「なんだね? はっきり言いたまえ!」


 深堀警部は恒田鑑識官に詰め寄った。


「それが、そのいぶりがっこのメーカーであるジャッパッパ・フーズに、たまたまマッチング・アプリで一日だけバイトに来ていた手枕草礼たまくら くされいという少年が、製品に加工をする際、使用する食塩の分量を間違えてしまったようです。ちなみに手枕少年は、バイトの休憩時間に、カセカケミミズに放尿したところ、局部が激しい炎症を起こし、現在も地元の総合病院の泌尿器科に入院中とのことです。使い物にならなくなったという理由から、現在、ジャッパッパ・フーズに対し、労災保険の給付を求めるための民事提訴を申請中だそうです。ジャッパッパ・フーズの当該商品を購入した複数の被害者からも提訴され、ジャッパッパ・フーズは現在、民事再生法に基づく破産手続を申請中とのことです。ジャッパッパ・フーズの工場管轄責任者である邪魔子一平じゃまこ いっぺい氏はパリへと逃亡、現在現地の友人である西村なにがし氏のもとに潜伏している様子です。現地はパリ第六警察本部長であるジェラール・ド・パルデュウ氏は、厳重な警戒態勢を敷いて両名の確保に全力を挙げている模様であり、事を重く見たフランスはマルセル・マルシャン大統領はケーブル・テレビを通じて緊急記者会見、メインMCであるジノ・キレジノ氏は、家庭内の不和をかかえる中での重要な任務に体調に異変を来たしており、その原因は日本食を愛好する妻、イボンヌ氏の購入した当該ジャッパッパ・フーズのいぶりがっこなのであります」


 このように恒田鑑識官は、とくとくと語った。


 深堀警部は話を聞き終わったあと、深いため息をついた。


「よ~く、わかった。つまりこういうことだ、失敗はもちろんあったし、その原因は、しょっぱいだったわけだな」


 中川刑事は静かに拍手をした。


「警部、座布団10枚です」


 二人は背中もさびしく現場を去った。


「……」


 数日後、冪丸プロファイラーの自宅マンションに、ジャッパッパ・フーズ製のいぶりがっこが郵送された。


 差出人は警視庁の広報課、同梱のポストイットにはこう書かれていた。


「餞別」


(完)

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プロファイラーX 朽木桜斎 @Ohsai_Kuchiki

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