1- 5 再び逃走する姫

 「さすが、大陸一」

 オローリン姫は、侍女セキの周りにひれ伏した人々を見て呟いた。本来ならば、自分の身分の方がはるかに高いのであるが、オローリン姫はそういうことを全然気にしない人だった。そのために巷の人気投票では「親しみやすさ」ナンバー1だったが、権威には欠けまくっていた。

 「そこは、セキに権威がありまくりだから、いいんじゃないの」

 オローリン姫の口癖だった。

 「代わりにセキがやっておいて。私は、新しいリスの巣穴を見に行くので忙しい」

 常日頃のオローリン姫の態度であった。もちろん、リスの巣穴は、王宮植物園の100年に一度しか花をつけない植物であったり、大雨で崩れた土手に代わったりしたが。

 

 「セキ様!」「セキ様!!」「我が家の娘にお恵みを」

 侍女セキは、跪いていた人たちが自分に手を伸ばしてくるので、使役獣を操って少し高く舞い上がった。セキは、その美貌、見識の高さ、立ち居振る舞いの優雅さゆえに、全国の女性や娘を持つ親たちに崇められ、触れればご利益のある像のように扱われているのだ。

 「みなさん、お下がりになって」

 セキは、少し戸惑いながら、使役獣ごと空中で後ろへ下がった。

 (セキは、パレード以外で王宮の外へ出たことないんだ)

 オローリン姫は、セキの態度を見て気がついた。パレードは衛兵たちにしっかり警護されているし、沿道は綱で仕切られ、人々は行列を遠く望むだけである。

 (これはチャンス)

 オローリン姫は、戸惑うセキを尻目に、そっとチャロナの手綱を握った。同時に、ちゃロナは低空を滑るように走り出した。

 (私のお婿さん!)

 オローリン姫を乗せたチャロナは、王都郊外の森へ一目散にすっ飛んで行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガールミーツボーイ~お姫様はそれから旅に出た~ 日向 諒 @kazenichiruhanatatibanawo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る