第5話眼鏡
ゴールデンウィークに入り2日目。
今日は予定通り遊ぶ日。
待ち合わせは自転車で15分くらいした有の住む街では大きい方の駅。朝の11時に集合。
その後ご飯を食べて、それからはボウリングしたり、カラオケしたり、色々できるスポーチャに行くことになっている。
有は母に借りた電動自転車を漕いで向かう。
さすがゴールデンウィーク。
見えてきた時にははたくさんの人が駅前いることが確認できる。
子供連れの親子に、カップル、学生にスーツを着た社会人らしき人。
その中に見覚えのある顔と見覚えのない顔がある。
その見覚えのある顔の方はこっちに気づいたのか、手を振って「おーい」と言っている。
有は駆け足で向かっていくともうそこにはみんな揃っているようだった。
手を振っていた蓮が有が来るなり「おそーい」と言うので、特別遅れているという自覚はないがとりあえず謝っておく。
「で、そちらの方は?」
有は見覚えのある顔の中に見覚えのない顔を見つけ、凪咲に聞いた。
「うん。言ってた友達」
そう言うとその友達は
「
と言い、ぺこりと頭を下げた。
聞くには隣のクラスの子らしい。もちろん有も連も初めましてだが、琉生は1年生の頃に同じクラスだったらしく、知っていたらしい。
それでもあまり接点はなく、あくまで顔見知り程度ということだったが。
矢部愛子という少女はお世辞にも明るそうな子とは言えない。どちらかといえば教室の隅でポツンと本でも読んでいそうな感じ。
眼鏡をかけて、髪をおろし、典型的な言うなれば、陰キャだった。
それがどうして陽キャの凪咲といるのか、これもまた、彼女の人脈の幅広さというのか。
素直に凄いと思う。
「とりあえずご飯行こうか」
蓮が一言言うとみんなも頷いて、予定通りまずはご飯に行くことになった。
「何食べるー?」
美咲が携帯で近くのレストランを探しつつ言う。
「ラーメン?」
凪咲が言った。
なんだか凪咲らしくないというか、イメージにない提案だったので驚きはしたが、なんだかんだお昼をラーメンにすることは多いので、賛成しておくことにした。
「凪咲、でもこの後運動だよ?ラーメン食べたら吐いちゃうよ」
美咲が凪咲に言う。
確かにラーメンを食べて運動はなかなかにしんどい。
「安定のファミレスかなー?」
蓮が携帯をみんなに見せて言う。
駅から徒歩5分くらいのイタリアンファミリーレストランだ。
有も何度か行ったことがある場所だった。
「うん。その方がいいと思う」
愛子が賛成すると琉生も「俺も賛成」と一言。
結局、みんなでファミレスに行くことになった。
「何食べるー?」
「チキン!」
「とりあえずドリンクバーする人」
「ピザ」
「ドリア」
「ミートスパゲティがいいです」
それぞれ思い思いメニューを見てざっと注文するものを決めた。
ドリンクバーを混ぜたり、食べ物をシェアし合ったり、とてつもなく高校生活をエンジョイしている感じがする。
凪咲が写真を取ってSNSに上げたり、それに今いるみんなでわざわざ目の前にいる凪咲の投稿にイイネを押す。
そして、ご飯を食べた後は電車に乗ってスポーチャに向かう。
さすがゴールデンウィーク。
スポーチャも混んでいる。
学生がかなり多い印象だ。中学生くらいから高校生が特に多い。
ロッカーに荷物を預け、とりあえず何から行こうかと話し合う。
「バスケ行く?」
蓮が言う。
「蓮が無双しそう」
バスケ部の蓮が無双する未来は想像するに固くない。
「俺もバスケしたいなー」
琉生が言った。
「俺はバレーがいい」
有はバレーが好きだったのでバレーを推していく。
「女子は?」
蓮が言うとみんな、なんでもいいよーと、言う事だったのでとりあえずバスケをしに屋上へ向かった。
屋上にはバレー、バスケ、フリスビー、バドミントン、テニス、サッカー、バッティングなど様々な球技中心に楽しむことが出来る。
それ故にかなり人気な場所でもあり、バスケットコートは案の定、先客がいて10分ほど待たないと行けなかった。
「テニス、したいなー」
有はポツリと呟いた。
バスケコートの前にあるテニスコートから人が出ていき、今誰も使っていなかった。
「ちょっと、行きます?」
愛子が言う。
「ほんと?」
「はい、私、中学生の時テニス部だったので」
そう言うと彼女は眼鏡を外し、髪を後ろで括った。
それだけ、それだけでガラリとイメージが変わった。
眼鏡を外し、髪を括った彼女はいかにもスポーツ少女という感じであり、清楚、可愛い。そんな印象。
括った時に見えるうなじに釘付けになっていると
「やります?」
と一言。
「うん。やろうか」
有はテニスコートに入っていった。
何を隠そう、有も中学生の時はテニス部だった。ソフトテニスではあったが、市大会程度は優勝していることもあり、それなりに自信があった。
とりあえず硬式の球でラリーを始めた。
パコンっ、パコンっ、と球を打つ音が響く。
軟式とは違う感覚に戸惑いながらもラリーを続ける。
「テニスやったことあるんですか?」
愛子が向こうのコートから聞いてくる。
「うん。ソフトテニスだけど」
有は答えた。
「そうですよね。上手いと思いました」
上手いと言われて少し照れる。
「じゃあ、そろそろ」
そう彼女が言ったと思えば強烈な球が飛んでくる。
縦回転で1度バウンドした途端グッと伸びるボールに戸惑いながらも何とか返す。
それからはラリーというより、試合のように2人はうちあった。
「お二人さん!白熱してるとこ悪いけど、バスケ開きましたよ?」
琉生がコートの外から言っている。
2人は打つのをやめて、コートを出た。
「ふーっ、いい運動になりました。久しぶりのテニス、楽しかったですよ」
愛子はそう言うと細い腕で汗を拭った。
細い腕ではあったが、確かに筋肉の付いた腕だった。
その、汗のかいた愛子の姿はとても清楚なのにどこかドキドキする、いやらしさのない色気があって、それでいて運動によって少し赤らんだ顔がこれまた可愛いものだった。
これが眼鏡をギャップと言うやつなのかと思いながらバスケコートに入った。
隣の席のあの子は誰にでも優しい。 @MARONN1387924
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。隣の席のあの子は誰にでも優しい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます