目覚めたら異世界転移していた!?ー16歳、異世界生活始めました

白猫

第1話

目が覚めると、そこは見覚えの無い森の中だった。

広い森には金色の木漏れ日が差している。

葉越しに差す無数の細かい光の線が集まり、そして金色の木漏れ日となっている。

「……私、森で寝た覚え無いんだけど」

小鳥の鳴き声さえ聞こえない静かな森で1人呟く。

もちろんこの呟きに答える者はいない。

辺りを見渡すが、建物はもちろん,人や動物も見当たらない。

何処かに何か無いものかと森の中を歩き回る。

しかし、どうにもおかしい。

昨日の夜はいつも通り自室のベットで寝たはずだ。

それが、何がどうなったらこんな森の中で目覚めるのだろうか。

「…夢なのでは」

そう思うのも当然だ。

寝て起きたらいきなり見知らぬ森に、なんてそんなアニメのようなことがあり得るのだろうか。

これは夢に違いない。

「それにしても……」

なんでこんな何の変哲も無い森に?

せっかくの夢なんだから、非現実的なとびきり楽しい異世界に行かせてよ…

異世界好きの少女,アムールからすると、異世界で自由気ままに旅する夢でも見たいものだ。

「にしても、本当に何も無いなぁ」

歩い続けてはや10分。

いや,あくまで体感なので正確には何分経過したのか分からないが、だいぶ歩いたことに変わりは無い。

どうやら夢の中では体力が減らないようで,体の疲労は一切無い。

起きている間は行きの坂でふくらはぎが悲鳴を上げ,階段で固いスリッパを履いた足の裏が悲鳴を上げ,体育の授業で身体中が悲鳴を上げ,帰りの坂では実際に悲鳴を上げている。

留まることを知らない疲労パラダイス。

そう考えると夢の中の世界は便利なものだ。

「よいしょと」

腰までの長い白髪を風に揺らし、その場にあった切り株に腰を掛ける。

1つ小さなため息を吐いた後、灰がかった黒い瞳で空を見上げた。

青々と茂る木々の葉と、その隙間からわずかに覗く青い空に訳も無く手を伸ばす。

「悪くないかも」

誰もいないし何も無い,そんな退屈な場所だけど、この静けさが案外心地の良いものだ。

せめて小鳥の囀りくらいは聞きたいんだけど…

心地は良いのだが、あまりにもシンとしていて少し寂しい気もする。 

静寂に包まれた森を見渡し、ふと小さく呟く。

「…夢なら覚めて欲しくないかなぁ」

切り株の上、だらしなく垂れた足をパタパタと揺らす。

夢が覚めたらまた日々が始まってしまう。

そうしたら私はまた……

「たーすーけーてー!」

「!?」

そんな事を考えていると、近くの茂みからそんな叫び声が聞こえた。

切り株から飛び降り、忍び足で声の元へ行く。

茂みから少し覗くと、そこにはツタに絡まって木に垂れ下がる紺色の髪の少年がいた。

「…何やってるんですか?」

風に揺られてユラユラと垂れ下がる少年の姿につい笑ってしまう。

「笑ってないで助けてよーツタに絡まったのー」

少年は風に揺られながら焦る様子も無く、呑気な口調で話している。

「どういう状況ですか…」

助けてって言われてもどうすればいいのか…

少年が絡まっているツタはかなり高い位置にある。

私の身長じゃとてもに届かない。

とはいえ、木の上に登り,ツタをちぎったりしたものなら、少年は落下して怪我を負ってしまう。

「んー…」

何か良い方法は……

暫くの間考えた結果、

「あ、これ夢だから落ちても痛くないじゃん」

という結論が出た。

まず夢の中に何故見知らぬ少年が出てきたのかは謎だが、それはとりあえず置いておこう。

「多少痛いけど我慢してくださいねー」

ひょいひょいと慣れた様子で大きな木に登る。

「えいっ」

木の枝ギリギリの所まで行き、ツタをちぎろうとする。

「え」

思っていたよりもツタが丈夫でなかなかちぎれそうにない。

「むぅ…なかなかちぎれない……」

「ねー、まだー?」

垂れ下がった少年がはやくはやくー、と急かす。

「頼む人の態度ですかそれ…!!」

イラッとして無意識に力を入れてしまったようで、先程までなかなかちぎれなかったツタがいとも簡単にちぎれた。

「いったぁ…!」

少年は地面に尻もちをついている。

「大丈夫ですか?」

「いや、ちぎったの君……」

「?身に覚えが無いです」

木から降りて手に付いた木の粉を払い、少年の前に立つ。

「手かします。立ってください」

少年に手を差し伸べる。

「ありがとー」

少年はいたたた、と腰を押さえながら立った。

そういえばこの少年、何故私の夢の中に現れたのだろうか。

落下した時に思いきり打ちつけた腰を癒やすようにぽんぽんと軽く叩いている少年を横目で見やる。

思ってたよりも背高いな……

「…それで、何故私の夢の中に?」

少年に問う。

知らない人が出てくる夢はなかなか見ないので不思議だ。

何か暗示のようなものがあるのだろうか。

「…?夢じゃないよ?」

「はい?」

「だって、ここ異世界だもん」

…この少年、今なんと?

「…もう一度言ってください」

「だーかーらー」

少年が一息分の間を開け、口を開く。

「ここ、異世界だってば。夢じゃないよ?」

ニコッと笑い、少年はそんな事を言った。

相変わらず呑気な態度でケロリと。

そっかぁ、ここ異世界だったのかー

……じゃ無くて、

「うぇぇ!!?」


そんな間抜けな声が早朝の森に響いたのであった。





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