第17話 王太子の幼馴染、兼乳兄弟
シェスターと毎日勉強をしていたお陰で、私の学力はどんどんと向上して行った。
あれから3年。弟たちもすっかり大きくなって、だいぶおしゃべりにもなってきた。
授業の間中私を独占するシェスターに、それが面白くないのか、片時もそばを離れようとはせず、ちょっかいを出してくる弟たち。
私の勉強は、将来デイビッド王太子とともに、弟たちに何かがあった時、一緒に守れるようにする為のものだから、単に学園に通える学力があればよいというものでもない。
トラブルがあって万が一授業に参加出来なかったとしても、ついていかれるように、先取りして勉強をする為の下地作りなのよ。
つまり弟たちの為の勉強なのだ。だから邪魔しないでちょうだい、と追い出した。
何より、かまってちゃんのシェスターが、弟たちと遊ぼうとして授業にならなくなる。
そしたら今度は、じゃあ僕たちも一緒の勉強する! と言い出した。
あんたたち、まだ文字も書けないでしょ。
弟たちには一緒に授業を受けるのは、無理だってことを説明した。
私は同年代の子たちよりも進んだ勉強をしてるのだ。加えて弟たちは2つも年下。
一緒の内容なんて受けられる筈もない。
つまり弟たちにはまだ早い! と言ったんだけど。すると弟たちはこう反論した。
「僕たちは大きくなったら、姉さまと同じ学年で学校に通うんでしょう?なら今から勉強するのは必要なことじゃないですか。」
とな。これが3歳の言葉ですか。
「確かに、これだけはっきり話せるのなら、そろそろ勉強を始めてもいい頃かもね。」
とシェスターが言った。
シェスターが王宮に、弟たちに受けさせる授業の前倒しを打診することになったの。
そこでついに、弟たちにもシェスターの授業を受けさせようという話になったんだ。
まず、授業を受けるのは、私とシェスターの勉強の時だけ。
私は今まで通りの授業を。弟たちは基礎の文字の読み書きからを習わせることに。
つまりは、個別指導塾のやり方よね。1人の先生が、別学年の生徒、または同学年であれば、別々の教科を受け持つっていう。
そうすることで、片方の出来が良かったとしても、もう片方が凹むことがないように、生徒に配慮するやり方だ。
それ以外の時間は自習。教わったことがきちんと出来るようになったら、もっと授業の数を増やす、ということになった。
費用は当然王宮持ちだ。学園に入ってちゃんと人と暮らせるのがわかれば、“魔王”の弟が教会に取られることはない。
その為にアラン国王が考えてくれたこと。
だから、弟たちにも授業を受けさせることに、両親からの反対意見は出なかった。
でもこれからは授業の間中、弟たちの相手をしなくて済むと思うと、本当に嬉しいわ。
正直集中出来なくて困ってたんだよね。
これでようやく静かになるわね!
あの2人ったら、まるで鳥のひなのように、私の後ろを付いて回ってたからね。そんなこんなで授業が始まったたんだけど……。
私の授業内容が気になったのか、私とシェスターだけがわかることを話しているのが面白くないのか、同じことをやりたがるのだ。
私は特別頭がいいほうじゃないし、弟たちならすぐに追いつけるでしょうに。最終的にそうなるのが目標なんだから、何も今から同じことを無理にしなくたっていいのに。
あんたたちが頑張って、お姉ちゃんと同じ勉強が出来るように今から頑張りなさい、すぐに一緒の勉強が出来るようになるわ、と弟たちを説得するはめになったのだった。
なんとか弟たちに納得してもらって、シェスターの授業を受けてもらうことになった。
まぁシェスターの授業は楽しいようで、すぐに夢中になったようだけど……。
「やあ、頑張っているようだね。」
そこに、ひょっこりとデイビッド王太子が窓から顔を出す。いや、だからなんで窓?
うちにはちゃんと玄関があるのに、どうして我が家に尋ねてくる人は、私の部屋の窓から顔を出すのが好きなんだろうか。
というか、デイビッド王太子が後ろに連れている、常に目隠しの金髪ボブカットの男の子。ひょっとして……。
「今日は僕の幼馴染も一緒でね。
紹介するよ、リバティ・サンダースだ。」
やっぱり!1.5期の追加攻略対象者だ!
おそらく幼馴染で乳兄弟のリバティを連れて来ることで、公式訪問ではない、気楽なプライベートを演出してくれているのね。
これが将来あの声で話すのよねえ……。
大きくなってからの見た目にも合ってないけど、今の年齢だと更にそうね。
どうにかして、あの秘密の前髪の向こうが見れないものかしら。実はイケメン、っていう可能性をファンは囁いていたけど、一度も顔が見られるシーンがなかったのよね。
私がリバティの顔を覗き込んでいると、恥ずかしそうにリバティに顔をそらされた。
ちっ、気付かれたか。
「僕の専属家庭教師だったシェスターを、君たちに取られてしまったからね。
シェスターの様子を見に来たんだ。」
そういえばそうよね。もともとデイビッド王太子の専属家庭教師って設定で出て来たキャラだもの。デイビッド王太子と仲が良いキャラなのに、絡む機会が減っちゃったよね。
それに私たちの専属にしちゃったら、将来シェスターの出番が減っちゃうかも。
うーん、それはまずいわ。原作改変は、ファンとしては望まないところよ。
「えー?それなら、デイビッド王太子も、一緒に授業を受けたらいいんじゃないか?
3人教えるのも、5人教えるのも、俺からしたら別に変わらないしな!」
デイビッド王太子相手にも、この態度なのよねシェスター。乙女ゲーの中であれば、キャラの区別付けの為に、話し方の特徴があるのは致し方ないところではあるのだけれど。
実際目の前で聞くと、違和感凄いわね。
王太子相手にこの態度って。
「ご家族に、ご迷惑じゃないのかな……。
僕が頻繁におうちに来るというのも。」
デイビッド王太子は、そこのところを気にしているみたいだ。
王太子が平民の家に頻繁に遊びに来るなんてこと、ありえないものね。
遊びにじゃなくたって、ありえないわよ。
だけどそこは空気を読まない、楽しいこと大好きなシェスター・マイシオ。
「なら、平民の格好をして来たらいいんじゃね?変装するとか?友だちの家に遊びに来るのは、別におかしなことじゃないっしょ!」
「変装……。それは面白そうだな。」
デイビッド王太子、まさかの乗り気?
「俺の服を貸しますよ、デイビッド。
それなら違和感ない筈だから。」
リバティも、そういう提案をしない!
「僕らは反対です。女の子の家に、男の子がゾロゾロやってくるとか、外聞が悪い。」
ツン、とそっぽを向く“勇者”の弟。
「お前らの友だちならおかしくねーじゃん。
近所に年齢の近い男の子どもがいないんだから、年の離れた男友だちがいたって、なんの不思議もないさ。」
まあ、そう言われるとそうなのよね。
「なにより勉強嫌いのデイビッド王太子が、ここでなら勉強するっていうのなら、家庭教師としてこれ以上のことはないからな。」
そう言えば、義務だからやっているけど、勉強は嫌いとかシェスターが言ってたわね。
学年トップのキャラなのに、ほんと意外。
「む……。ま、まあ、そうだな。環境が変わると、気持ちも変わるというところか。何より1人で黙々と勉強するのは退屈なのだ。誰かと一緒にやれるというのは興味深い。」
それなら、リバティと一緒に王宮でやっても良さそうなものだけれど、それはまた違うのかしらね。王宮は堅苦しそうだしね。
「護衛は、どっか離れたところから見守ってるんです?」
「ああ、目立つので隠れてもらっている。」
あ、やっぱり来てるんだ、護衛。
「なら、一緒にやろうぜ?
お前たちもいいだろ?歴史なら、デイビッドが教えられるレベルだからな、家庭教師がタダで2人に増えるようなもんだぜ。」
「あ……。語学は俺が教えられますよ。
将来通訳目指してるんで。」
と、リバティが手をあげる。
そんなわけで、デイビッド王太子とリバティは、復習がてら歴史と語学を私と弟たちに教えてくれて、それ以外をシェスターが私たちに教えてくれることとなった。
……というか、1教科とはいえ、2人とも人に完璧に教えられるくらい、5歳で極めてるってどういうことよ。さすが攻略対象者。
それからというもの、ちょっとした息抜きにでもなっているのか、デイビッド王太子は連日我が家にリバティを伴ってやって来た。
リバティの服を借りて嬉しそうに変装しているんだけど、生まれ持った王太子の品とでもいうのかな。姿勢の良さといい、立ち振舞といい、どう見ても貴族の子息のお忍びだ。
まったくもって隠しきれてなくて、うちの弟たちに貴族のお坊っちゃんの友人が出来たようだという、ご近所の噂になっていた。
一応私もいるんだけど……。
私目当てだとは、少しも話題にのぼらないのは、嬉しいやら悲しいやら……。
デイビッド王太子の為には、そんなことには1ミリもならないほうが、いいに決まってはいるから、まあいいけどね。
それをいちいち覗きに来るような、小さい子どもが少ないことが、唯一の救いかなあ。
赤ん坊と、遠巻きに見てるような少し大きい子たちと、あとは大人と老人しかいない。
平民からすると、貴族なんてヘタに関わっていいことなんてないから、むしろ大人たちは心配してくれているみたいだ。
万が一貴族のお坊ちゃんに怪我でもさせたら、大問題だからね。子どもたちが近付かないように気を配っておくと、お父さんたちに話しているのをこの間ちらっと聞いた。
王太子の顔なんて、見たことないもんね。
だからバレないわけだけど、これで王太子だと知られたら、ご近所さんがもう近付いてこなくなっちゃうかも知れないね。うん。
デイビッド王太子とリバティが来てからというもの、静かに勉強出来る環境がむしろととのった気がする。
ただ、弟たちのヤキモチは相変わらずで、というか赤ちゃんの時以上というか。デイビッド王太子が、ここに来ていることをセイランに知られてしまった話をした時なんて。
「姉君と会っていることを、セイランに知られたら、泣かれてしまってね……。
僕ばっかりズルいと。セイランはあの泉から出られないから……。」
そうね。聖獣の泉の聖獣だものね。
「近々、聖獣の泉に、セイランを尋ねてやっては貰えないだろうか。セイランもかなり君に会いたがっているようだから。」
「はい、もちろん構いませんよ。
セイランは大切な聖獣ですもんね。聖獣の機嫌を損ねないのも、王家の大切な役目のひとつだと、以前伺ったことがあります。」
と、うっかり言ってしまう。まあ、私が知ったのはゲームの中で、なんだけどね。普通の平民はそんなこと知らないもの。
誰から聞いたのか、普通そんなことは知らない筈だ、とはデイビッド王太子は言わなかった。デイビッド王太子も、誰がどこまでそれを知っているのか、知らないのかも?
「それ、俺たちもついて行かせてもらう。
聖獣だかなんだか知らないけど、こんな幼い女の子に会いたがる成人男性なんて、まともだとは思えない。許可しかねる。」
と“魔王”の弟が言い出せば、
「そうだね、王家の依頼だから断れないのは仕方がないけど、会うのは最低限僕たちの目の届くところにしてもらわないと。」
と“勇者”の弟が同調する。
ねえ、君たちまだ3歳よね?
私と違って転生者とかじゃないのよね?
ずいぶんとはっきり話し過ぎじゃない?
「わかった。お父さまに相談してみよう。」
デイビッド王太子がそう請け負って、最終的に弟たちも連れて、聖獣の泉に訪問することになったのだった。
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間あきまして申し訳アリません。
久々の更新です。
ブックマークを外さずにいらしていただいた皆様、ありがとうございます。
また時間を見つけて書いていきますのでよろしくお願いいたします。
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魔王にも勇者にも致しません!〜双子の弟が何故か魔王と勇者だった私の平凡な筈の毎日〜 陰陽 @2145675
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