世界編
(1)歴史
『不吉の半妖精は女神の剣を手に運命を改変する』の物語で語られるのは、もっぱら『大陸暦』と呼ばれる時代の話である。それ以前の歴史については、大きく三つの時代に分けることができる。『封印』の時代と、『帝国』の時代、そして『浮遊大陸』の時代である。
◯『封印』の時代
『封印』の時代、正確には『神々の封印』時代についての史料は殆ど残っていない。断片的な情報を総括するに、この世界そのものである十柱の神とその下位神である『御使い』が、強い力を持って『命ある者』たちに影響力を行使し、導いていたようだ。その後、神々は己の支配する精霊界に帰り、『御使い』たちは、ある者は自分の上位神に付き従い、またある者は自らの身を封印し、あるいは何者かに封印されたりしていった。
◯『帝国』の時代
『帝国』の時代は、魔術的テクノロジーが隆盛を極めた。人々は快適さを求め、『魔導器』と呼ばれる様々な道具が開発された。空調や照明、調理器具など、『魔導器』は限られた特権階級だけでなく、庶民階級まで幅広く利用されていた。
テクノロジーの最先端にあるもの――大抵の場合それは兵器である。この時代に、『大陸暦』を生きる者たちには想像もつかないような強力かつ凄惨な兵器がいくつも開発された。
◯『浮遊大陸』の時代
『帝国』の時代は、過剰な快適さを求めた『魔導器』と、恐るべき破壊力を持った兵器を用いた戦の時代とも言えた。それらは、物理魔法の力の源である『界子』の極端な偏在や、精霊の顕現数の減少など、深刻な魔法的汚染をもたらした。
生命界における精霊力や魔力の歪みを憂えた妖精達は、せめて戦だけでも避けようと、思想に同調した人間たちとも団結して持てる能力や資源、技術を出し合い、戦や過剰な物欲から切り離された楽園を作ることを計画した。現在の東エトラルカ大陸にあたる陸地を空に浮かべ、交流を遮断し、外界と隔絶された世界を築いた。それは妖精たちの拒絶と不干渉を表したものだったが、下界に残された者たちにとっては、脅威としてとらえられた。
地上の民は宙に浮かぶ脅威に対抗すべく、あらゆる犠牲を厭わずに技術開発を押し進めた。そして彼らは、物理魔法で浮遊する大陸を完成させた。現在の西エトラルカ大陸である。
さらに熾烈な戦が始まった。
○『大陸暦』の時代
浮遊大陸同士の戦争は、双方の墜落という形で終焉を迎えた。落下したのではなく、浮遊状態を保てなくなり徐々に高度を下げていった為、浮遊大陸の民にさほど死者が出なかったのは幸いだった。
だが、着水の海面変化によって、落下点の近くにあった島国、シージィ帝国は大津波に襲われ、沿岸部は壊滅的な被害を出した。また、シージィ帝国とエトラルカ大陸との間にある海には、「神の大渦」と呼ばれる巨大な渦潮が発生するようになった。
『半妖精』の世界を歩く 近藤銀竹 @-459fahrenheit
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